社会が良くなる、「エシカルなお買い物」って?

皆さんは買い物をするとき、何を基準に商品を選んでいますか? 価格、品質、安全性、好みなどなど、人それぞれさまざまな基準があると思います。telling,が今注目したいのは、「エシカル」な買い物です。「Story」インタビューに登場した赤澤えるさんのファッションに対する考え方も、根底に、この「エシカル」な価値観があってのもの。アパレル以外の分野では、どんなものを、どんな人が、どんな思いでつくっているのか、取材しました。

 エシカル(ethical)とは、英語で「倫理的」という意味です。「エシカルな買い物」とはすなわち、「人や社会や環境に配慮するなど、倫理的な観点から商品を選ぶ買い物」のこと。“自分にとって”の良い商品を選ぶ賢い消費者という意味とは、どうも違うようです。「エシカルな買い物」の意義を広めるべく、このほど会社を立ち上げたミレニアル世代の男子2人にお話を伺いました。

エシカルとは買うことで社会が良くなるもの

 Webマーケターの小澤亮さんと、港区白金台の人気レストラン「TIRPSE」シェフの田村浩二さん(ともに32歳)がタッグを組んで立ち上げたのは、エシカルな「食」を提供する会社「.science」。食のより良い未来を描き続ける「FOOD VISIONING(フード ヴィジョニング)」をコンセプトとしています。

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 手がけるのは、レストランなどで使われる無農薬のエディブルフラワー(食用花)と、食用バラを使った“香りを食べるアイスクリーム”「FRAGLACE(フレグラス」。でも、こうした食べものって「嗜好品」の部類に入るのでは? これも「エシカル」と言えるのでしょうか?

田村 僕らが売りたいのはアイスじゃなくて、生産者の情報なんです。本当にすばらしい食材を作っている人を知ってもらうことで、その人に収入が入り、さらに、こういう仕事に就きたいという次世代の担い手が出てくることを期待しています。日本が世界に誇る技術や文化を守っていくための「ツール」としてのアイスクリームなんです。

――たとえば、彼らが販売するアイスに使われる食用のバラ、YOKOTA ROSEは無農薬、無肥料の自然栽培。バラにつくアブラムシをテントウムシで撃退するといった手間のかかる農法で、平均的な国産バラのおよそ3840倍にもなる香り成分を含有するバラを実現しているそう。

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 さらに、バラ以外の食用花の栽培や、上記のアイスクリームづくりは茨城県にある障害者福祉施設で行っています。販売を軌道に乗せ、施設で働く人の賃金を通常の2倍に引き上げることが目標だといいます。

小澤 なぜ値段が高いのかという情報が入るだけで、商品の選び方も変わると思うんです。日々努力を重ねる生産者を知り、彼らに感情移入できれば、選択のきっかけになりますよね。エシカルとは、買うことで社会が良くなるもの。もしくは、その仕組みだと思っています。

――良質な生産者の持続可能な経営を手助けすることも、エシカルな市場をつくるための一歩となります。「.science」では、練り製品の老舗「鈴廣」の協力を得て、市場に出回らない魚や通常は廃棄する昆布の根元を使った魚肉ソーセージを開発するなど、食材の新たな価値を見いだし、漁業者のさらなる収益につなげる事業にも挑戦しています。

「TIRPSE」シェフの田村浩二さん(32)(左)と、Webマーケターの小澤亮さん(32)。 写真:eri goto

「日本ヤバいなと思いました。」――エシカル途上国、ニッポン

 良質な商品を買うことで、頑張る生産者や技術を守れる一方、買うという行為が問題解決を先送りしてしまう場合もあります。経済がグローバル化した今、日本国内で手にする商品の背景には、途上国の貧困や児童労働、環境破壊などの問題が隠れていることも。値段の安さばかりを求める風潮は、そうした問題の解決を阻むだけでなく、手間のかかる伝統的な製法で作られた良質な商品が売れなくなる原因となり、その技法が途絶えてしまう現実もあります。

 シェフの田村さんは3年前、フランスのレストランで修行したときに受けた衝撃から、エシカルに目覚めたと言います。

田村 海外のシェフの方が、日本の伝統的なすぐれた調味料を知っていたんです。日本人より、よほど日本の素晴らしさに気づいてる。日本、ヤバいなと思いましたよ。野菜も魚も調味料も、発酵の文化も日本の大切なもの。自分たちが守らないで、誰が守るんだって思うんです。

――「エシカルな買い物」に対する日本人の一般的な意識は、まだまだ低いのかもしれません。実際、フェアトレードの市場規模*だけを見ても、日本は全世界の1%強にすぎず、先進国の中では非常に低い水準にあります。

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あなたの買い物が世界を変える?

 世の中のあり方は、私たち人間が作った商品やサービスによって決まると言っても過言ではありません。売れる商品はさらに増産され、売れないものは消えていくのが世の常。私たちが何を買い、どんな生産者にお金を払うかということが、未来の世の中を変える最も確実な手段なのです。

 あなたが買った商品の生産者が生き残りに一歩近づき、それによって大切な文化が守られ、「こうあって欲しい」世界が実現するとしたら……。あなたはどんな商品を手に取りますか?

  参考資料:消費者庁:「倫理的消費」調査研究会取りまとめ(2017年)

大学卒業後、テレビ番組制作現場でバラエティー、旅番組、報道番組などのディレクターを務め、2012年からはフリーの構成作家・ライターとして活動。近年は東京・荏原中延の「隣町珈琲」で「火鉢バー」を不定期開催中。