私、セクハラ被害者になりました。

第7話:セクハラ加害者からの示談提示。金銭と引き換えに「なかったこと」に?

有力取引先のA社長からキスを迫られ、ホテルの部屋に押しかけられそうになるなどのセクハラ行為を受けたメーカー勤務の雅美さん(27歳)。警察の聴取に対し、A氏はセクハラ行為を認めました。雅美さんはこれを受け、弁護士のアドバイスのもと自力で損害賠償請求を行いましたが、ここで雅美さんが疑問に感じたのは賠償と示談の関係。お金を受け取ったら必ず、相手を許さなければいけないのでしょうか?

●私、セクハラ被害者になりました 07

淡々と作業を進める私を口撃する上司

内容証明を送った後「届いた書類を必ず確認するように、ということを会社を通じてA氏に念押してもらったほうがいいですよ」と弁護士さんからアドバイスがあった。

私は上司に連絡し「A氏宛に内容証明を送ったことを会社から通告してください」と頼んだ。
「内容証明ってなにを送ったの?」
「賠償請求が主な内容です」
「じゃあ今回は金銭で解決するってことね?」

上司は少しホッとしたように言った。その「金銭で解決」という言葉がすごく嫌だった。

「いや、賠償と刑罰は別だと思っているので、今回は賠償請求のみです。この後刑事告訴することもあり得ます」
「示談するってことじゃないの?示談にする気があるかどうかA氏に確認したらいいの?」
「いや、私に示談にする気がないのでそれは困ります。A氏は罪を認めているので、賠償を請求するだけです」

かみ合わない会話が続く。上司はお金を貰うのに示談はしない、さらには相手を告訴するという私の考えが理解できないようだった。「お金もらう」=「被害感情が消える」ではないということを何度も説明した。まだ何も解決していないのでA氏には強気にいってほしいのだと。

駆け引きを続けていると、上司は突然激昂し始めた。

「俺だって必死にやってんだよ!うちの売上を何億も支えている会社の社長なんだから、無下にできないのわかるでしょ」

ずっと隠してきた本音がついに出てしまったという感じだ。おそらく彼も私と会社の板挟みになってストレスを溜めていたのだろう。だとしても、よくそんなことが言えるなと呆れてしまった。

「そんなこと知りません。あとで文面を送るのでそのままA氏に転送して下さい。お願いします」

このころになると私もかなり強気に出られるようになっていた。上司に嫌われていくのがわかる。だけど泣き寝入りしないと決めたのだ。私は被害者なのだし、ここまでの行動で絶対に間違ったことはしていないと自分に言い聞かせて背筋を伸ばした。

A氏からの返信は2日後に届いた。

〈このたびは、大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。警察から聴取を受けた時、初めてあなたの気持ちを聞いて、本当に申し訳なく思っています。内容証明について届き次第確認し、誠意ある対応を行います〉

第三者から聞かされなければ私が嫌がっていたことにすら気づかなかったのか、とゾッとした。やはり警察に動いてもらえてよかった。請求した賠償金はその3日後に満額が支払われた。接触禁止令も厳守し、会社への嫌がらせもしない、むしろこれまで以上に協力したいという旨のメールが後日届き、私の要求はすべて通った形となった。

A氏からのメールには反省の態度もみられたし、ここからさらに労力を使って刑事告訴をする気が冷めた。あとは会社同士で話し合いを行ってもらえばよいかと思った。長い戦いが終わったかのように思えた。

A氏から送られてきた示談書。その内容とは

安心していた私のもとに実家の父から知らせがあった。「A氏から示談書が送られてきたので転送します」。

そこには先日の感情がこもったメールとはうって変わり、事務的な文章が並んでいた。弁護士をつけたということがすぐにわかった。冒頭は謝罪文から始まるが、私が送付した内容証明に沿いつつ、A氏からの要望が付け加えられ以下のような示談書になっていた。

① 入金をもって本件に関する被害届及び告訴状の提出をしないこと
② A氏の所属する会社への通知を行わないこと
③ A氏と私の会社の取引に関してはここで約束してもあまり法的意味を持たないため、示談書から除外すること

言い換えれば、「金を払ったのだから許してね」「他の人には黙っていてね」「あなたが取引内容に口を出す権限はないよ」ということだ。反省していると思ったがここにきて自己保身が強くにじみ出る要求に憤った。

③に関しては相手の弁護士が言うのだから「法的意味を持たない」というのはそうなのだろう。でも、このままでは「この件とは無関係です」と言い張られたら私の会社はA氏からどんな不当な扱いをうけても文句が言えなくなってしまう。

自分の会社を守ることを考えると、雇われ社長であるA氏ではなく、A氏の雇い主にあたる代表取締役D氏を相手に覚書を結ぶべきではないかと考えた。しかしそれはA氏が求める②「守秘義務」に反する行動となってしまう。ネットで調べると、こちらがとる行動によっては慰謝料減額などを求められるケースもあるようだ。

A氏の言うように、会社同士の取り決めには個人が入る隙はない。それでも私は密室の会議で責任の所在をなあなあにされることが許せなかった。そこで上司だけでなく、自社の社長もテーブルについてもらい、今後の対応について検討する場を設けてもらうことにした。

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