広告会社勤務×アクセサリーデザイナー 

意思を持って、”副業”する。ーこれからの副業って?01

顧文瑜さんは、社会人3年目、24歳。外資系の広告会社で働きながら、アクセサリーのプロデュース・製作・販売を「副業」にしている。なぜ副業を始めたのか。聞いてみた。

 私が彼女――通称「こっちゃん」――と出会ったのは今から4、5年前だったと思う。大学時代のサークルの後輩で、年は離れているけれど、しっかりとした物言い。何より彼女の身につけるアクセサリーや洋服がとても鮮やかで、自分を表現することを楽しんでいるなあと思ったのを覚えている。

自分がいないと存在しない世界を持ちたい

――こっちゃん、本職は広告会社だったよね。

 はい、新卒から同じ外資系の広告会社で働いていて、今は戦略プランニングの部署にいます。世の中のマクロトレンドや消費者の動向、新しい商品のコンセプトや競合状態などを見て、企画の方向性を考える部署です。2年目の終わりから配属されました。

――広告業界に就職したのはなぜ?

 大学生の頃から広告業には興味がありました。モノは変わらないけれど、そのコンセプトや見せ方一つで、全然価値が変わるのが面白いなと思っていました。

 今の会社の気に入っているところは、大手の広告会社よりも、一つの歯車としてではなくて、私個人で居られる感じかな。職場環境は恵まれていると思うんです。でも、今でも自分の仕事には満足できていないです。

 最初は企画提案をする部署に配属されたんですが、全然企画が通らなくて。仕事を始めて2年目を過ぎたあたりって、ちょっとしんどいじゃないですか。自分の思い通りにいかないころが圧倒的に多くて、空回りしている感じ。

 ミーティングに出ていても何も発言できないし、前に出られない自分が嫌だったんです。あんまり好きになれなかった。かといって、会社を辞めようとも思わなくて。悔しいじゃないですか。価値のある人間だと思われるまで辞めたくなかったんです。そのもやもやした気持ちをどこにぶつけていいか分からなくて・・・・・・。

 そんな時、副業を始めたんです。

――アクセサリーの製作を「副業」としたのはどうして?

 大学で美術を勉強していたし、サークルで演劇の活動をしていたし、私は表現のフィールドが必要なんだということが分かっていたんです。仕事の中で表現のフィールドを見つけるのにはまだ時間がかかるし、大変だと分かったんですね。自分がいないと存在しない世界を持ちたい、作りたいと思ったんです。

 最初はアクセサリーも自分のために作っていました。作りすぎたら友達にプレゼントするぐらいだったんです。そうしたら会社の先輩に、「売ればいいじゃん」と言われて。

 それで、2017年7月にその先輩と一緒に「KOCHANCHI」というユニットを立ち上げました。私が「こっちゃん」で、先輩が「ちゃんちー」と呼ばれていたので、「KOCHANCHI」です(笑)。

 私がクリエイティブの部分を担当して、先輩がイベントスケジュールやお金まわりをやってくれています。ユニットを立ち上げて2カ月後にハンドメイドのフリーマーケットに出店しました。その時に、アクセサリーを作る時にコンセプトを大事にしたいと思ったんです。

「Meet Your Serendipity」

――どんなコンセプトにしたの?

 マーケットに出店した時に、かわいいのに安すぎる作品が多いことに気がついたんです。材料費にお小遣いを上乗せしたぐらいの値段設定で、ハイコンセプトという概念がなかった。

 今の人は「モノ」にある「ストーリー」とどれだけ自分がマッチするかを考えて、消費行動をとる。俗に言う、「モノ消費」ではなくて「コト消費」です。だからちゃんとしたコンセプトが必要だなと思って、“Meet Your Serendipity”を掲げることにしました。

 「あなたのセレンディピティと出会おう。偶然の出会いこそが、新しいあなたを見つけるきっかけをくれる」という意味です。作品を作る時に、大体のイメージはあるんですが、色合いに関しては組み合わせながら作っていくんですね。偶然が重なっているなと思うんです。

 人がビビッときたり、なんかいいなと思ったりするものを作ろうと思うと、AIだとものすごい数の変数がかかっているんです。人が持っているクリエイティビティーはAIには提供できないと私は思っているんです。偶然出会った私たちの作品を通じて、受け取った人が「こんな自分も好きだな」と思って欲しい。そんな思いを込めています。

――ぶっちゃけ、稼ぎとしてはどうなの?

 もちろん、やるからにはお金の部分でコミットする必要があるとは思うのですが、私の場合、「自分の表現のフィールドを持ちたい」という思いから始めているので、稼ぎたいから副業を始めたわけではありません。

 本職のお給料と副業の収入は6:1ぐらいですね。楽しくてやっていますけど、お金の授受がある以上、責任を持って活動しています。

 活動は、本職が休みの土日が中心です。本職はフレックスタイム制なので、私の場合、平日は午前10時半〜午後7時半で働いています。忙しい時だと午前0時を過ぎてしまいそうな時もありますけど。仕事柄、インプットが重要なので、平日は仕事の勉強やインプットを中心にやっています。イベントが近いと両日ともに費やしますよ。

――本職の人に何か言われたりする?

 周りの人から嫌味を言われたことはないですね。

「アクセサリー作ってるの、面白いね!」と言ってくれる方が多くて、嬉しいです。広告の仕事は自分をブランディングしてなんぼの世界なので、副業のクリエイティブな面は、自分の営業にも役立つなあと感じています。

――周りには結構副業やっている人いる?

 いますね。自分のライフワークを持っている人が周りにたくさんいるので、変な目で見られない環境だとは思います。私は、本職と副業、二つの間を行き来しているのは気持ちが良いんです。エスケープの場になるし、クリエイティビティーの源になっているので、いい相乗効果があるなと思っています。

――最後に、これからやりたいことを教えてください。

 ひとまず今年7月のくらいを目安に、写真をやっている友達とコラボレーションして、アクセサリーと写真を一緒に売るプロジェクトを準備中です。

取材後記:こっちゃんに「私をイメージしたピアス」を作ってもらった。二つとも青色をベースにしたピアスで、布や金属や木材などを組み合わせた個性的なものだった。身につけていると大抵「どこで買ったの?」と聞かれる。私のお気に入りのピアスだ。インスタグラムも是非覗いてほしい(https://www.instagram.com/kochan_chi/?hl=ja)

少し古いデータだが、総務省のデータ(2012年)では、25歳から34歳の26万6600人が副業をしている(※1)。また、ランサーズ株式会社(本社:東京都渋谷区)が全国の20~69歳を対象に行った「フリーランス実態調査」(※2)では、2018年の副業フリーランス人口は744万人で、経済規模は8兆円近い規模だという。大手企業も相次いで解禁していることもあり、今後確実に増えるであろう「副業(複業)」の実態に迫っていきたい。

続きの記事<私の働き方、改革する必要ある?ー多様な働き方01>はこちら

1988年東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、朝日新聞に入社。新潟、青森、京都でも記者経験を積む。2016年11月からフリーランスで活動を始め、取材、編集、撮影をこなす。趣味はジャズダンス。
これからの働き方