【Dr.尾池の奇妙な考察14】われわれは変態動物である
●Dr.尾池の奇妙な考察 14
ビフォー&アフター、どっちが「本当の姿」?
私の友人にお化粧に積極的でない女性がいました。もちろんお化粧なんて個人の自由だからどうということはないのですが、その友人がふとした会話の中で「お化粧ね、実はしたいと思ってる」とつぶやきました。ついめんどくさいと思ってしまうけど、お化粧してみるとどんなふうに変わるのだろうと思う時はあるとのこと。でもやり方がいまいち分からないし「どうせ変わらないだろうし」という話でした。
結論から言えば、とても魅力的に変わりました。情報収集にも積極的になって、着る服やバッグも変わりました。「やっぱりやってみるもんだね」というのが本人の感想でした。
私はこの時、友人の「本当の姿」を見たような気がしました。このような言い方をすると、男性特有のいやらしい感想だと受け取られそうですが、そのように受け取っていただいてもかまいません。そもそもいやらしさゼロで女性を見るなんて私にはとても不可能だと最近分かったからです。
ただし、私のこの感じ方には一つ重要な前提があります。それはお化粧前とお化粧後、二つを合わせて「本当の姿」だと感じたということです。友人の変わろうとする姿と、変わることができた姿、その一連を見て「本当の姿」を見たと思いました。
一般的には「本当の姿」は一つと考えることが多いような気がします。
友人の「どうせ変わらない」という言葉にも、本当の姿はこれしかないから、というニュアンスを感じましたし、ひどい例で言えば、お化粧前の素顔を見て、だまされたというような男性もいます。私も以前は明らかに「本当の姿とは一つしかない」と考えていました。映画やマンガの「本性を現したな」という表現の影響もあるのかもしれません。
基本的生態としての「変態動物」
しかし昆虫は分かりやすいです。幼虫、さなぎ、成虫、すべて本当の姿です。一連の変態すべてひっくるめてその昆虫のイメージです。ただこんな昆虫の変態話ではきれいごとすぎて、私たちの思い込みを覆すのはむずかしいでしょう。ということで、私たち自身の変態について考えてみます。
裸の自分と、服を着た自分。どちらが本当の姿でしょうか。当然どちらも本当の姿です。ところが外で服を脱げば、変態! と指をさされ、服を着たままベッドインすれば、説明が必要になる。コスプレだとかなんとか。なぜでしょうか?
それは私たちが実は変態動物だからです。恒温動物(体温を変えない動物)ですが、同時に変態動物(姿を変える動物)でもあるからです。念のためですが、恒温動物は学術用語ですが、変態動物は学術用語ではありませんので注意してください。私のふざけた造語です。
昆虫のように成長に合わせて変態するのではなく、TPOに合わせてリアルタイムに変態する。服を着たり、お化粧したり、装備を身につけることで多種多様な行動様式を獲得できるように進化したのだと思います。
このTPOに合わせた変態を単なる社会行動だと片付けるのはもったいないです。なぜなら私たちはいま、単なる服装や化粧の役割ではなく、動物園の説明プレートに書かれるような基本的生態について話をしているからです。
私たちは「変態動物」。この新たな視点によって表面的な思い込みを排除することができます。服装も、化粧も、装備も、実は何ら変わらない。素顔を見て「だまされた」なんて、服を着た人に言われる筋合いはない。状況に応じて大胆に変化することができる。あるいは変化することで生き抜いてきた。それが変態動物、人間です。
可逆は武器
私たちは巨大な文明に守られ、つい生命力を忘れがちです。しかし毎日当たり前に服を着たりお化粧をすることが、実は私たちの戦う姿そのものだった。もっと積極的に変わる技術を磨き、ダイナミックに変化して、獲物をおとさなくてはならない。
変わる技術を磨くとき同時に忘れてはならないのは、変化と表裏一体である「戻る技術」です。整形はもちろん強力な手段ですが、整形には不可逆性という大きなリスクがあります。不可逆性とは元に戻れないこと。服とお化粧は取り除けば元に戻れます。元に戻れるということは変化の幅が広がるということです。変態動物として変化の幅を失うのはもったいない。変態動物にとって可逆は武器です。
今回のまとめ
私たちは変態動物です。だから変化の前後でどちらが本物なのかという視点はナンセンス。どちらも本物だし、それは変化の幅。きびしい自然界に生きる変態動物として、変わる技術は磨き続けなければならないし、同時に元に戻る技術も磨かなくてはならない。ビフォアーとアフター、両方合わせて「本当の姿」です。
<尾池博士の所感>
いま高校生と共同研究中で、近々やむを得ずルージュを初体験する予定です。
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