Dr.尾池の奇妙な考察 27

【Dr.尾池の奇妙な考察 27】ルージュは防寒になるか?

化粧品の開発で、それまで縁のなかった「女性の美」について考えるようになった、工学博士であり生粋の理系男子である“尾池博士”。多くの女性が悩む低血圧に新提案です。目覚めのルージュが血圧を上げる?

●Dr.尾池の奇妙な考察 27

低血圧に昂奮を

朝、暖かいベッドから抜け出せない季節になりました。私は男ですので、女性に比べると発熱体と言っていいほどの体ですが、それでもやっぱり冬の寒い朝は辛いです。ということは体温の巡りが遅い低血圧の方はさらにもっと辛いはず。

一般的に最高血圧100mmHg未満で低血圧とされます。低血圧の場合、慢性的な疲れ、だるさ、めまい、立ちくらみ、不安感、不眠、食欲不振、そして朝の目覚めが悪いなどの症状が見られますが、どれも重篤な症状につながりにくいため、対策も生活習慣のアドバイス程度になりがちです。

血圧を上げる水分、塩分、鉄分の摂取を心掛け、過労を避け、早寝早起き、適度な運動による基礎体力アップ。

こうした地道な努力はもちろん大事ですが、習慣にはなりにくいことが低血圧から脱しにくい要因になっています。では即効性のある刺激的な対策となるとカフェインや朝の熱めのシャワーなどになりますが、薬効成分にはできれば頼りすぎたくないし、朝はそもそも寝ていたいので時間はかけたくない。

そこでぜひ手に取りたいツールが、ルージュです。

唇を赤くする理由

普段はほとんど気にすることはありませんが、人間の唇はかなり特殊です。類人猿の中で唇が「めくれている」のは人間だけだからです。

上唇を横から見ると山型になっていますが、頂上を境にして上側は皮膚であり、下側は粘膜です。人間以外は粘膜をちゃんと口腔内に隠していますが、人間だけ外に露出しています。そのため人間の唇だけ赤く見えます。

粘膜には汗腺が無く、乾燥には特に弱く、しかも感染症へのバリア機能も弱いため、よほどの理由がなければ露出させたりしません。チンパンジーは相手を威嚇するときだけ口を大きく開けますが、それ以外はしっかり閉じています。

しかし人間は常時露出させ、そこは常に赤く、さらにその上に口紅を塗ってもっと赤くしてみせたりもします。一体どれほどの理由があるというのでしょうか。

その理由については有名な学説があります。チンパンジーのメスのお尻が発情期に赤くなることに由来するというものです。イギリスの動物学者デズモンド・モリスは、二足歩行になった人間は目線が高くなったため、お尻の代わりに唇を赤くして男性を誘惑している、と考えました。たしかに人間の男性である私は女性の赤い唇に興奮しますし、たぶんデズモンドも興奮したのだと思います。デズモンドと会う事ができれば、「気持ちは分かる」と言ってあげたい。

しかしこの学説は表面的すぎるのではないかと思います。人間の女性が赤を選ぶ理由を十分に説明できていないのではないでしょうか。そしておそらくそれは、世の男性が期待しているほどには、男性に直結していないと思います。

赤が熱い理由

赤はなぜか熱を持っているように見えますが、その特別な印象の原因は「波長」です。

光は波長の長い方から赤、橙、黄、緑、青、紫の順に並びますが、この時、目には見えませんが赤のすぐ左に赤外線があります。赤外線は物質の原子間結合を振動させて発熱させます。炭火焼や赤外線ヒーター(こたつなど)がこの原理によるものです。実はこたつの中が赤く見えるのは、赤外線が赤いからではありません。暖かく感じるようにわざと赤い光と組み合わせているだけです。

さらに赤外線の左にはマイクロ波がありますが、やはり同じように分子を磁場で振動させて物質を発熱させます。電子レンジはその原理によるもので、英語ではMicrowaveと言えば電子レンジのことです。

