【ふかわりょう】秋茄子は、俺に食わせろ
●ふかわりょうの連載エッセイ「プリズム」14
秋茄子は、俺に食わせろ
あの暑さが嘘だったかのように、すっかり涼しくなって、過ごしやすい季節になりました。夏が終わってしまうのはさみしいけれど、秋は秋で最高です。青く澄んだ空に昇る、秋刀魚の煙。紅葉のように、お惣菜コーナーを彩り始める、秋の味覚。特に私は、茄子の挟み揚げが陳列されると、夏の終わりを実感します。
茄子の挟み揚げ。はっきり言って、大人になるまで、いや数年前まで無関心でした。ほとんど気にせず、いてもいなくてもいい存在。目の前に出されても、テンションが上がるものではありませんでした。あの瞬間が訪れるまでは。
晴天の霹靂でした。噛んだ瞬間、すべてが変わったのです。あふれ出す肉汁と茄子の弾力。茄子のしなやかさと、肉の香ばしさ。口の中に広がる多幸感。なんて美味しいのだろう。どうしていままで気づかなかったのだろう。これほど美しいハーモニーを奏でる料理はあるでしょうか。まるで、チェロとピアノのアンサンブル。
この世に有名なコンビは数多いますが、この組み合わせが最強と言っても過言ではありません。レンコンの挟み揚げ、ピーマンの肉詰めもいいですが、やはり茄子の挟み揚げには敵わない。塩をつけるもよし、カラシをつけるもよし。やっぱりポン酢がベストでしょうか。だれが始めたのか、誰が挟み出したのか。試行錯誤の上に生まれたこの茄子の挟み揚げはもはや発明品。料理のノーベル賞。茄子と挽き肉、それぞれの弱点を補い合って、それぞれの魅力を引き出して、最良のパートナー同士が巡り合った奇跡。これぞ最強コンビというにふさわしいでしょう。
そもそも、茄子はもっと評価されていいのです。おたんこ茄子なんて、もってのほか。揶揄するのではなく、褒め言葉として使用するべきです。焼き茄子、茄子の煮浸し、麻婆茄子。天ぷらになったり、お蕎麦に乗ったり。これほど素晴らしい役者がいるでしょうか。こんなに代表作があるのに、控えめなカロリー。肉フェスやラーメンフェスがあるなら、もう茄子フェス開催も時間の問題でしょう。
ファスト・フードでもそろそろどうでしょうか。いつまでもパティをバンズで挟んでいる場合じゃありません。シェイクとポテトと、茄子の挟み揚げ。ピクルスの代わりに大葉を添えて。チーズを挟んでもよし。最高じゃないですか。私は迷わず向かいます。オープン・カーでドライブスルー。レジャーシートを広げて頬張る、茄子の挟み揚げ。それは、秋の宝石。あぁ、挟んでくれてありがとう。挟まれてくれてありがとう。いっそのこと、寝袋のようにして、あの中で眠りたい。
「秋茄子は、俺に食わせろ」
国会の周りを包囲して、みんなでシュプレヒコールをあげる夜。ちなみに「嫁」に食わせないのは、単に独り占めしたいからではなく、体を冷やしてしまうからとか、種が少ないから、などの理由があるそうです。今年の秋も、珠玉の挟み揚げを頬張りたいものです。
タイトル写真:坂脇卓也