私、セクハラ被害者になりました。

第9話:セクハラに終わりはない。被害者はずっと被害者のまま戦い続ける

もしある日あなたがセクハラを受けたらどうしますか?有力取引先のA社長からキスを迫られ、ホテルの部屋に押しかけられそうになるなどのセクハラ行為を受けた雅美さん(27歳)の体験を通して、セクハラの実態を考える連載の最終回。すべての手続きを終え、会社に復帰した彼女がセクハラ被害者が置かれる現状について思ったこととは……。

●私、セクハラ被害者になりました 

会社との話し合いを終えたそのままの足で、私は再度弁護士のもとを訪ねた。これまでの経緯をすべて伝えたうえで、A氏の求めてきた示談に応じないことに問題がないかを最終確認するためだ。

「この場合、示談に応じる必要はないですね。慰謝料の受領書だけ送っておけばよいでしょう」との回答があった。

内容証明を使った要望書に「金銭の支払いをもって訴訟などを起こさない」という一文を入れなかったことがここにきて効いた。言われた通り、「示談は受け入れません」の一文を添えて受領書のみ送付した。A氏からその後、接触はなかった。

思わぬ連絡。その相手は……

数日後、警察から電話があった。A氏を取り調べた刑事さんだった。

「A氏の弁護士から、示談が成立したっていう報告があったんですけど本当ですか」
「示談? いえ、拒否しました。慰謝料のみ受け取りましたが」

「あー、なるほど。まあ一応、お金を払ったということで、ある程度償ったという見方をするのは確かに一般的なんですよね……。弁護士はそれを伝えにきて、捜査をやめてくれと暗に言ってきたんですよ」

「そうなんですね……」

金銭を受け取ったというのは事実。となると、当事者同士で解決したという見方が強くなるし、起訴しても不起訴になる可能性が高いです。警察ももう、捜査は完全に打ち切るしかないというか……。刑事さんは気まずそうに、私の感情に気を遣いながら説明してくれた。

「捜査を打ち切ったことはA氏に伝わりますか?」

「いや、それは今後も一切伝えません。それは、私たちも被害者の味方ですから。なんか、A氏ももっと反省するべきだと思いますね……」

私は感謝の気持ちを伝えて電話を切った。これはもう私が騒いでどうにかなる問題ではない。いまの日本ではそうなっている、それが全てだ。A氏が捜査の打ち切りを知らされず、これからも怯えて過ごすことだけが胸の晴れる事実だった。それだって私がこれから抱えていく悲しみの何倍も感じてもらわないと割が合わない。ずっと反省し続けてほしい。

こうして、セクハラとの長い戦いの幕は閉じ、2週間後、私は会社に復帰した。

終わりに。セクハラ被害者として思うこと

ここまで「私セクハラ被害者になりました」を読んでくださった方、ありがとうございました。

自力で戦う方法を皆さんにお伝えすることで、少しでも性被害者の方の助けになればと筆をとりましたが、正直いまはこれで正しかったのだろうか?という思いでいます。

「示談を拒否して慰謝料のみ受領」

これを個人で実行できたことだけでも、よくやったと自分をほめてあげたいのですが、それ以上に会社との軋轢に苦しんだり、司法の現実に絶望したり、疲弊する毎日でした。

性被害者はただでさえ傷ついた状態であれもこれも求められすぎます。どんなふうに被害に遭ったのか、なぜ拒否できなかったのかと。理路整然と被害内容を説明できないことも、とっさのことで証拠が残っていないことも、セクハラを拒否できなかったことも、なにも責められることではありません。
けれど今の世の中は、無自覚に、性被害者に「説明」を求めます。

そのうえで不当な扱いを受けることだってあります。こんなに悲しいことはありません。

私は会社に復帰してから、理由も明らかにされないまま外出禁止令を言い渡され、つい先日、異動を命じられました。あくまで人事的な、もともと決まっていたことだと言います。

当たり前のことを主張するだけで「厄介者」とされてしまう。だから泣き寝入りが全てを丸く収める一番の手なのかもしれません。ここまで戦った私がいまそう思ってしまっています。そう思うと本当に伊藤詩織さんをはじめ、MeTooと声を挙げた人々は素晴らしい勇気の持ち主だと感じました。

私も彼女たちのように間違ったことは何一つしていないと胸を張って生きていこうと思います。こんな世の中が変わるように、私がセクハラを受けたことが無駄にならないように、伝え続けていきたいです。

(終)

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●記事中の法律関係の記述について監修を担当した澤井康生弁護士(弁護士法人海星事務所)のコメント
「被害者は法理の専門家ではないので刑事・民事の違いなど難しい点はあったと思いますが、自分なりに調査し、必要な部分のみ弁護士の法律相談を受けるなどしてよくやったと思います。特に被害届を出す前に警察に動いてもらえたこと、示談なしにで慰謝料を受け取れたことなどは、被害者本人が一般の方だからこそできたと思います。弁護士の場合は手続きを重視するので、このようにはいかなかった可能性があります」

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私、セクハラ被害者になりました