Dr.尾池の奇妙な考察 18

【Dr.尾池の奇妙な考察18】肌のキメは細かければよいのか

化粧品の開発で、それまで縁のなかった「女性の美」について考えるようになった、工学博士であり生粋の理系男子である“尾池博士”。肌のキメは美容の中でも特別な存在だそうです。人を見る目にも関わるキメの正体に迫ります。

●Dr.尾池の奇妙な考察 18

「ふつう」より劣っている?

自分の肌に自信はありますか? 最近では色の白さに加え、陶器のような・プラスチックのようなといった、毛穴が見えないほどのキメの細かさがよく謳われています。肌のキメは美容の中でも特別です。シミ、シワ、美白は、どれも目にはっきり見える色、線、白さであり、明確に理解できますが、キメだけは違います。キメを引き起こしている皮溝や皮丘を直接目で捉えることはできません。何となくの質感。その向こうに実体である皮溝や皮丘がありますが、それらを光の散乱によって間接的に捉えているだけです。

間接的に捉える場合、見えたものを一度脳で変換しなければならないため理解が難しくなります。そこに偏見、誤解、錯覚が生じるからです。

もっとも単純な例は男性の劣等感だと思います。男性はほぼ全員といっていいくらいに、自分のものに劣等感を持っています。なぜか。自分のものは上から見ることが多いからです。しかも下に下がっているものを上から見るので、その線長は短く見えてしまいます。しかし風呂場で隣の男性が立ち上がった時、目のすぐ前を横切るその男性のものは、水平方向から直視することになるので、たいていは自分のものよりも長くみえてしまう。「負けたかも」というショックが、もともと鈍い観察力をさらに鈍くしてしまいます。男風呂が静かな一因はここにあるかもしれません。実はみんなで少しずつ落ち込んでいる。そして脱衣所の大きな鏡は慰めのためにあるのかもしれない。自分のものも水平方向から見なおすことで自信を少し取り戻す。

人の顔も、本人が鏡を見るように真正面から覗かれることはほとんどないでしょう。肌のキメも男性の劣等感と同じような錯覚が起きている可能性は大いにあります。肌に対する劣等感についても、視点を変えれば解決できるのではないでしょうか。

劣等感による偏見、誤解、錯覚

肌のキメに対する劣等感を突き止めるため、もう一度男性のものへ話を戻します。以前、海外の方と付き合っている女性の話を聞いたことがあるのですが、彼のものがあまりにも長すぎて奥に届きすぎるそうです。当初は行為に夢中で気にしていなかったそうですが、ある時、奥に違和感を感じて病院で受診したところ、傷がついていると注意されたそうです。彼はその診断にとてもショックを受け、それからは半分だけしか入れないようになったそうです。実は彼女自身はあまり気にしていなかったそうなのですが、とてもやさしい彼に惚れ直したそうです。

私はその話を聞いて、そうか長すぎてもダメなんだと内心ほっとしましたが、次の瞬間、いや、そういう話じゃない、とかろうじて自分を取り戻しました。この話は「長さ」の話じゃない。「やさしさ」の方の話だ。長さにあまりにも囚われすぎている自分に気が付いた瞬間でした。

彼女はなぜ彼に惚れ直したのか。それは長さに惚れ直したのではない。彼のやさしさに惚れ直したのにちがいない。(たぶん)

長ければ長いほどよいという偏見、長い方が男らしいと思ってもらえるのではないかという誤解、そして自分のものは短いのかもしれないという錯覚。学術的に何cmかはさておき、私はそんな偏見と誤解と錯覚に囚われすぎていた。その長さが自分にとってどのような意味を持つのか。それはセンチメートル以外のところに答えがあるのではないか。

最高の肌のキメを作るためにできること

そもそもキメも、毛穴が完全に見えないような肌質が自分にとってのベストなのか、大いに疑問を持っていいのではないでしょうか。細かければ細かいほど良いという偏見があるのではないか。細かい方が美しいのではないかという誤解や、自分はキメが粗く見えているのではないかという錯覚があるのではないか。

これは体型や筋肉についても同じことが言えそうです。なぜ痩身ばかりを追い求めてしまうのか、なぜ筋肉ばかりを追い求めてしまうのか。そこにも同じような偏見と誤解と錯覚が見え隠れします。それらは次第に肥大化し、画一的なファンタジーに形を変える。特に男性のものに関わる偏見と誤解の象徴が、エロコンテンツに散見される長くて太くて荒々しい過剰な巨大描写ではないでしょうか。

女性の肌のキメも、細かさの偏見、誤解、錯覚に囚われすぎているのかもしれない。自分の肌のキメが自分にとってどんな意味を持つのか、それは細かさだけで決められないし、ファンデーションや明かりだけで決まるようなものじゃない。キメが持つ、美しさ、温かさ、妖艶さ、力強さ。それらを作り出すのは自分自身の内なる新陳代謝という生命力。自分という人間性の発露こそが、肌のキメ。自分らしい生命活動じゃなければ、自分らしい肌のキメは作れない。つまりこれは、思いっきり夏を楽しめってことじゃないでしょうか。この夏、思いっきり楽しんで、自分だけの肌のキメ、作ろう! UVクリームだけは忘れずに!

今回のまとめ

肌のキメは細かければいいわけじゃない。男性のものと同じで画一的な価値観に囚われる必要はありません。キメの美しさ、温かさ、妖艶さ、力強さを作り出しているのは他でもない自分自身の内なる新陳代謝という生命力です。自分だけの人生を思いっきり楽しんで、自分だけの肌のキメを作り出そう。

<尾池博士の所感>

マウンティング気質の男性は劣等感が強い場合が多い。「そうでもないよ、思っているよりも大きいよ」と言ってあげたい。

工学博士/1972年生まれ。九州工業大学卒。FILTOM研究所長。FLOWRATE代表。2007年、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞受賞。2009年、PD膜分離技術開発に参画。2014年、北九州学術研究都市にてFILTOM設立。2018年、常温常圧海水淡水化技術開発のためFLOWRATE.org設立。
イラストレーター・エディター。新潟県生まれ。緩いイラストと「プロの初心者」をモットーに記事を書くライターも。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。
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