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医者、IT役員…ハイスペック男との婚活で気付いた、私がお姫様になれない理由

結婚相手を探すとき、相手の年収や肩書は気になりますか? ライターの神山園子さん(28歳)は最近、婚活をする中で、誰もがうらやむ立派な肩書をもった「ハイスペック男性」と出会う機会があったそうです。一見、ラッキーな展開とも思えますが、事はそう単純ではないようで…ハイスペ男との恋愛に立ちふさがった高い壁について、詳しく綴ってもらいました。

最近婚活に本腰を入れ始めた。友人の紹介、アプリ、結婚紹介所……全てを駆使して出会いの場を積極的に設けている。特にアプリや紹介所は色々と条件を設定できるためか、つい年収1000万以上とか、医者、弁護士…など、年収や肩書、いわゆる「スペック」に目がいく。

候補にあがってくる男性の年収は400〜600万が最も多く、次は600〜800万円。それ以上ともなると一気に選択肢が狭まる。そういった男性は人気のため、膨大ないいね!をさばき切れないのか、なかなか会うところまで至らない。そんななか、私でも会えたハイスペック男性が2人いた。

「絶対後悔させない」と豪語する医者と会ってみると…

1人目はアプリで出会った32歳の医者だった。一度は医者と付き合ってみたいという好奇心でプロフィールにいいね!した。ほどなく向こうからメッセージが来た。やはり同じような考えの人がたくさんいるようで、このアプリでかなりモテているらしい。その自信はメッセージの段階で伝わってきた。

「絶対後悔しないので、僕と会ってみません?」
「…絶対後悔しないというのは?」
「すごい楽しいと思う」

あまりにもハッキリ言うので、うさん臭くもかなり期待してその日を迎えた。会ってすぐ、思っていたより普通の好青年だなと感じた。「黒のダウンに白のスニーカーで待ってます」と言われた時はテカテカのゴミ袋みたいなダウンと運動靴なんじゃないか……と不安になったが、上質そうなものを身につけている。

「お仕事大変ですか?」
「まぁ、それなりに大変ですけど。僕はほどほどに遊びもできてるんで」

実際そうなのだろう。医者で、この程度のルックスとあのアグレッシブさがあれば人生楽しいだろう。学生時代からずっと勉強はできたのだろうか。センター試験は何点だったんだろう。

そんな事ばかり考えているくせに、本人を前にして「すごいですね」とはなぜか言いたくなかった。言ってしまうと、「医者を特別視している自分」がハッキリして、この人と純粋な恋愛ができない気がした。

「両親とも医者なんです」
「やっぱり、そういうものなんですね。私の知り合いもそうでした」

本当は医者一族の知り合いなどいない。ただ「あなたと私は同じ世界にいますよ」と匂わせたかった。東京生まれ東京育ちで都内に土地を持ち、両親とも医者。地方で家業を営む家庭出身の私から見ると、さすがに育ちが違うと感じざるを得なかった。「白馬の王子様みたい❤️」とポジティブに受け止められず、仮に付き合えてもこの人の隣で劣等感を抱え続けるだけの未来まで見えた。

「なんでも持って生まれてきたんですね……」

つい本音を吐いた私に向かい、彼は、

「まぁ。ご先祖様に感謝っすね」

とも言ってのけた。明るくていい人なんだけど、謙遜されると思って用意していた言葉を私が飲み込むたび、会話のテンポが乱れた。結局、その後も盛り上がらず2度目もなかった。

シビアな環境で戦うIT役員との、かみ合わない会話

2人目は知人の紹介で会った、誰もが利用する某巨大ITインフラ企業の役員。こざっぱりとした短髪、ラフだけどきちんと感もあるニットとデニムのスタイル。休日だというのに大きな荷物が入った鞄からはノートパソコンが見えた。

彼とは前職の会社と彼の会社の場所が近いというだけの薄い繋がりだが、駅周辺の美味しいお店の情報などを交換して話が弾んだ。しかしどうしても「あの会社の役員なんだ」という情報が頭から離れない。

「チームのインド人と仲良くなりたくてビリヤニを作ったんですけど」

という話をされた時は、「チームのインド人」というグローバル感と、ビリヤニを作る”丁寧な暮らし”感のどちらにも心がえぐられてしまった。仕事の話をすると、同じテーマでもスケールが違うことを言っているのがわかる。

「怠ける人って絶対出てくるんですよね〜」と会社の働かないおじさんがいかに仕事をサボっているかを話すと、「そうですね」とは言ってくれるのだが「まぁプロジェクト単位で評価されるのでそういう人はすぐ切られます」と返された。

向こうが戦っているのはもっとシビアな世界なのだ、と恥ずかしくなる。エクセルデータを開いたり閉じたりするおじさんなんて彼の職場には居ないのだろう。

しかし一方で彼のことを「すごいすごい」と手放しでほめたくない自分もいる。彼の三分の一にも満たない給料だけど、毎日頑張って働いている自分を卑下したくない気持ちからだった。結局、彼ともその後続かなかった。

私は「プリンセス」にはなれない

2人のハイスペ男性との出会いは、自分のなかにくだらないプライドが高くそびえていることを知るきっかけとなった。社会的地位の高い人や自分より圧倒的に稼いでいる人を前にすると「それに比べて自分なんて」という黒い気持ちが湧いてくる。それと向き合い続けながらの恋愛なんてとても無理だろう。

白馬の王子様と付き合えるのは「私がプリンセスにふさわしい」と思える人か「愛があれば障壁は関係ない」と思える人だけだった。勝手にモヤモヤしてしまう性格だから、私はプリンセスに向いてない。

それに気付いてからはハイスペ男性との恋愛をあきらめ、地道な婚活に勤しんでいる。

1991年生まれ。芸能・出版などマスコミ業界で働く会社員。リアルなミレニアル世代として、女性特有のモヤモヤや働き方などを主なテーマに記事を執筆中。
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