telling, Diary ―私たちの心の中。

「言葉はそこで終わってしまう、"感じる"から始めてほしい」企業が向き合うジェンダーとパーソナライズの可能性

コレクションシーズン到来。ファッション業界の最新トレンドによると、近年、従来のメンズ・ウィメンズの垣根がなくなりつつあるといいます。パーソナライズサービスや女性向けサービスを通じて新しいジェンダーのあり方を模索する企業のキーパーソンが登壇するトークイベントに伺い、最新事情を聞いてきました。

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スタートアップ企業なのに、アート? 

パーソナルスタイリングブランド「SOEJU」が、POLA MUSEUMにて期間限定のアートイベントを開催しました。SOEJUは、お客様のクローゼット事情に応じて、プロのスタイリストが似合うコーディネートや足りないアイテムをご提案する新しいサービス。

サスティナビリティの観点から、環境への負荷を考えて自分の持ち物を大切に長く使いたい方、ダイバーシティの視点から、トレンドや性別に流されない自分らしいファッションを探したい方。そんな時代の流れにフィットしたライフスタイルを願う女性が増える中で、いまSOEJUのパーソナルスタイリングのサービスは、少しずつ注目を集めています。

今回SOEJUが主催したBLESS THE DIFFERENCEという展示イベントは、星野源さんのミュージックビデオなども手がける新進気鋭の映像作家・林響太朗氏とアートディレクターの土田あゆみ氏が手がけた映像作品をメインに楽しめるアートイベント。

一企業、それもスタートアップ企業がブランドビジョンやコンセプトを体現するために「アート」というアウトプットで「ギャラリー」を活用した展示を実施するのは、少しめずらしい感じがしました。実際に展示を見てみても、その場にはいわゆる「企業色」が一切なく、企業のマーケティングやプロモーションという観点に立つと、これで大丈夫なのかなと少し心配になるほど。

イベントオープンの前日、メディア向け内覧会としてトークショーが開催されました。
トークショーでは、ファッション・クリエイティブディレクターの軍地彩弓さんをモデレーターに迎え、SOEJU代表の市原さん、そのほかパーソナライズサービスや女性向けサービスを通じて新しいジェンダーのあり方を模索する企業から4名が登壇しました。

濃密な50分間、それぞれ登壇者の言葉の端々からは、ご自身の手がける事業を通じて2019年版のジェンダー論を垣間見ることができ、さらにはSOEJUが今回のイベント、BLESS THE DIFFERENCEに込めた真意を感じ取ることができました。

最初は女性の支援や雇用拡大を想定していましたが、性別では区切れないということを実感する日々です。

シェアダイン共同代表・井出有希氏

シェアダインは、自宅で料理を作り置きしてくれる出張の料理代行サービスです。家事の代行って、一見すると割高そうに感じますが、シェアダインのサービスを日で換算すると一食600円程度で作り置きをご用意できるので、割と手頃にご利用いただけるんです。

最初にサービスを始めた時は、自分自身の原体験もあり、働くお母さんを支えたい、さらにはライフステージの変化を期に引退されてしまった女性の雇用を拡大したいという思いが強かったですが、いざサービスを始めてみると「妻が入院してしまいそろそろ退院するので、これからは体にいい食事を出してあげたい」「男性で料理をしたいのですがやり方が分からず、サービスを利用しながら見て食べて学びたい」など、家庭を持つ男性にご利用頂くことも多く、ニーズは本当に人それぞれでした。

いわゆる従来のステレオタイプ的な「家事は女性がやるものだ」という思想はなくなり、男性も男性として家庭への協力の仕方を考える時代に移り変わっています。性別ではなくタスクでの家事分担が、今後はよりスタンダードになっていく気がしますね。

女子校育ちで感じてきた窮屈感が、今の私の原動力かもしれない。

SHE代表・中山紗彩氏

SHEでは、ミレニアルズの望む働き方を実現するプラットフォームとして、クリエィティブスキルレッスンやコーチングプログラム、ジョブ獲得サポート機会を提供する事業を現在メインで展開しています。

