人生の選択肢って実はシンプル?「ありたい自分」を生きるコツ

 リクルートジョブズ執行役員を務めた後、「女性×はたらく」にフォーカスした活動をするために独立。働きたいときに働ける社会を目指して株式会社Will Labを設立し、企業や自治体とともに女性の就労支援やリーダー育成に取り組む小安美和さん(47歳)。結婚や転職を考える30歳前後の女性からの相談も多いといいます。「自分ではコントールできないように見えても、実は選択肢は4パターン」と、小安さんの話は明快。自分に向き合うコツとは? 詳しく聞きました。

意欲、能力、エネルギーがあるのに働けない!

 会社名の「Will Lab」のWillは「ありたい姿」、Labは「実験の場」です。働くことを通して自分がありたい姿を実現する、それをサポートするのが私の目標です。

 実は、日本では働きたくても働けない育児中の女性が約300万人いるという試算があります。一度仕事をやめると、その期間が長くなるほど再就職に自信がなくなるもの。それは働く意欲の低下にもつながります。育児や介護、不妊治療、夫の転勤など、「はたらく」に対して女性は影響を受けやすいですよね。

 もちろん、パートナーに経済力があるから働かないという選択もあるでしょう。でも、この先もずっとそうでしょうか。いざとなったとき、働く能力を持っていて困ることはありませんよね。経済力、つまり稼ぐ力と自由にお金を使えることは、自分のありたい人生を創る上でも大事な要素です。

 私が「はたらく」ことについて最初に考えたのは、12歳のとき。海外赴任先で父が交通事故に遭い、専業主婦だった母は「私は仕事をしていないから、あなたたち(子ども)を育てていけない」とこぼしたんです。

 私は働いて自立しようと考え、海外で働きたいからと外語大学に進学し、卒業後に新聞社に就職しました。広告営業部門で企業へ提案をしたり、広告を制作したのですが、企業のビジョンや新製品を伝える仕事は、とても面白く、やり甲斐がありました。入社5年目に夫のシンガポール転勤が決まり、海外で働く夢が叶うと思い、退職して現地へ。しかし、「駐在の妻」という立場が邪魔をして、思うような仕事に就けませんでした。働きたい意欲、能力、エネルギーがあるのに働けない。忸怩たる思いでした。

自分の意志で動くから、しくじりも学びになる

 日本に戻ってからリクルートに就職し、その後、中国版の結婚情報誌『ゼクシィ』の商品責任者として上海に赴任しました。40人の中国人部下を抱える管理職です。日本で成功した企画を展開しても、うまくいかない。そんなとき、「もともと失敗すると思っていた」という部下の言葉にハッとしました。何がヒットするかは現地のメンバーが答えを持っていると気づいたこと、そして、仕事に対して当事者意識を持たせるためのマネジメントの大切さを学びました。それからは、「それは違う」「これがやりたい!」と彼らが上司に対して、ちゃんと発言できる環境づくりを心がけました。

 失敗すると思っていたと発言した彼は、中国の花嫁さん100人がウエディングドレスで集うイベントを企画し、達成したとき、泣いていました。自分の「やりたい」という思いから自分で動き、成し遂げる体験をしたのです。

 Willは、人にやらされるのではなく、自分の意志で選択して、行動すること。だから、しくじりも学びにできるのです。

会社の「30年ビジョン」の前に自分の30年後を考えた

 リクルートジョブズの執行役員をしていたとき、会社の「30年ビジョン」を構築するにあたり、自分の30年後が見えていないことに気がつきました。そこで、ホテルにこもって一人合宿し、自問自答。自分の人生を振り返って、うれしかったこと、イヤだったこと、成し遂げたいこと、それらを整理していきました。

 そして、私がやりたいのは「男性も女性も、それぞれの人が自分の能力を生かせる社会、一人ひとりが自分のWillで、自分の人生を主体的に生きることができる社会にしたい」ということ。

 具体的には、子育てや介護などで仕事を辞めてもまた働けるなど、様々な選択肢を選んでいける社会の実現です。現在は、短時間働きたい育児中の女性と企業のニーズをマッチングする仕組みを考えたり、リーダー育成など、企業や自治体の仕事に携わっています。最近は、岩手県釜石市の地方創生アドバイザーとして、プチ勤務など働き方の提案や働く環境の整備など、多様な人材が働けるためのプロジェクトを手がけました。

迷ったら、10年後の自分に聞いてみる

 個人の相談を受けることも多いのですが、telling,世代で多いのは、結婚や妊娠・出産についての迷い。多くの人は「自分でコントロールできない、どうしよう?」と思考停止してしまうのです。でも、この場合、実は「結婚する」「しない」「出産する」「しない」の4パターンしかないのです。自分は結婚したいのか、したくないのか、出産したいのか、したくないのか、まず、それを考えてみましょう。PDCA(プラン、行動、評価、改善)を繰り返すことで人生は創られます。

 しかし、予測どおりにいかないのが人生。だから、オプションをたくさん持つのです。例えば、「子どもは欲しいが授からなかった」場合には、「不妊治療をするかも? そうしたら時間もお金もかかるのかな?」と連想していけます。人生のオプションがたくさんあれば、「プランAだったけど、そろそろプランBを考えてみようか」など、柔軟に対応できますよね。

世界16カ国の商品を扱う雑貨店Will Galleryも経営している

 一人で考えるのがたいへんならば、仲間と一緒に考えてみるといいですよ。人に話すことで、「私って、こう考えていたんだ」と気づくことも多いですから。

 それから、「Will」は見つけるものではなく、すでに自分の中にあるもの。自分と向き合い、気持ちを整理しながら、ありたい自分の姿を言葉にしていく。それは勇気のいることかもしれません。迷ったとき、私がしているのは「10年後の自分に聞いてみる」こと。未来の私は、この選択をどう思うか? 答えは自分の中にあるのです。

女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
フォトグラファー。岡山県出身。東京工芸大学工学部写真工学科卒業後スタジオエビス入社、稲越功一氏に師事。2003年フリーランスに。 ライフワークとして毎日写真を撮り続ける。
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