私、セクハラ被害者になりました。

第4話:味方はどこ?セクハラ後、傷ついてる暇もないほどの冷遇を受けた

もし、ある日あなたがセクハラを受けたらどうしますか?仕事中に取引先の社長からセクハラ被害に遭った雅美さん(27歳)の体験を通して、セクハラの実態を考えます。被害に遭ったとき、最初に連絡するのは会社か、警察か弁護士か。被害届は出すのか、慰謝料はいくらくらい?被害者は、傷ついている暇もないほど考えることがいくつもあります。そんな中、雅美さんの身体に不調が表れて――。

●私、セクハラ被害者になりました

ストレスで身体に異変。でも考えることは山ほどある

出張先で取引先の社長から無理やりキスを迫られ、ホテルに押しかけられそうになるなどのセクハラに遭った私。会社からはひとまず帰京するよう指示を受け、翌朝の新幹線に乗った。

朝になってからもA氏からの着信が数回あった。駅の改札をぬけるまで「待ち伏せされているのでは」と不安で仕方なかったが。新幹線が走り出してようやく一息つけた。

「乗車券を拝見します」

放心していると車掌に声をかけられた。ぱっと顔を挙げると、A氏と同じ60代くらいの男性が立っていた。

「あ、ああ……」
「あの、乗車券を……」
「あ、あ、ハイ」
「大丈夫ですか?」

車掌さんは怪訝そうに私の顔を覗き込んでくる。「ハイ!ハイ、大丈夫なんで!!!」大きな声が出て、体はのけぞっていた。相手はびっくりしている。そこで私は自分の身体の異変に気づいたのだった。似ている男性を見ると恐ろしくてたまらない――。

のちに医師に診断されるが、これは「急性ストレス反応」に基づく症状だった。短期的なPTSDと位置付けられ、大きなショックが起きてから1カ月程度不安な症状が続く。

「すみません、東京に帰る前に一度実家に戻っていいですか」

それから私はしばらく会社を休むことになった。

弁護士を雇う?償ってもらうための準備に何かとお金がかかる

事件が起きた晩、私は母親に混乱した状態で「どうしようセクハラされた」と連絡をいれていた。深くは聞かれなかったが、母はかなり心配していた。親を悲しませているのが辛くて「まあなんとか逃げられたけど」と強がった。

そんなことがあり少し心配していたが、実家に帰ると、家族は「おかえりー」と、まるで年末に帰省した時のように、何事もなかったかのように出迎えてくれた。その話題に触れないようにと、どこかぎこちなく夕食が進む。いたたまれなくてすぐに自室に戻ると、父親が部屋までやってきた。

「このあとどうするんだ」
「考えてない」
「会社辞めてもいいぞ」
「辞めたくない」
「でも、お前の味方になってくれるのか?」
「……わからない」
「弁護士雇うなら、アテあるし、お前のしたいようにしろ」

会社を辞めるのは嫌だった。でもA氏のことは許せないから、毅然とした対応をしたい。会社は味方になってくれるのだろうか。父は、私が取引先に強く出られないであろう会社の犠牲になることを心配していた。

しかし弁護士を雇うというのは現実味がなかった。

調べたところ弁護士費用は着手金だけで30万円はかかるようだ。それに受け取った金額の数パーセントを支払う、というのが一般的だった。一方でセクハラの慰謝料相場は20~30万円程度。被害の程度や相手の社会的地位によるが、セクハラが原因で会社を辞めることになったとか、相当ひどい事案でも100万円程度だったりする。受けた被害、かけた労力、支払った弁護士費用を考えれば被害者の手元にはわずかばかりの金額しか残らず、とても償いを受けたとは思えない相場感だというのが正直な感想だった。

「現地で被害届を出してくれないと……」警察も簡単には動いてくれない

翌日、私はまず警察に相談することにした。事件現場を管轄する地方の警察署に電話をかけて「強制わいせつの被害を受けたのですが」と言うと、丁寧に事情を聴いてくれた。

私はできるだけ細かく、覚えていることを話した。録音した音声もあることや、目撃者もたくさんいることを伝えた。

「わかりました。でも、被害届が出されないと動けないんですよ」
「じゃあ出します」
「またこちらまで来てもらわないとダメですが、大丈夫ですか」

初めて知ったが、被害届はその事件が起きた土地でしか提出できないそうだ。郵送なども不可で、本人が直接出向く必要がある。

私はその時外出もままならない状況だったので「代理人じゃだめですか」と聞いたが、事情を聴くのは本人でないと難しいのでと言われた。

「防犯カメラの映像もずっとは残らないので、早めに来たほうがいいですよ」
「場所も時間もわかっているし、記録とっておけないんですか」
「被害届が出ないと動けないんで」

犯罪が起きたことはわかったけど、本人が被害届を出さないと動けないと言う。散々聞かれて嫌なことも答えたのに、何の役にも立ててもらえないのか。

「わかりました。非常に勉強になりました」

電話を切り、いよいよ絶望した。さすがに警察は味方になってくれると信じていたのだが、なんとお役所対応なのか。性被害を受けた土地を再訪することが当人にとっていかに重労働かわかっていない、と憤った。

理不尽な対応をされて芽生えた意識

性犯罪被害者の金銭的・肉体的・心理的な負荷は計り知れない。
ひどいことをされたのにどうして誰も被害者の利益を優先して守ってくれないのだろう。これが2019年の日本なのか……。怒り、絶望と同時に私の中である気持ちが湧いてきた。

「こうして泣き寝入りしてきた女性がどれだけいるのだろう。そういう時代を終わらせなきゃいけないんじゃないか」

それは妙な使命感だった。私に課された平成最後の大仕事なんじゃないかと思った。ならば、同じような境遇にいる誰かのためにあらゆる手を尽くしてみようと思ったのだった。

私、セクハラ被害者になりました

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