「レス」の夫と別れ、ひとりで生きる。誠(岩田剛典)を振ったみち(奈緒)の決意 『あなたがしてくれなくても』10話
炙り出された、陽一の“自己愛”
「私と離婚してください」と真剣に伝えたみち(奈緒)に対し、陽一(永山)は「なんで急に?」「好きなヤツいるなら言ってよ」と狼狽(ろうばい)する。みちが「急じゃないよ」と漏らしたように、視聴者も陽一の“ままならなさ”にため息をつきたくなってしまったのではないだろうか。
みちが離婚の意思を固めたのと同時に炙(あぶ)り出されたのは、陽一の心根に巣くう自己愛だ。実にスマートに、離婚の合意に至った新名夫妻とは打って変わり、陽一は「(離婚は)とにかくしないから」と譲らない。
陽一はどこまでも子どもで、みちが言うとおり、好きなのは妻であるみちではなく、自分だ。極限まで自分のことしか見ていないから、セックスレスの問題についても正面から話し合おうとせず、夫婦の将来像に背を向け続けた。彼はどこまでも子どもで、親にはなれないから。自分のことが大好きで、彼のなかにみちはいない。
夫婦に限らず、親子や友人関係など、さまざまな構図に“自己愛”問題は根強く絡んでくるように思う。結局、自分のことしか考えていない人間を、対する相手は肌で感じとるようにできているのではないだろうか。それは、自分を自分として尊重してもらえないサインのようなものだから。
すべてを失った楓の行き着く先
吉野夫妻とは一転、誠の「離婚しよう」の申し出に、楓は「いいよ、離婚しよう。このまま一緒にいても、お互いに苦しいだけだし」と応える。誠と別れたくない意思を示し、懸命に糸を繋ぎ合わせようとしていた楓にしては、やけに素直だった。誠の浮気相手であるみちには正面から向き合い、みちの夫である陽一の勤め先にも現れた楓。その過程で、心で繋がっている誠とみちの関係性をイヤというほど思い知ったのかもしれない。
「仕事に集中するためにも、離婚を受け入れてよかったんだ」と納得しようとする楓だが、悲しい現実が彼女を襲う。編集長の川上圭子(MEGUMI)は、楓を次期編集長に推していたにも関わらず、土壇場で「編集長は外部から引っ張ってくるって。力になれなくてごめん」と告げた。
楓は、夫婦関係も仕事の夢も、一気になくしかけていた。せめてもの救いとなるのは、誠の母・新名幸恵(大塚寧々)の葬儀において、誠が左手の薬指に指輪を嵌(は)め直した事実だろうか。関係者や親族への世間体も大きいだろうが、これまで夫婦として重ねた関係値が示された大切なシーンだったと受け取れる。実際のところ、参列したみちも新名夫妻を見て、簡単には割って入れない絆を感じたはずだ。
みちの選択は吉と出るか?
陽一は離婚を受け入れた。彼がみちに「前に子どもが欲しいかって聞いたでしょ。あのとき何て言ってほしかった? 何が答えだった?」と問うたときに、返ってきた「みちの子どもが欲しいって、そう言ってほしかった」という言葉に衝撃を受けたからかもしれない。たしかに、親にはなれないと自覚している立場では、絶対に考えつかない答えだろう。
陽一が最後に言った「俺と結婚しなきゃよかったな。無駄な時間、過ごさせてごめん」という言葉は、聞きようによっては捨て台詞(ぜりふ)だ。しかし、最後に笑って別れることができたことは、吉野夫妻を明るい道へ導いてくれるのではないだろうか。
その後、みちと誠は水族館へ出向く。ふたりの関係性が一歩縮まった、思い出の場所だ。誠は、ためていた想いをみちに告げるが、彼女は「私は、誰にも頼らず、ひとりで生きていきたいです」ときっぱり口にした。
懸命に昇進試験の勉強をし、不動産屋にも足を運んでいたみち。彼女のなかには、陽一と別れたから晴れて誠と一緒に、なんて未来予想図はなかった。着々と、ひとりの足で立つ準備を進めていたのだ。
まだ最終話が残されている。数年後に時間がとんで、久々に再会した誠とみちが、あらためて仲を深め合う……。そんな、型に嵌まったような結末じゃないことを祈る。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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