【Dr.尾池の奇妙な考察16】菌に習って親友を探そう
●Dr.尾池の奇妙な考察 16
菌との相性は抜群
皮膚の上には1cm四方あたり1万個の常在菌が住んでいます。そんなにびっしり? と驚きますが、計算してみると意外とそうでもありません。菌の体長はだいたい1ミクロン(1ミリの千分の一)ですが、その小ささは想像以上で、たとえば菌を私たちと同じ大きさとした場合、1cm四方は兵庫県西宮市(10km四方)くらいの広さになり、そこに1万人暮らしていることなります。実際の西宮市の人口は48万人ですから、かなりゆったりしていることが分かります。もし一人ぼっちの菌がいたとしたら、彼にとっての「もっとも身近な生物」は、実はこの私になります。
しかも彼は私のことが好きです。正確に言えば私の汗と皮脂が好きです。でもそれはつまり私のことが好きだってことだと思います。彼は私の皮脂を分解して脂肪酸やグリセリンなどの保湿成分を作り、自分にとって気持ちの良い環境を作っています。それは私にとっても気持ちがいい肌でもあって、私が気持ちいい時、彼も気持ちいいと感じています。これって、俗に言う、相思相愛って奴じゃないですか?
私の肌の上にはそんな相性抜群の相思相愛菌が1兆個も集まっています。それほどモテモテの私でも、人間社会の中では連戦連敗でした。
人間との相性は最悪
企業に就職したての頃、上司も混ざる男性ばかりのお酒の席での話題は仕事、噂話、大笑いのヘビーローテーションでした。お酒が飲めない私は退屈で、時々、宇宙、昆虫、地球の話題を投げかけました。ところがその度に固まる空気。そして戻される話題。
数か月後、鈍感な私でもようやく気づきはじめました。ここに宇宙と昆虫と地球の話がしたい人はいないらしい。私は空気を読み、話題を選び、空いたグラスを見つけてはビールを注ぎ始めました。そして、自分が何者であるのか、伝えることもほぼ無くなりました。
相性の確率
冒頭の、私の肌の上には相思相愛菌が1兆個も集まっている、という話。すみません、実はかなり盛っていました。菌の個数としては1兆個で間違いないのですが、種で言えば1000種くらいです。同じ種の菌はほぼ同じ顔と性格をしていますので「一人」とカウントすべきでしょう。だから私の肌の上に集まっている相思相愛菌は1兆人ではなく、正直に言えば1000人です。
この相思相愛菌の1000人、多いと思いますか?
地球上の菌の種の数はおよそ10億種以上。1000種とは0.0001%に過ぎません。100万人に1人の確率です。
これは私の実感にかなり近いです。私の住む北九州市はだいたい100万人。その中で私と出会い、かつ、相性が抜群の恋人ないしは親友といえば、おそらく1人なのではないかと思います。そういえば何人かの年長者が言っていました。本当の友は生涯に一人か二人、だと。
私たちと菌は違う。たしかにそうです。でも100万人に一人という恐ろしく低い確率が、私の実感に近いのも事実です。そしてそれは、菌たちもそう考えているのではないかと思うのです。
だから菌たちは何億年も昔から、全力で自分の分身を増やし、地球中にばら撒き、全力で相性のいい肌に会いに行ったにちがいない。そして辿り着いた結果、いま彼らは私の肌の上にいる。
だから全力で会いにいく
菌たちは数で勝負した。私はこの身体で勝負するしかない。全力で自分をアピールしなきゃいけないし、相性を知るには、相手もしらなきゃいけない。100万人に一人。そんな確率の中で相手を知ろうとせず、自分を語らないなんて、確率は限りなくゼロになってしまう。考えるだけで恐ろしい。
相性に一度絶望してから4-5年経ったくらいでしょうか。出会いは突然でした。彼はビールを片手に「ブラックホールの向こうに別の世界があるかもしれない」と顔を真っ赤に熱弁していました。他の人にとっては少し変わった男かもしれません。でも、私とは常在菌レベルに相思相愛でした。彼との宇宙話は今も続いています。
今回のまとめ
肌の上に住んでいる1000人の相思相愛の常在菌は全体の0.0001%に過ぎません。100万人に一人の確率です。ひとりの人間が出会える恋人や親友も同じような確率なのではないでしょうか。そんな中で、傷つくのを恐れ相手を知ろうとせず、自分を語らないなんて、確率は限りなくゼロになってしまう。考えるだけで恐ろしい。数で勝負した菌と同じように、場数で勝負して全力で会いにいこう。
<尾池博士の所感>
常在菌レベルに相思相愛ということは、常在菌レベルに忘れてしまうこともあるってことか。気を付けよう。
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