夫婦の「レス問題」そのままに、恋の相手と一線を越える? 『あなたがしてくれなくても』4話
一線を越える寸前のみちと誠、互いの薬指には……
熱を出してしまったみち(奈緒)の元へ、陽一(永山)と誠(岩田)がそれぞれ駆けつける。結果的に陽一が先に自宅マンションへ着き、誠はすんでのところで訪れるのを取りやめた。誠からみちへのメッセージ「今マンションの近くに着きました」は、送られることなく消去されたようだ。
三島結衣花(さとうほなみ)とキスやそれ以上のことをしてしまった陽一と比べると、誠もみちに対しては衝動的になる面があるが、大事なところは引く印象だ。ある意味、そんな慎重な行動がますますみちへの思いに繋がっている節がある。
そして、それはみちも同じ。 夜になり、誠がみちのことを心配して送った「体調どうですか? 熱は下がった?」のメッセージに対し、彼女は「だいぶ良くなりました。ご心配おかけしました」と返した。続けて送ろうとした「早く会いたいです」が、もし彼の元に届いていたら……。
お互いに惹かれあっているみちと誠だけれど、それぞれには確実に“本来の相手”がいる。みちには陽一、誠には楓(田中)というパートナーがいるなかで、ふたりが踏み入れようとしているのは“不倫”という、いばらの道だ。
研修旅行で一線を越えかけたみちと誠、それぞれの薬指には、しっかりと結婚指輪が嵌(は)まったままだった。カフェで雇われ店長として働く陽一は、仕事では指輪を外すのに(たとえ、それが仕事のためだとしても)。登場人物それぞれの些細(ささい)な所作は、お互いに対する気持ちの強弱を表しているようで、目が離せない。
陽一がつくるうどんと誠が淹れるカモミールティー
陽一は、みちの変化に気づいている。夫婦の問題である“セックスレス”について、真っ向から話し合いの機会をつくろうとしてきたみちが、ある時期を境に他人のような態度をとりはじめた。そして一切その問題に触れようとしなくなったのだから、どれだけ鈍くても気づくだろう。
三島と一線を越えてしまった陽一だが、彼女に対して「なかったことにしてほしい」と不躾(ぶしつけ)な撤回を求めた。みちに対しては、献身的に看病したり、早く帰って風呂を沸かした後うどんをつくったり、研修旅行帰りに出迎えようとしたりする。これまで、脱いだ靴下をカゴに入れようともしなかった陽一が、置き去りにしてきた地雷を回収するかのように“更生”しはじめているが……。みちはその様子に喜ぶどころか、不信感を抱いてしまっている。
陽一が、まるで贖罪(しょくざい)のようにつくるうどんと、誠が楓のために淹(い)れるカモミールティーの対比がやるせない。以前から、誠が仕事で疲れて帰ってきた楓のために、用意していたハーブティー。しかし、みちと心を通わせはじめてからは、それが、たった3分という夫婦の時間をなんとかやり過ごすための口実、そしてごまかしに満ちたもののように思える。
カモミールは「逆境に耐える」という花言葉を持つ。物語に直接は関係ないかもしれないが、このタイミングで誠がカモミールティーを淹れようとした背景を、つい勘繰ってしまう。新名夫妻にとって、いまの状況は確実に“逆境”だ。みちに心が揺れている誠にとっても、夫婦の切れかけている糸を、なんとか繋ぎ止めようとする楓にとっても。
三島がコーヒーをぶちまけたのは「事故」か?
研修旅行帰りのみちを迎えに行き、そのままこと座流星群を見に行くつもりでいた陽一。誠と旅館の部屋でオリオン座の話をしていたみちは、それを望んだだろうか。しかし、実現はしなかった。陽一が仕事を終えカフェを出ようとした寸前で、三島がポットのコーヒーをぶちまけたからだ。
三島にとって、陽一は“見返りを求めない優しさ”をくれる相手だ。工事現場の誘導員をしていた三島にタバコを吸う場所を提供し、コーヒーをくれ、新たに働く場所まで与えてくれた。不意のツーリング、深い意味もなく分け与えられた1本のタバコなど、陽一にとってはなんてことない言動が、三島の心の内に積もっていく。
気づいたら陽一に入れ込んでいた。三島本人にとっても、この現状は意外で、まだ受け入れ難いものなのではないか。三島は、出ていこうとする陽一の背中に向けて「行かないで」と思いを口にしたが、本人に直接言えない心境からも、彼女が苦しみの淵に立っているのがわかる。果たして、三島がコーヒーをぶちまけたのは事故なのか、それとも。
最後の最後で、みちの出迎えではなく、三島とコーヒーの片付けをする選択をしてしまう陽一。片や、誠は、3分の砂時計をみちにプレゼントし、 楓と過ごす以上に、みちがそばにいる時間を貴重に思っているようだ。彼らが越えようとしている線は同じようでありながら、太さや濃さがまったく違う。越えたあとの、取り返しのつかなさも。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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