相手が諦めたら、もう手遅れ。夫婦関係は修復不可能か 『あなたがしてくれなくても』3話
セックスは夢を壊すのか?
「セックスが疲れるものになったのは、いつからだろう」……そんな、やるせない独白から始まる楓(田中)の述懐は、重いけれどシンプルだ。彼女にとって、セックスは夫婦にとっての必要事項ではない。その反対に、自身の仕事にとっては足かせであるとハッキリ自覚している。
ファッション雑誌の編集長になれるかもしれないタイミングで、子どもができてしまったら。「セックスが、私の夢を壊すかもしれない」と強迫観念にも似た思いを抱く楓。何かに追い立てられるように仕事に駆られる彼女の姿を見て、何もそこまで、と思う自分と、確かにわかる、と共感する自分がいる。
「リスキリング(学び直し)」という言葉がある。政府は「リスキリング支援に、5年間で1兆円の予算を投じる」というが、これは、子育てをしながら働く世代、子育てのためにキャリアをストップせざるを得なかった層には本当の意味での支援になるのだろうか。
理屈はわかるのだけれど、何かが食い違っている、とも感じてしまう。たとえば楓がいうように、自ら築き上げてきた実績や地位が、育児のためにいったん棚上げになったとしよう。数年のブランクを経たうえで、彼女は元の立場に戻れるだろうか。果たして、その一助となるのがリスキリングなのだろうか。
リスキリングをキャリア形成に役立てよう、という社会の流れと、楓のように夢をもって働く人が「セックスに夢を壊される」と悩む気持ちは、どこまでいっても平行線のまま交わることはないように思える。
相手が“諦めた”とき、初めて気づく
お互いの距離が、修復できないレベルまで開いてしまったとき、相手が本当の意味で“諦めてしまった”ときに、初めて思い知るのかもしれない。もう手遅れであることを。
誠(岩田)の不穏な様子を察知した楓は、「明日の夜さ、一緒にご飯食べに行かない? この間の埋め合わせ、させてほしいなって」と慌てて彼を食事に誘う。しかし、誠は「いいよ、無理しなくて」とつれない態度。このあしらいが、まるで恋人同士のようにみち(奈緒)と出かけた後だからこその罪悪感ゆえなのか、それとも……。
楓のために食事を用意し、寝る間を惜しんで夫婦の時間を捻出しようとした誠の気持ちは、少しずつ、確実にみちへと流れているのかもしれない。片や、陽一(永山)と三島結衣花(さとうほなみ)の関係も一線を越えてしまったが、彼らよりもみちと誠のほうが、引き返せない地点まで進んでしまっているように思える。
セックスに対する価値観や優先度の違いが、如実に夫婦関係に影響を与えている。彼らに必要なのは“対話”なのだけれど、話し合いの場に向き合う姿勢にさえ温度差があると、いつしかそれさえも言葉にならない脱力感に繋がっていく。
とくに陽一は、自分たち夫婦が置かれている状況への危機察知があまりにも低い。みちを避けたい気持ちを、そのまま三島へと向かわせるのは、誰も幸せにならない選択なのにもかかわらず。
きっと、優しくされたいし、愛されたいだけ
問題は複雑だけれど、課題はシンプルだ。みちが求めているのは愛情で、もっと言えば“愛されている実感”だろう。現に、あれだけ求めていた陽一とのセックスも、彼女を幸せにはしなかった。行為はただ行為として消費されただけで、そこに陽一の気持ちはない。実感のないセックスを繰り返しても、みちはますます乾いていくだけ。
優しくされたい、愛されたい。そんなシンプルな欲求を、誠との交流が埋めてくれる。まるで恋人同士のような、水族館でのデート。付き合い始めのふたりがするような、車内でのキス。陽一と三島の衝動的な行為に比べると、あまりにもお互いの波長が重なりすぎている。きっと、進んだまま戻って来られないのはみちと誠のほうだ。
発熱してしまったみちに対し、まるで罪滅ぼしのように優しくする陽一。みちをベッドまで運んだり、おでこに冷却シートを貼ったり、一度仕事に出かけるも自宅に引き返したり……。それでも、きっと、すべてが手遅れ。陽一に優しくされればされるほど、みちはうれしさと疑心暗鬼のあいだに挟まれ、どんどん動けなくなる。
バイクで自宅へ向かう陽一と、みちを心配し出先からタクシーで駆けつける誠。信号につかまった陽一の目の前を、タクシーに乗った誠が通り過ぎる。ベッドの上で動けないみちの元へ、先にたどり着くのはどちらだろうか。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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