「私と離婚して」。セックスレス夫婦、ついに突きつけた選択 『あなたがしてくれなくても』9話
子どもが欲しくない<親になりたくない
「家を買うのもラブレター」というカフェのオーナー・高坂仁(宇野祥平)の言葉に影響を受け、マンションを購入しようとみち(奈緒)に提案する陽一(永山)。陽一はことあるごとにオーナーの言うことを真に受けすぎだと感じてしまう。陽一がマンション購入に前向きな反面、みちは慎重だ。案の定、子どもが欲しいみちと欲しくない陽一で、意見が食い違ってしまう。
ずっと子どもが欲しいと思っていたみちに対し、はっきりと陽一は「子どもは、欲しくない」と言った。「いつまでもアイスクリームやナポリタンを食べていたい」という陽一は、子どもが欲しくないというよりは、自分が親になりたくないだけなのではないか。自分自身が子どものうちは、人を育てる立場にはなれない。
これまで、みちが陽一に見切りをつけられなかったのは、陽一の根本に「みちへの愛情」があったからだ。一度は三島結衣花(さとうほなみ)と関係を持ってしまった陽一だが、彼の基本的な行動基準は「みちのため」だったように思える。実際のところ、みちと離れるくらいなら「子どもをつくってもいい」と彼は本気で思ったのだろう。
結果的に、それが引き金となった。みちが「私と離婚してください」と口にした表情は、決意に満ちていた。陽一と別れたみちが、そのまま誠(岩田)と一緒になると考えるのは早計かもしれない。しかし、その可能性は高いのではないか。
誰かのせいにしたかった楓
誠も楓(田中)に対し「離婚しよう」と一言。楓との関係を見直し、彼なりに修復を試みようとしていたが、紐(ひも)は結び直せなかったようだ。目に涙をためながらも、はっきりと承諾した楓の胸中には、どんな思いが吹き荒れていたのだろう。編集長の川上圭子(MEGUMI)が言った「自分の心を壊してまで一緒にいることに、なんの意味があるのかな?」という言葉は、暗に楓の心が壊れかけていることを示していたのかもしれない。
ついに陽一の勤めるカフェまで出向いた楓は、みちに会いにオフィスまでやってきたときと同じ顔をしていたように見える。決意に満ちた、それでも、どこか頑(かたく)なで、触れたら一瞬で崩れてしまいそうな表情。ギリギリのところで耐えていた水が、コップの縁からあふれてしまうように、楓は危ういところに立っていた。
楓は、陽一に教えようとしていた。あなたの奥さんは浮気をしている、と。その真意は定かではないけれど、彼女はきっと、仲間が欲しかったのかもしれない。大切な人に裏切られた者同士として、苦しみを分割したかったのかもしれない。
だが、楓の目論見(もくろみ)は、あっさりと崩される。大切な人に裏切られたとしても「それはそれで、俺のせいなんで」と無表情に言ってのける陽一を前に、楓から力が失われたのがわかった。きっと彼女は、この苦境に自分を追いやったのは誰なのか、敵をはっきりさせたかったのだろう。もうすでに、誰かのせいにはできないところまできているのに。
みちと誠が選ぶ未来は
みちと誠が、あの研修旅行の夜に一線を越えていたら。誠が買ってきたビールを、みちが素直に飲んでいたら。みちの手を取って走り出した誠が、無理やりにでもバスに乗っていたら。
歴史に「もしも=If」はないというように、このふたりにも“If”はない。あのときこうしていたらどうなっていたか、それを考えるのは不毛なのだろう。みちも誠も、複雑に絡まった糸を懸命にほどき直そうとした。「戦友」という言葉を隠れ蓑(みの)にしながら、必死にそれぞれの夫婦関係を見つめようとした。それでも、選んだのは「離婚」だった。
次回10話のあらすじから、楓はすんなりと離婚に応じるようだが、陽一の壁は厚そうであることがわかる。誠の母親の件もあり、夫婦それぞれが離婚へと足を進めるのは、少し時間がかかりそうだ。そして、ついに、陽一と誠が顔を合わせることになる。
これまで何度か本レビュー内でも、夫婦二組の未来に思いをはせてきた。どんな結末をハッピーエンドと定義するかにもよるが、少なくとも、元の夫婦関係が改善するとは思えない。
おのおのの離婚が成立し、一人きりになった4人が、それぞれの“理想”と“安寧”を求めて進んでいく。そんな展開を想像してしまうが、果たして。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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