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コンプレックスは愛

増田セバスチャン「『自分らしく生きる』とは、覚悟を持って生きること」

きゃりーぱみゅぱみゅのMVで世界的に注目され、ファッション・アート・エンタテインメントの分野で原宿を拠点に「カワイイ」カルチャーの先駆者となったアートディレクター・増田セバスチャンさん。固定概念にとらわれず、自分らしいファッションをまとい、表現することを肯定してきた増田さんは、今、ミレニアル女性たちが抱える生きづらさやコンプレックスについて何を思うのでしょうか。お話を伺いました。

●コンプレックスは愛

世間の幸せの形とは違うコンプレックス

増田セバスチャンさん(以下、増田): 僕自身は、コンプレックスの塊のような人間です。結婚もせず子どもも持たず、「あったかい家族」という一つの幸せの形からはみ出ている。
今となっては古き良き時代の幸せ、かもしれないけれど「サザエさんみたいな家庭に入って幸せを得られる人って何%なんだろう」って思うんです。48歳になった今でも、ネットやテレビから「結婚や家庭こそ幸せの形で最高だ!」って思わされる瞬間が何回もあって、自分の人生は正解だったのか、と今も戦っています。

――世界的に活躍している増田さんでもそう思われるのですね。

増田: はい。よく「自分らしく生きる」って言われますが、自分らしく生きるには、覚悟が必要だと思っています。何も努力せずに何かをなしたり、自分の個性を生かして社会に認められることはないと思うんですよ。20代はがむしゃらに頑張って、30代でやっと何かひとつくらい「できる」ことが見えてきて、40代くらいから人生は自分らしく生きられるようになっていく。
だから、あまり早くから「私は何もできてない」って思う必要はないと思う。「まずは、もっとがむしゃらに頑張ろうよ」と言いたいです(笑)、特に20代の方には。

――増田さんも、若いころはモヤモヤしていたのですか。

増田: 苦しかったですね。でも、何もできなかった20代にがむしゃらにやっていたことは、人生の財産になっています。

難聴、家庭崩壊、鬱屈した毎日を過ごした

家庭環境が壮絶だった増田さん。思春期に家庭崩壊を経験し、学校に馴染めず鬱屈した毎日。高校卒業後はフリーターになり、悶々とする日々を送っていたとき、演出家などマルチに活躍した寺山修司さんの著書『書を捨てよ、町へ出よう』に出会います。「既成概念で凝り固まるな、そこからどう飛び出すか」というメッセージに衝撃を受けて演劇の世界に入ったことが人生の転機になったといいます。 

キティちゃんや駄菓子屋さんに「過激さ」を感じた

―― 苦難を乗り越え、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「PONPONPON」のMV美術を手掛けたことなどで世界的に注目を集め、「カワイイ」文化の先駆者として活躍されています。増田さんがつくった「カワイイ」とはなんでしょうか。

増田: 「カワイイ」は、僕が好きだった「過激さ」を追求した結果生まれたものです。物心ついたときからノイズやハードコアの音楽が大好きで、工場を勝手に占拠して、鉄を切ったり牛の頭を解体する現代美術家のお手伝いをしていました。過激なものは他にないかと探していたときに、キティちゃんが「過激だ」と思ったんです。口がない、表情がない造形を大人が「かわいい」と騒いでいる風景を見て、これはすごいと思った。人間の本性や欲望、残酷な側面と、幼い頃から大好きだった玩具屋さんや駄菓子屋さんにあるカラフルなものへの思いがかけ合わさって、「カワイイ」ができていったんですよね。

――自分だけの価値観、固定概念にとらわれない表現を追求した結果生まれたんですね。

増田: そうです。僕にとっては、「カワイイ」とは単に弱く愛らしいものではなく、その核にはいつも「毒」――過激さ――が含まれているものだと思っている。女性たちが表現する「カワイイ」も、自分の内面にある欲望が外に出たものだと思っています。カワイイとは、誰にも踏み込めない、自分だけの小さな世界のことなんです。

誰にでも、自分だけの世界や好きなものが一つはあると思います。好きなものについてとことん考えるって大事なことだし、ある意味勇気のいることです。好きなものを否定されると、自分そのものを否定されたような気になってしまう。でも、そこで自分の気持ちにふたをせずに、好きを追求することが、自分らしい何かを生み出すと思っています。

カワイイの哲学は生きづらさを解放する

――世界からも、カワイイ文化が支持され続けているのはなぜなのでしょう。

増田: 僕は世界中の若い世代に会って一緒にものをつくっていますが、どの国にもそれぞれ固定概念があり、何かに縛られている。日本なんて特にそういう制約が多いですよね。そこから自分を素直に解放できるひとつの表現方法じゃないでしょうか。

――「自分らしさ」を求めて若い世代がもがいているのは、世界共通なんですね。

増田: ただ、世界はもっとずっと進んでいると感じています。
例えば何かやりたいことがあるとき、行動に移すまでが驚くほど速い。10代の子が僕に「一緒にイベントをやりたい」と直接コンタクトを取ってくるし、お金が必要だとなればYouTubeやクラウドファンディングなどでどんどん発信して実現しています。日本は世界と比べると内向的になっている感じがしますが、女性は積極的ですね。僕のアトリエも女性ばかりです。問題は男性の方にある。今の時代は「母性の時代」なのにね。

――母性の時代?

増田: 女性的な感覚っていうのはこれからの時代ますます重要で、強い“父性”を振りかざして上から押しつけていてはうまくいかない。相手を受け止めて、細やかに協調しながら進めていく女性や女性的な感覚がある男性が、新しいものをつくり、世の中を変えていくだろうと思っています。

そうそう、きゃりーぱみゅぱみゅは、もともとは僕がつくった原宿のアパレルショップ「6%DOKIDOKI」によく来ている子でした。当時は他にも個性的な子はたくさんいたので、飛び抜けて何か持っているという印象はなかったんです。ただ一つ、自分自身のことを無名のときからブログなどで発信しているのを見て、「自分の内側ではなく外側に向けた表現ができる、原宿では珍しいタイプだな」と思ったくらい。

裏を返せば、どんな女性にでも輝けるチャンスはあるということです。
自分の好きなものを貫いていればね。

続きの記事<コンプレックス、ありますか?街頭で50人の女性に聞いてみたら…>はこちら

●増田セバスチャンさんプロフィール
アートディレクター/アーティスト。6%DOKIDOKIプロデューサー。京都造形芸術大学客員教授、ニューヨーク大学客員研究員。2017年文化庁文化交流使。演劇・現代美術の世界で活動した後、1995年に「6%DOKIDOKI」を原宿にオープン。2011年きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」のMV美術で世界的に注目され、現在は海外でのアーティスト活動を本格化し、広告や商品のアートディレクション、映画監督、コンセプトレストラン「KAWAII MONSTER CAFE」のプロデュースも手がける。著書に『家系図カッター』(角川文庫)『「世界にひとつだけの『カワイイ』の見つけ方」(サンマーク出版)などがある。
増田セバスチャンさん公式ホームページ

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。
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