私、セクハラ被害者になりました。

第5話:絶対に泣き寝入りしない!セクハラとの孤独な戦いの幕開け

もし、ある日あなたがセクハラを受けたらどうしますか?仕事中に取引先の社長からキスを迫られたり、ホテルの部屋に押しかけられそうになるなどのセクハラ被害に遭った雅美さん(27歳)の体験を通して、セクハラの実態を考えます。セクハラ被害者はその後の対応で何度も傷つき、二次被害に苦しむと雅美さんは言います。処罰感情はあれど、お金の問題や、置かれている立場によっては報復が怖くて強気に出られず、体力や精神は削られていく。でもどんなに傷ついても、泣き寝入りはせず自分の権利を行使しようと決めた彼女は、徹底的に自分で戦う方法を探っていきました。

●私、セクハラ被害者になりました 05

自分の頭の中を整理し、戦う準備をする

弁護士を雇うには安くないお金がかかる。しかし調べていくうちに戦いに必要な手続きの中には自分で行えるものもあり、弁護士には気になる点のみ「アドバイスを求める」に留めれば費用を抑えることは可能だとわかった。無料相談の枠を設けている弁護士事務所も多く、要点を整理したうえで利用することにした。

私の場合、まず考えるべきこと、起こす行動をノートにまとめ優先順位をつけた。

表にまとめてみて、ようやく「自分はどうしたいのか」ということが見えてきた。そしてそのために何が必要で、何が「わからない」のかも。
私の場合、
① かなり強い処罰感情を持っているが、被害を受けた現地を再訪することに強い心理的抵抗があり、被害届が出せない。どうしたらよいか?
② 賠償請求のために個人でできる動きがあればしたいが、どんな方法があるか。
③ 加害者は取引先だが、許したくない。自分の会社にどんなスタンスを示せばよいか。

この三つがわかれば少しは前進できそうだった。問題や疑問がハッキリしたところで、質問をまとめて弁護士のもとを訪れた。

30分の無料相談でも光明が見えた

無料相談の客に対しても弁護士の先生は親切だった。セクハラなど労働関連の相談は多いらしく、自力でネットでは調べきれなかった、私に近い事例を教えてくれた。

いろいろと用語を調べてから挑んだのでスムーズに相談は進み、無料枠の中でかなりの知見を得ることができた。

① 強い処罰感情を持っているが、被害届が出せない
→時効が成立するまではいつでも出せる。早いほうがいいが、証拠をしっかり揃えておき、証人も多いならば焦らない。「被害届を出す」気持ちを持っていることを伝えるだけでもけん制になる。また、処罰は事件化だけでなく他の方法でも下せる。

② 賠償請求のために個人でできる動きがあればしたい
→「内容証明郵便」を使って、こちらの希望を伝えたり事実の確認をしたりできる。書類も自分で作成できる。

③ 加害者は取引先だが、許したくない。自分の会社にどんなスタンスを示せばよいか
→会社には従業員への「安全配慮義務」がある。圧力を感じても、被害者はあなたなのだからひるまない。処罰感情をきちんと伝え、毅然とした対応をとる。

弁護士の先生に「あなたは何も悪くないし、守られる立場にある」と言われたことで一気に戦う勇気が湧いた。

一方でリスクについても教えてくれた。それは相手が非を認めなかった場合だ。私も、いまA氏がどんな気持ちでいるかわからないことが不安だった。「申し訳ないことをした」と反省してくれればいいのだが、罪の意識がなかった場合、私の対応に逆上するかもしれない。相手も弁護士を雇うだろうし、会社も味方になってくれるかわからないし、一人で戦いきれるだろうか……。

「とりあえず相手の出方を見て、わからないことがあればまた来てください」。

30分の相談を終え、弁護士事務所を出た。時計を見ると時間を少しオーバーしていたのだが、「お金はいいですよ。うまく解決できるといいですね」と言ってもらった。

「戦います」で一転した会社の態度。でも、負けない

弁護士の先生のアドバイスもあり、まずはA氏が今回の事件をどう思っているか、会社を通じて探ってもらうことにした。上司にA氏から会社あてに連絡が来ていないかを確認したが、それは来ていないらしい。

「B専務のところにはメールが来たらしいけど」

会話の中で、上司はそう口を滑らせた。B専務は有力取引先の社長であるA氏とプライベートでも仲の良い人物だ。どうやら事件の翌朝、B専務のもとに個人的なメッセージで謝罪めいたものが届いたらしい。

「どんな文面かをB専務に確認してもらえますか?それによって対応を考えたいのですが」
「対応?会社としては遺憾の意を伝え、再発防止をお願いするつもりだよ」
「いや、私個人としてA氏に法的措置を検討しています」

それまでテンポよく続いていた会話が途切れる。

「それはつまり訴えるってこと?」
「それを考えたいので教えてほしいんです」
「こちらの弁護士に相談してみます」

「こちら」の弁護士……。会社の顧問弁護士のことだろうが、「こちら」と言われ、私はどちらの人間なのかと混乱した。

そしてしばらくしてから「B専務に届いたA氏からのメールは見せられません。それはプライバシーの侵害にあたるからだそうです」とメッセージが届いた。
「どちらの味方なんですか」
「それはもちろん貴方の味方だけど、プライバシーがあるから」
「どんな内容だったかだけでもわかれば、対応が検討できるんです」
「いや、それでも見せられない」

何を言っても杓子定規な回答しか返ってこない。会社は私の利益第一には動いてくれないんだなと思った。

私、セクハラ被害者になりました