編集部コラム

最強の兵士に必要なもの

毎週日替わりでお送りしている「telling,編集部コラム」。名誉編集部員ケチョップではない、もうひとりの土曜日担当です。みなさま、どうぞ一時(いっとき)一服、お楽にお立ち寄りを……

●編集部コラム

最強の兵士に必要なもの

突然ですが、最強の兵士に必要なものは何でしょう?

あなたが仮に「最強の兵士になりたい」と思ったとしたら、何が求められるか。

先日、とある一冊の本に驚かされた。
パラパラとめくったページには、「人は何のために生きるか。人生で大切なことは何か」が説かれており、その答えはこうだった。

・人にはそれぞれ、誰かに喜びを与えられる方法や、その人だけが持つ「役割」がある。
・(その役割を果たすことで)人に喜びを与え、人から喜ばれる存在になれば、「自分は世の中から必要とされている」という実感を持つことができる。
・その喜びが、「人から喜ばれることをもっとしたい」という連鎖を生み、そうやって生きていくことで、その人は自己肯定感を持ち続けることができる。
・それが、幸福というものではないか。

「開いた口がふさがらない」と「閉口する」が同時に起きた。

「自己有用感」と「自己肯定感」

内閣府の「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」というのがある。世界7か国の13~29歳の男女を対象に実施したこの調査では、若者の「自己肯定感」についても調査していて、「自分自身に満足している」という自己肯定感と、「自分には長所がある」(長所)、「自分の考えをはっきり相手に伝えることができる」(主張性)、「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」(挑戦)、「自分は役に立たないと強く感じる」(負の自己有用感)などとの関連も分析している。

ここから見えてきたのは、諸外国の若者の自己肯定感に影響しているのは、「長所」に次いで「主張性」「挑戦力」といった「自分自身」の特徴や能力であるのに対し、日本の若者の自己肯定感は、「長所」に加え、人の「役に立つ」(有用感)あるいは他者への「不信感」という対他者との関係要因から影響を受けている、ということだ。
世間でよく言われるとおり、日本の若者の自己肯定感そのものは、他国に比べて「極めて低い」。その「低さ」についての分析・考察は以下のとおり。

アメリカやイギリス,フランスといった国の青年の「自分への満足感」の高さは「自分はどうであるか?」といった対自的な自己認識の要因によるものであるのに対し,日本の青年の「自分への満足感」の低さは,対自的な要因のみならず,「自分は他者にとってどうであるか?」「自分にとって他者はどうであるか?」といった対他的な自己認識の要因によっても影響を受けているということが考えられる。

誰かの役に立たなければ、価値がないのか

「自己肯定感が低い」ことは、悪いとは言い切れない。その人は人並み以上に向上心が強く、「自分はこんなもんじゃない」意識が旺盛なのかもしれない。
「自己有用感」というものを否定もしない。誰かの、世の中の役に立つこと、役に立っていると感じることは確かに喜びをもたらし、「自分には価値がある」と思わせてくれるのは事実だからだ。

でも、逆はどうなのか? 誰かや世の中の役に立っていないと、価値がないのだろうか。
人ごととしてこう問われれば、「そんなことはない」と答える人もいるだろう。しかし、こと「自分ごと」になると……?

問題と解決。どちらか一方では存在できない

ここから先は、私の考え。
「役に立ちたい」「喜びを与えたい」「私にはそれができる」「自分は誰かの役に立つ、価値ある人間だ」
こうした高い自己有用感を持つ人は、その裏に、「役に立たなければいけない」「でなければ価値がない」「価値がないのは悪いことだ」という根強い信念(コア・ビリーフ。思い込み)が潜んでいることが多い(と私は思っている)。そしてそのビリーフは、シンプルに自己を信頼し肯定するという、「対自的な自己肯定」を阻むもととなる。

このような人の周囲には、現象として何が起きるか。

今のところ陰と陽とで成り立っているこの世界で、どちらか一方のみ存在する、ということはできない。吸った息を吐かなければ(次の息が吸えずに)人は死んでしまうし、2次元キャラではなく3次元に住む私たちの手のひらは、手の甲がなくては存在できない。「映え~!」とアップした三つ星グルメの一皿は、数時間経てば排泄物だ。

同様に、「問題」と「解決」はセット。同時に存在する。何か問題が起きたときには、必ず解決策がすでにどこかに存在する。

こう言うと聞こえはいいけれども、その先も忘れてはいけない。「解決」が存在したならば、そこにはもう「次の問題」が必ず生じている、ということを。

自己有用感の高い人の世界に起きる現象とは

「あの人は問題解決能力が高いよね」と言われる人は、実はトラブルメーカーかもしれない。少なくとも、その人のまわりには、「解決してほしい」と問題が集まり……実際そうなっているのではないだろうか。

自分は、役に立つ。(だから)価値がある。こう思っている人の周囲には、それを証明するための事象が起き続ける。モラハラやDVに遭う人は、「私なら彼・彼女を何とかできる」という自己有用感があることが多いといわれる。それを実証するために、相手が現象を起こす役となる。共依存の関係ができあがる。問題→解決(自己有用感実証)→問題→解決(自己有用感実証)のループ。

果たして、この人の「自己肯定感」はどうなのか?

冒頭の質問の答え。
最強の兵士に必要なもの、それは、武器でも優れた戦闘能力でも、勝利という目的を果たす「役に立つ」力でもない。

最強の兵士に必要なもの。それは「戦争」だ。

役に立ちたい、それが喜び、と思って生きる人が増えれば増えるほど、この世界には,解決してほしいと「問題を抱えた人」が生まれ続ける。

telling,創刊副編集長。大学卒業後、会社員を経て編集者・ライターに。女性誌や書籍の編集に携わる。その後起業し広告制作会社経営のかたわら、クラブ(発音は右下がり)経営兼ママも経験。
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