赤は赤外線とマイクロ波がすぐ隣にある影響で熱を帯びて感じ、情熱や興奮を想起させます。しかし面白いことにエネルギーはもっとも小さいため、安心して暖まることができます。一番エネルギーが大きいのは紫で、紫のすぐ隣の紫外線はエネルギーが大きすぎて日焼けします。

エネルギーが小さいということは物質をすり抜けて遠くまで届くため、夕焼けが赤くなり、朝焼けの場合は時間と共に青が混ざり始め、紫だちたります。赤信号が赤いのはこの性質を利用したもので、危険であることを熱意を込めて遠くのドライバーへ伝えます。そのため赤は危険も連想させることになりました。

赤はこうした印象のために見た人の自律神経を刺激して脈拍と血圧を高め、興奮させ、筋力や食欲を増大させ、さらには性ホルモンの分泌まで高めるという効果をもたらします。

だから赤はエロい、というのはあまりにも表面的で短絡的すぎます。それはちょうど、コンドームをエロに直結させることにも似ています。コンドームの本質は「避妊」と「性感染症予防」です。その目的は男性が期待しているほどエロいものではなく、もっと切実なものです。

赤の本質もエロではないし、危険でもありません。「熱」です。

熱くて赤い生命体

ではなぜ私たちは熱を帯びた赤に特別な魅力を感じるのでしょうか。

この地球上に生命が生まれた時、私たちの祖先は熱水中にいた可能性が指摘されています。動植物の進化の系統を化学的にさかのぼっていくと、超好熱菌に辿り着きます。私たち生命体は熱源がなければ生きていけないシステムの上に成り立っています。だから常に熱を欲します。

そのように考えた時、血液が赤い理由も気になります。地球上ではカブドガニなどの一部の生命体が銅による青い血液をしていますが、他はほとんどが赤い鉄化合物を採用しています。これを銅よりも鉄の方が酸素との結合力が強いことだけを理由にする考え方もありますが、もしかしたら、赤の熱を帯びた印象も影響を与えたと考えられないでしょうか。

赤い外見と青い外見を視覚的に捉えた時、赤い方により強い生命力を感じてしまった。それがいまもなお、私たちの感性に影響を与えているのではないか。

ルージュで朝から強くなる

唇が赤い理由。赤が熱い理由。そして生命が赤を選ぶ理由。

それらを深く知ると、赤で気分が高揚する理由がよく分かるし、女性が赤を選ぶ理由もよく分かります。おそらく女性は、赤に生命力を感じています。低血圧とは真逆の、熱い生命力を。

寒い冬の白い朝。まず手に取るべきは、ルージュという赤くて熱い生命力。

赤をまとった自分を見ることで、血圧はかならず上がります。気分を上げて、血圧を上げるのではなく、血圧を上げて、気分を上げる。ルージュにはそうした物理的な効果がある。

ルージュで女性はもっと強くなる。

今回のまとめ

冬の朝は特に辛くなる低血圧。その対策は地道なものが多く習慣になりにくい。しかしルージュは手軽な対策になる可能性があります。赤が熱を帯びているのは、波長の近い赤外線やマイクロ波のため。人間をはじめとする生命体は常に熱を欲し、熱に情熱や生命力を感じる。寒い朝こそ手に取りたいのはルージュ。気分を上げて血圧を上げるのではなく、血圧を上げて気分を上げる。ルージュにはそうした物理的な効果がある。ルージュで女性はもっと強くなる。

<尾池博士の所感>男性がかつて女性だった名残りは乳首だけじゃなかった。

工学博士/1972年生まれ。九州工業大学卒。FILTOM研究所長。FLOWRATE代表。2007年、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞受賞。2009年、PD膜分離技術開発に参画。2014年、北九州学術研究都市にてFILTOM設立。2018年、常温常圧海水淡水化技術開発のためFLOWRATE.org設立。
イラストレーター・エディター。新潟県生まれ。緩いイラストと「プロの初心者」をモットーに記事を書くライターも。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。
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