法律未満の何でも相談〈番外編〉

ドラマ「けもなれ」ガッキーへの言動は“パワハラ”?法律のプロの答えは

ガッキーこと新垣結衣が会社で次々と押しつけられる無理難題に耐える姿が話題のドラマ「獣になれない私たち」(日本テレビ系)。常にキレ気味の口調でガッキーをいじめる社長の言動は“パワハラ”めいていますが、果たして法律的にはどうなんでしょうか。telling,で「法律未満の何でも相談」を連載中の澤井康生弁護士に聞いてみました。

仕事ができるせいで、上司から叱られる

ガッキーが勤務する会社「ツクモ・クリエイト・ジャパン」の九十九社長(山内圭哉)は非常の頭の回転が早くせっかちであることから、大声のマシンガントークで社員に対し指示を発します。社員がミスした場合も大声でミスを指摘し、早急に改善策を取るよう指示する人物として描かれています。

これに対し、ガッキーは事務処理能力が高いため自身のミスを叱責されることはありませんが、他の社員の仕事まで次々と振られ、オーバーワークになって困惑している状態です。

ガッキーが受けている仕打ちが法的にパワハラに当たるかどうか、過去の判例を見ながら考えてみましょう。

2012年のある民事訴訟の判決では、部下に対して「辞めろ!辞表を出せ!ぶっ殺すぞ、お前!」と暴言を吐いた上司の言動が、パワハラに該当すると認定されています。

この時、裁判所が示したパワハラの基準は、加害者”と“被害者”との人間関係や仕事上の関係など諸々の状況を加味した上で、「業務上の指導の域を超えて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような圧力を加える行為をした」と言えるかどうかです。

パワハラを否定した例もあります。たとえば、基本的な業務内容やルールを十分に覚えておらず、同じようなミスや不手際を繰り返した社員に対し、上司や同僚が退職や転職を示唆するような発言を繰り返したケース。2016年の民事訴訟の判決では、「穏当さを欠く表現が用いられたことは否定できないものの、パワハラとまでは認められない」との判断が示されました。

要するに、パワハラになるか否かはケースバイケース、ということになります。

厳しく叱られても、パワハラにあたらないケースも

では、ガッキーの場合はどうでしょう。九十九社長から直接にはそれほど罵詈雑言も叱責を受けてもいないことを考慮すると、社長の言動は「通常人が許容し得る範囲(社会的相当性)を著しく超えた」とまでは言えない可能性があります。

確かに、社長から次から次へと仕事を指示され、健気に耐えているガッキーを見ていると「ガッキーかわいそう、パワハラ社長ひどい」というイメージを抱いてしまいますが、法的にはただちにパワハラまでは認められないということになりそうです。

ちなみに、ガッキーの同僚である新人社員の上野君(犬飼貴丈)の場合は話が少し違ってきます。

上野君はやる気もなく、基本的な業務内容も覚えないのでミスを連発し、社長から「何やっとるんじゃ、このボンクラ!」的な叱責を受けて震え上がり、第2話では一時的に出社拒否にも陥ってしまう状態です。

その叱責は、ケースバイケース?

上野君が無気力で仕事も覚えないならば、社長が注意や指導を行うことは必要不可欠と言わざるを得ません。問題は、社長の言動が業務上の指導の域を超えて、社会的相当性を逸脱する違法行為とまでいえるかどうかです。

社長は日ごろからの叱責で上野君を震え上がらせ委縮させていますし、「このボンクラ!」的な言動は相手に屈辱を与え、心理的負担を過度に加える行為であり、実際に上野君を出社拒否にまで追い込んでいます。したがって、このケースは、パワハラに該当する可能性が高いと思います。

ただし、これらはあくまでドラマで描かれた描写の範囲内での判断です。実社会の場合は過去からの経緯など、もっと多くの判断材料を集めて考えていくことになるでしょう。ある行為がパワハラと言えるかどうかの単純明快な基準はなく、あくまでケースバイケースで判断していくことになります。ドラマを見ながら「この場面はパワハラと認定できるだろうか」などと考えてみるのも、面白いかもしれませんね。

元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。MBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所非常勤裁判官、東京税理士会インハウスロイヤー(非常勤)も歴任。
パワハラ110番