【編集長コラム】働く子育て女性、背負うものの重さ
「今日は一緒にお願いします~」。予定時刻よりしばし遅れて、彼女は男の子を抱いてインタビューに現れた。国民的アイドルグループを卒業後、俳優に転じた彼女は、結婚、出産、そして離婚を経て、いま仕事と育児の両立真っ最中だ。
勢い取材はその苦労話が中心に。「しばらくは子育て優先ね」という周囲の声かけに違和感を覚え、自分なりの両立の道を模索中という。取材の間も男児はママにペッタリで、時折「もう帰りたい」。撮影時も画角には入らない彼女の足にしがみついていた。「舞台が続き、離れている時間が長かったので今日は保育園を休ませました」。取材を終えホッとしたのか、ようやく見せた彼女の自然な笑顔が忘れられない。
たまたま翌週の取材でも、漁業の改革に立ち上がり注目を集める女性経営者が男児を伴っていた。やはり2児のシングルマザーで、職住一体の中、周囲のサポートも得ながらやり繰りしているという。男児がぐずり、取材時間が押していたのを気にしてか、インタビューは硬い表情で始まったが、男児の機嫌が落ち着くのと合わせるように表情は和らぎ、口も滑らかに。
子どもの状況にハラハラする彼女たちの気持ちが、同じく2児を持つ筆者にも痛いほど伝わり、両立はtelling,のテーマの一つでもあるだけに、取材は盛り上がった。
30年以上前になるが、子連れでの仕事の是非を巡り「アグネス論争」が巻き起こった。その後も2017年に熊本市議会で赤ちゃん連れの女性市議が出席を断念した件や、逆にその翌年、ニュージーランドのアーダーン首相が生後3カ月の女児と国連総会に出席した件が話題に。今も昔も働く子育て女性が背負うものの重さに、ため息ひとつ。こうした機会が増えることで、少しでも社会が動くことを祈りつつ。
【2022年10月5日朝日新聞夕刊掲載】
(写真:Getty Images)