【Dr.尾池の奇妙な考察20】生はなぜ気持ちいいのか
●Dr.尾池の奇妙な考察 19
生とは何か
生(なま)はなぜ気持ちいいのか。この不謹慎でありながら極めて根源的な問いについて公共の誌面で考えることができるとは、私は本当に幸せ者です。はじめは不快に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は真面目だけが取り柄です。ぜひお付き合い下さい。
生という概念はとても興味深いです。愛や美といった人類がいまだ答えを見出していない難問をあっさり解決してしまうかもしれないほど、実はとても根源的なものです。しかし人々はずっと生をないがしろにしてきました。「生一つ!」とか、「生と言っておけば売れる」とか、愛や美にくらべるとその扱いはぞんざいです。
生、愛、美。それらは抽象的かつ主観的で、定義はなく、自身にとって生々しければ、生であり、美しければ、美です。いくら愛国心を定義づけようとも、その人にとって愛でなければ、それはたちまち愛ではなくなります。しかも愛と美は生ものです。美しい自然は常に瑞々しく、愛は常に生々しい。愛と美を知るには、まず生を知らなければなりません。
生は曖昧で常にゆらいでいます。生を手に入れるには、自分にとって、何がいつ、どのように生なのか、知る必要があります。
生を感じる
生を知るためには、生を感じるためのセンサーが必要です。視覚や触覚でも感じますが、もっともよく確認しやすいのは口です。生ビール、生チョコ、生八ツ橋は口に含むことでたしかに生だと納得します。
しかしよく知られている通り味覚は嗅覚に依存しています。イチゴの香りがすればイチゴ味になるし、メロンの香りがすればメロン味になります。それが何であるか確認するとき、味覚よりもむしろ嗅覚で感じている。では生のにおいとは一体どのような成分によるのでしょうか。
それは揮発しやすい小さな低分子成分です。花の香りはテルペン類や芳香族類でできています。若い女性特有の香りであるラクトン類は、30代で急に減ることが分かっています。男性特有の加齢臭は、大きな成分である皮脂が分解されてできる脂肪酸です。
これら低分子成分のバランスは、大きな成分の分解によって刻々と変化していきます。加熱、代謝、微生物発酵、紫外線などによって新たな低分子成分が生じ、元のバランスが失われていきます。鼻はその低分子成分バランスの変化を捉え、生かどうかを判断しています。
生の獲得
元の瑞々しい若さを取り戻すとは、低分子成分バランスを取り戻すということ。
生の低分子成分の共通点こそが還元性(抗酸化性)です。植物は太陽光の力で二酸化炭素や硝酸をグルコースやアミノ酸にまで還元しますが、この還元反応には水が欠かせません。瑞々しい果物やジューシーな肉に豊富な水が含まれているのはそのためです。
新鮮な脂質、アミノ酸、ビタミン、ポリフェノールといった抗酸化低分子成分と、水分を十分にとる。同時に低分子成分バランスを崩す酸化ストレスを避ける。過剰な酸素を必要とする過負荷運動は避け、フリーラジカルを生み出す心的ストレスを避け、肌を酸化分解する紫外線を避け、防腐剤を避ける。そして本当に生肌を獲得できたかどうか、確認するのももちろん嗅覚です。両手で顔をハンドブレスした後、そっと離して今どれくらい生なのかどうか判断します。
生の交換
食事や美容などで知らず知らずのうちに生を追求している私たちの前に、ふと現れる他の誰かの生。とても魅力的で、ジューシーで、つい触りたくなる生。おそらくそれを私たちはセクシーと呼んでいる。しかし他の誰かの生の獲得とは、生の交換を意味します。他の誰かの生を手に入れるには、相手にも自分の生に触れてもらわなければならないからです。
相手の生を手に入れたい一心で「ぜったい生がいいから」、「生は気持ちいいから」といくら一方的に主張したところで、相手がこちらの生に納得しなければ、交換は成立しません。
自分の生を受け入れてもらうためには、まず相手にとっての生をちゃんと理解しなければならない。
その人を理解できない人に、その人の生が理解できるでしょうか。できはしません。地球上のあらゆる生、あらゆる美、あらゆる愛は、いつまでも瑞々しい成分バランスでいてほしいという想いの結晶です。つまり生の交換とは他でもない、お互いの奥底に秘めた想いの交換のことでした。だからこそ生は気持ちがいいし、相手を尊重する気持ちがなければ、相手の想いなど理解できるわけがありません。つまりコンドームをつけない人にはそもそも、生を感じる能力自体がなかったのです。
今回のまとめ
生の魅力を生み出しているのは低分子の成分バランス。ジューシーで若々しい生肌を実現しているのも、低分子成分バランスによる抗酸化反応とそれを可能にする豊富な水分。そして他の誰かの生を手に入れたくなったら、それはその人との生の交換を意味します。地球上のあらゆる生、あらゆる美、あらゆる愛は、いつまでも瑞々しい成分バランスでいてほしいという願いの結晶。相手の願いを理解できない人に、相手の生などとうてい理解できない。
<尾池博士の所感>
telling, 最高。
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