「飲み屋のねーちゃんにじゃなきゃ、セクハラなんてしない」と開き直られた夜
●telling,編集部コラム
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飲み屋でのしつこい年齢と体型いじり
会社を辞めてしばらく、気まぐれになじみのバーのカウンターでドリンク作りを手伝うアルバイトをしていた。若い男性客が多かったが、ちらほら中年の男性も飲みに来る。
ひとりの常連客は私を見るたびに「30代だっけ?いつまでこんなことやってるわけ?」などじわっとしたイヤミをぶつけながらニヤニヤする。「太ったんじゃない?」「まだ結婚しないなんてやばいよ」「うちのカミさんが君の年齢のときはもう……」
会話の一事が万事それだ。
はじめはニコニコしていた。そう聞くと許せない女性もいるかもしれない。同性である私が、飲み屋でそんなヘラヘラとした態度をとっているから、この世界は変わらないのだと。
当時はセクハラをヘラヘラとかわすのが「良い女」だと思っていて、声を2トーン上げて「もぅ、そんなに結婚、結婚って、私のこと好きすぎなんだから!」なんて“いなす”のが必殺技だった……と、思い込んでいた。実際はいなせてない。あっちは懲りてないんだから。
ふと見えた「隙」をついた
ある夜。その日も常連さんは相変わらずのセクハラとパワハラの応酬。ただその日、ふと剣道かなにかの選手になったかのように、相手の「隙」が見えた。
「あ、今だ」
そう思った私はその隙をついてみた。
「私がいつ結婚するかは私が決めますし、太ったか痩せたかも、自分で判断します。そういうことを言うのはやめてください」
一瞬相手がひるんだのがわかった。でも、さほど動じた様子もなくこう返された
「わかってるよ。飲み屋のねーちゃんにじゃなきゃ、こんなこと言えないって。」
私は絶句した。この人、これが「セクハラ」だって、ちゃんとわかってやってたんだ……。
それから彼は、会社のコンプライアンスがいかに厳しいか、セクハラ厳禁、会社じゃ良い上司で通っているだのそんな話を鼻息荒く語った。その言い訳のいかに紋切り型なこと。
「でも、飲み屋ってそういう場所でしょ。そういうこと言う相手として君がいるんでしょ」
夜の世界で男性にお酒を作り会話をする仕事を本業にしている女性たちに比べれば、私のそれはお遊びのようなものだと思っていた。でも相手は違った。酒を作り、自分に提供してくる女性は全員、自分の「サンドバッグになっていい」対象だと認定していた。
(だいたい、夜の仕事のプロになら何を言ってもいいというのもおかしな話だ)
たとえばもっと広く「接客業」だととらえた場合、お金を払ってくれている人に対してこうした態度はプロではないという意見もあるかもしれない。
もう少し角の立たない言い方もあっただろうし、嫌なら辞めろと言われればそれまで。
(ちなみにこの日を最後に辞めた)
どうして、彼らだけが許される?
ただ、やっぱり考え込んでしまう。私が働いていたこのバーにおいて、少なくともこういうあからさまな女性の見た目や年齢を執拗にいじるような人たちは中年の男性ばかりなのである。
たまに若い男性からも攻撃されるけれど、彼ら世代こそ「コンプラ」にビビってか、飲み屋であってもそうしたことには触れてこない。
ではなぜ、中年男性たちに“だけ”サンドバッグが必要なのだろうか。
私たちは同じ国で、労働時間や給料の差はあれど、だいたい同じように働いている。彼らが背負っている「責任」とやらは、仕事の枠組みの外で気楽に女性蔑視をしてもよいと認めざるを得ないほど、大きいものなのか。
彼らだけが抱えているストレス。
彼らだけが抱えているプレッシャー。
それらは偉大で、会社を一歩でたら、時に通りすがりの人に暴言を吐いてよく、電車の中で女性の体を触ることが許され、飲み屋では心無い言葉をぶつけてもとがめられることはない、というのか。
そうなのだろうか?
そんなわけないじゃないか。
早起きが体質的に苦手で仕方がないのに毎朝ちゃんとお弁当を作って出社してるあなたも、肌荒れがひどくてメイクなんてしたくないのに「マナー」だと言われたっぷりメイクの時間を割いて外出するあなたも、仕事で後輩のミスを何も言わずかぶってあげたあなたも、恋人に、家族と、大事なペットが……。
私たちはいつだっていろんなストレスやプレッシャーに囲まれて生きて、それでも例えば今、この記事を読んでくれているあなたはこうして自分で情報を拾いにきて、少しでも自分を救おうと努力してる。誰かに当たったり、他人を侮辱したりしないで、自分で自分をレスキューする術をありとあらゆる方法で探している。
「変えがたい容姿や年齢のことで他人をからかっていいのは、飲みの場での特権」
だと?
なら言わせてもらう。
そういう人たちにファイティングポーズをとっていいのがインターネットの特権だ!
……いや、それも違う。全っ然違う。
インターネットじゃなくたって、どこでだって、真っ向から、「やめてくれ」って言える世界にしていく意志をやっぱり持ちたい。飲み屋だろうと、職場だろうと、家族間だろうと。
私はサンドバッグじゃない。ファイティングポーズをとれる一人の人間なんだ。
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