もっと話そうよ、下着のこと。自分のことを愛する近道かもしれない。
●コンプレックスは愛
私の家族はオープンで、母とも父とも、いろいろな話をしてきた。学校での出来事、楽しかったこと、友だちにされていやだったこと。もちろん、好きな男の子の話も。
両親も、いろんなことをよく話してくれた。自分の過去だったり、昔こんなやんちゃをしたなんて、くだらない話も含めて。
でも、唯一避けていたのはカラダの変化についての話だ。父とはもちろん、母ともこの話題は避けていた。
胸が膨らみはじめたころ、母は「ブラジャーをつけなさい」と言ってきた。カラダの変化についていけない自分。「私のカラダはどうなってしまうんだ」という不安があって、それを拒んだ私を、ある日、母は何も言わずにデパートの下着売り場に連れて行った。
売り場の人が優しく声をかけてくれる。「まずはファーストブラから試してみましょう」そう言って渡された人生初のブラジャー。なぜか嫌悪感はなく、喜びを感じたことを覚えている。
母は口を出さず、じっと近くで見守っていた。そっと私が手にした下着をかごに入れ、「これをください」と会計へと向かった。
「あなたはもっと楽しんで」
この日以来、下着やカラダについて母と話せるようになった。母は発育がはやく、胸が大きくなるのが嫌だったそうだ。
どんどん大きくなる胸を隠すため、両肩を内側に入れ、背中を丸めて過ごしていた10代。現在は胸の大きさよりも、思春期に染み付いてしまった姿勢の悪さを気にしている、と言った。そして、
「あなたには楽しんでほしいの。胸が大きくなることは恥ずかしいことじゃないから、楽しんで」
そんな彼女の一言は私に強く響いた。
あれから10年以上の歳月が経ち、私は28歳になった。
映画「007」シリーズに出てくるような妖艶な女性に憧れていた私は、大きくなったら、自然とあんな体形になれると思っていたけれど、現実はそうはいかない。身長は伸びず寸胴鍋に手足が生えたような体形だ。
下着のカタログを見ても、モデルたちはすらっとした体形で、胸も大きくウエストはくびれている。「この下着をつければ私でもそうなれる」と思って買っても、理想と現実は全く違う。
でも、思春期に抱いたような自分のカラダに対する不安な気持ちはもうない。買った下着をモデルと同じように身につけられず落ち込むことは、変化する自分のカラダに悩んだ母が私に授けてくれた「楽しんで」に反するのだ。
そうやって下着を楽しめるようになってきた私はもうすぐ出産を迎える。
妊娠中のカラダの変化は思春期と同じものがある。自分の思いとは離れたところでどんどんと変わっていく体形に、私はこの数カ月、ずいぶん戸惑った。
大好きなTバックを履くと力士のようになり、お気に入りのワイヤー入りのブラは息苦しさを感じるようになっても、変化を受け入れ切れずに、無理矢理下着にカラダをねじ込もうとしていた。
誰のために身につけるのか
夫と付き合いはじめたとき、私のTバックを見て「これ、守備力ないじゃん。小さすぎじゃない?」と聞いてきた。「私は下着に守備力を求めているんじゃないんだよ」と驚き、下着への思いを力説して以来、単なる機能的なものではないんだな、と理解した彼は、新しい下着を買えば「新しくしたのそれ?」「それいいね」と声をかけてくれるようになった。
下着というモノだけでなく、自分自身をも褒めてもらえたような、幸せな気持ちになれていた。
そして今、私は自分の力士のような体形を受け入れ、マタニティ用の下着を身につけている。妊娠前にお気に入りだった下着を身につけられない切なさは、正直あるけれど、下着たちは待っていてくれる。
このトツキトウカの日々は私のオリジナルで、もう戻ってはこない。楽しむほうがきっと私は幸せだ。
「楽しんで」と思春期の私に言ってくれた母のことばにはこんなにも深い意味がこめられていたのかな、なんて最近また思い出すのは、私が深読みしすぎだろうか。
だからもっと話そうよ
物心ついたときからずっと、いちばん近くで私のことを「包んで」きてくれた下着って、私にとって何だろう。たどり着いたのは「自分を一番愛してくれるもの」だった。
肌に直接触れて、何も言わずに優しくそばにいてくれる。
好きな下着を身につけることで、背を伸ばして、自分を好きだと言える。自分を愛することができる。
出産を経て、私はまた、大好きな下着たちを身につける日がくるだろう。また、新しいお気に入りを見つけに出かけたいと思う。
「どこそこのサロンで髪型を変えた」「インスタで見つけたネイルデザインにしてみた」……そういう装いと同じように、下着もライフスタイルにとって大切なもの。
「あそこのブラが可愛い」「フロントホックよりもバックホックの方がロマンチックだよね」「こんなブラがあったらいいよね」なんて、友だちや家族、大切な人と話すことで、新しい世界や新しい自分に出会えるはず。だから、下着のことをもっと話そうよ。
私のお腹にいる小さな女の子。いつか彼女が自分のカラダに不安を感じたら、「一緒に楽しもう」と背中を押してあげたいと思う。自分のことを愛する「下着」というきっかけを母がくれたように。
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