私自身がこうしたサービスを立ち上げた経緯として、ずっと女子校で育ってきたことが大きく影響しています。なんで女性は活躍できないんだろう、なんで女性は家庭を第一にしなくちゃいけないんだろう、たくさんの「なんで」が学生時代から積み重なって、その時の思いが今の事業に向き合う原動力になっています。これからの時代、仕事も家庭も女性らしく楽しみ、両方取りに行くライフスタイルがあって全然いいと思うんです。どちらかじゃない、どちらも、そんなミレニアルズの思いを尊重できる会社でいたいと日々考えています。

100発100中聞かれるんですよ、なんで男が女性の雇用支援なのかって。でも僕には当事者意識しかないんです。

LiB代表・松本洋介氏

LiBは、女性の転職支援のプラットフォームです。今日のイベントも、僕一人男性なんですが、初対面の方には絶対聞かれるんですよね「なんで男性の松本さんが、女性の雇用支援で事業をしているのか」って。これに対して、僕は当事者意識がめちゃくちゃあります。というのも、僕自身が元々父子家庭で育ち、両親の離婚の大きな理由の一つが母親が仕事を頑張る人だったからなんです。

女性が仕事を頑張ると、家庭はうまくいかない、そんなのおかしいじゃないですか、だからそんな実体験を持つ僕が語れる、実現できる支援の仕方がある、そう考えています。職種や内容によって男女の適正って絶対にあるのですが、女性だからという理由で仕事に就けないことは、この時代あってはいけないと思っています。オポチュニティーの均等化、それがあって初めて適材適所が実現すると思っているので、そんな社会の実現に事業で貢献していきたいです。

ジェンダーレス、ユニセックス、フェミニスト......結局は性別にとらわれた言葉たち、問題は呼び名にもあると思うから。

FABRIC TOKYOプランナー・森本萌乃氏

FABRIC TOKYOは、メンズのオーダースーツを展開するD2Cブランドです。普段男性向け商材を扱う女性として、「これを女性向けにそのまま展開できないか」という考えから、今年の8月に「女性のためのメンズオーダースーツ採寸イベント」を実施しました。「女性のためのメンズオーダースーツ採寸イベント」、本当は日本語が変ですよね。性別に囚われたくなかったのに、結局は男女に縛られてしまっている、というか。

最近よく使われるジェンダーレスやユニセックスという言葉も同じです。結局はジェンダーがあって、セックスがあって、成り立つ言葉なんです。もう少し言及すると、フェミニストのフェミも女性を指す言葉。先日知人から「フェミニストって、性差別しない人を指す言葉なんですよ」と教えて頂くまで、私自身フェミニストの意味をきちんと理解できていませんでした。言葉が先行すると、本来の意味に到達しづらいことが最近増えているように感じます。性から派生する言葉の見直しにも個人的には興味を持ち始めています。

なんでアートなんだって言われるんですけど、言葉にすると終わってしまうじゃないですか。

SOEJU運営 モデラート代表・市原明日香氏

今回のトークセッション、テーマは「ジェンダーバイアスを超えていくパーソナルサービスの新潮流」と掲げて、皆さまにお集まり頂きました。男女二項対立ではなく、多様なあり方を讃えるパーソナルサービスの様々な実態から、より多くの方にライフスタイルを楽しんでいただけるきっかけづくりができればという願いを込めています。

BLESS THE DIFFERENCEというテーマを掲げて今回ギャラリーでの展示を決めた際「なんでアートなの?」とたくさんの方に聞かれましたが、私としては、アートしかないと思っています。

ジェンダーバイアスを超える、とか、自分らしく生きる、とか。言葉にするのは簡単で、言葉にした途端にその本来の意味を失う怖さがあると感じています。だからこそ、言葉にする前に感じるきっかけをつくりたい、それが、今回BLESS THE DIFFERENCEを実施した一番の理由です。今回展示に触れてくださった方々へ、「感じる」体験を通じて、ジェンダーや自分らしさに向き合うきっかけがご提供できれば嬉しいです。

写真左から、モデレーター軍地彩弓さん、SOEJU市原明日香さん、SHE中山紗彩さん、FABRIC TOKYO森本萌乃さん、シェアダイン井出有希さん、LiB松本洋介さん

BLESS THE DIFFERENCEは、9月21日~25日の5日間限定イベントのため残念ながらすでに終了していますが、SOEJUのパーソナルスタイリングが気になる方は、ぜひウェブサイトをチェックしてみてください。

SOEJUはこちら

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