telling, Diary ―私たちの心の中。

元セクハラ上司も参加する打ち上げ旅行。行きたくない、とは言えず…

telling,世代のライター、クリエイターたちが日々の思いや本音を綴る「telling, Diary」。今回は、telling,編集部員の知人、会社員Y(33)の話。元セクハラ上司も参加する「打ち上げ旅行」が憂うつで仕方ないけれど、行きたくない、とは言えませんでした。

●telling, Diary ―私たちの心の中。

打ち上げ旅行にノリノリになれない

会社のプロジェクトの打ち上げで土日に旅行に行くことが決まってから、ずっと憂うつだ。週末の貴重な休みと、決して安くはないお金を、なぜさほど仲良くもない同僚と過ごすために差し出さなくちゃいけないのだろう。セクハラを受けるかもしれないのに……。

私の職場では、数カ月かけた大きなプロジェクトが終わると、派手な打ち上げをするのが慣習になっている。旅行に行ったり、高級料理を食べたり。

苦楽をともにしたチームのメンバーと、ちょっと贅沢をして、労をねぎらい合いたい気持ちはわかる。仲が良くて気が合う人と行くならば、周りの人のように、私だってノリノリだったかもしれない。

でも、今回一緒に行く上司の1人から、過去にセクハラを受けたことがある。仕事ができるし尊敬もしているが、酒が入るとたがが外れるのだ。

カラオケで押し倒された過去

5年ほど前。まだ私が部署の新人だった頃、仕事帰りに数人(年上の男性ばかり)で飲みに行き、朝方までカラオケで騒ぐことがたまにあった。酔っ払って盛り上がってくると、その上司は服を脱ぐ癖があった。上半身は着たままなのに、下半身は下着まで脱ぎ、嫌がる男性社員の顔に下半身を押しつけて歌い続ける。

気持ち悪い光景だが、周りの人もみな笑っている。当時はセクハラへの感覚が麻痺していて、「酔っているから仕方がない」と、笑ってすませるのが当たり前だと思っていた。

笑ってすませれば、苦しむのは後輩

が、その日は違った。その上司が、服は着ていたが、カラオケで歌いながら私を押し倒し、覆いかぶさってきた。「やめて!」と勢いよくはねのけたら、その上司はソファの下に転げ落ち、外れた座面の下敷きになっていた。みんなは大笑い。

帰り道は肩を組まれ、何度も「ごめんね~」と言われた。「はいはい、もういいですよ」と応じると、「かわいいね、ちゅーしたい」と耳元で言われた。ぞっとした。他の先輩たちは笑っていたと思う。

翌日、その上司はなにも覚えていなかった。

後日、後輩との女子会でその話をすると、怒られた。「先輩たちがそうやって我慢してきたから、私たちもセクハラされる可能性が残る」。はっとした。

セクハラへの感覚が麻痺して「慣れる」ことが、後輩を苦しめてしまう。でも、次に同じことが起きたら、「やめてください」と言えたとしても、場をしらけさせるほど強い態度をとる自信はない。

以来、そういうトラブルに巻き込まれそうな状況を避けるようになった。飲み会もカラオケも、行かなくなった。

次第に、そのセクハラ上司とは適度な距離感を保てるようになった。私自身も「あれはセクハラだったんだ」「嫌だと思ってもいいんだ」と思うようになった。

そんな折の「打ち上げ旅行」。一緒に行くのは気が重い。

全員参加が前提って、そもそもパワハラ?

断ることも考えた。行かなくても、ただちに出世や異動に影響することはないかもしれない。でも、プロジェクトのメンバーは大体、年長の先輩が一緒に仕事をしやすいメンバーを選ぶ。「こいつは一緒に旅した仲だから」と話す人もいた。大きなプロジェクトに選ばれなければ経験も積めないし、出世の道は開けないことを意味する、と私は思う。

お金を払って勤務時間外の“活動”に参加しなければ、結果的に仕事の機会が減るのは、パワハラにはならないのだろうか。「任意」とはいわれても、全員宿泊を前提に計画が進み、「嫌ならいいけど?」と不機嫌に言う先輩男性からの圧は、パワハラではないのだろうか。

この先輩は普段から気分屋で、常にイライラしていて急に大声で怒ったりするので、周りは顔色をうかがいながら仕事をしている。飲み会ではさらに仕事のイライラをぶちまけるように語る。直接叱責されることばかりではなくても、心にダメージを受ける。

旅行ではそれが一晩続くのだと思うと、憂うつでしかない。気分屋の先輩と、セクハラ前科がある上司……。

前日の夜は胃が痛くなって、何度も吐いた。体調が悪いならドタキャンでも許されると思ったけれど、前々から準備を重ねたイベントを休めば、後々まで語り継がれるな、とも思った。朝になると胃痛は治まっていて、「行けません」と言い出す勇気はついに出なかった。

* * * * *

明日は、元セクハラ上司が参加する打ち上げ旅行にどう対処するか… 「セクハラ成仏座談会」のメンバーで考えます。

20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。
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