【ふかわりょう】time goes by
●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」15
time goes by
「こんな店あったっけ?」
父の退院が一日早まり、実家から母と病院に向かう朝。大雨かと思えば、台風の進度は遅く、思いのほか穏やかな風。高速道路を利用することが多いので、ほとんど使わなくなった道を久しぶりに走ると、右も左も見慣れない店が並んでいます。すっかり変わってしまいました。十年一昔と言いますが、僕がこの道をよく利用していたのは小学生の頃で、もう三十年以上前。自転車で行ったり、父の車に乗せてもらったり。そこには、好きな場所がありました。
「サンテラス日吉」
いわゆる大型商業施設。今でこそ、ジャスコなど大きなショッピング・モールが溢れていますが、当時としてはかなり珍しく、とてつもなく大きい印象がありました。サミット、ライフ、アピタ、いなげや、ヨーカ堂。我々の日常を支える地域密着型スーパー。実家の近くに「ユニー」という、一般的なスーパーがあるのですが、「サンテラス日吉」はその巨大版。面積も品揃えもそうですが、なにより高揚感が違います。たまの日曜日に連れて行ってもらう、特別な場所。そんな思いがありました。
いきなり生鮮売り場にはならず、両サイドに靴屋さんとかお花屋さんが並ぶエントランス。シンデレラでも降りてきそうな大きな階段。液晶テレビなどのない時代に、巨大モニターを望むフードコート。それらを見渡す二階フロアには、大きな書店やスポーツ用品、スーパーにあるものよりおしゃれなデザインの洋服。奥にはゲームセンターもあり、よくコインゲームをしました。
縦ではなく、横に広がっていて、デパートとも違う華やかさ。サービスエリアで受ける多幸感に近いものがありました。外に併設されたマクドナルドが彩りを添えています。空港のような大きな駐車場。そこから中に向かう階段。すべての構造が、迷路のようで、子供心をくすぐるものがありました。遊園地に行くようで、この「サンテラス」に連れていってもらう日曜日が好きだったのです。
「あれ?ここは何があったところ?」
「ほら、ここはあれじゃない……」
「……サンテラス?」
「そう、サンテラス!」
そこにあったのは、大きなショッピング・モールではなく、広大な空き地でした。数年前に店名を変えたものの、やがて閉店。約40年の歴史に幕を下ろし、あの空母のような白い建物も取り壊されてしまいました。しばらく続くバリケードと抜けるような青い空が、いかに広大な面積だったかを物語っています。子供の頃大きく感じた場所は大人になると意外と小さく感じるものですが、ここはむしろ逆でした。
「あれ?もう帰れるの?」
横たわっている姿を想像していたのですが、父はベッドに腰かけ、帰り支度万全といった感じでした。
「ガーゼを取らなくちゃいけないらしくて」
最後の処置を終え、3人で病院を後にする日。やわらかな日差しが車内を照らしています。
「タイミングよかったね」
パーシー・フェイスの曲が、流れていました。
タイトル写真:坂脇卓也