陽の当たらない恋に未来はあるか。セックスレス夫婦の進む先 『あなたがしてくれなくても』5話
過去・現在・未来――3分の砂時計が示唆するもの
誠(岩田)がみち(奈緒)に贈った、3分の砂時計。誠いわく「上の減っていく砂は過去、落ちていく真ん中は現在、下に溜(た)まっていく砂は未来の時間」を表すという。「どこを見てました?」と問われたみちは、少し悩みつつ「真ん中、ですかね」と答えた。
みちの後輩・北原華(武田玲奈)に指摘されたように、みちと誠がしていることは「陽の当たらない恋」で「覚悟しなければいけない」逢瀬(おうせ)だ。いくら、みちと誠が互いの夫婦関係に悩んでいたとしても、その先にあるのは“不倫”だろう。綺麗(きれい)なセリフと見せ方で忘れそうになってしまうけれど、彼らが進もうとしている道は、きっと多くの人を傷つける。いや、すでに誠の異変に気づいている楓は、じゅうぶん傷ついているかもしれない。
楓はファッション誌の副編集長として、仕事に邁進(まいしん)している。いつも帰りは夜遅く、満足に夫婦の時間がとれない状態が続いていた。そのしわ寄せは、確実に誠の心を侵食していたはず。
しかし、決して楓は誠をないがしろにしていたわけでも、ましてや嫌いになったわけでもない。夫婦関係に亀裂が入りそうになっているのを察知し、彼女なりに時間を作ろうと努力を始めた。その姿に対し「無理しなくていいよ」の一言で、明らかに距離を取ろうとする誠。彼にも、砂時計の“真ん中”しか見えていないのかもしれない。
SNS上では、楓に対する誠の態度に対し意見がわかれている。楓のこれまでの行動を振り返りつつ誠を擁護する派と、彼の言動を非難し楓をかばう派。自分を重ねた切実な声が多いようだ。
果たして陽一は「人の気持ちがわからない」のか
第5話では、陽一(永山)とみちが出会ったころの回想シーンもみられた。陽一が働くカフェへ客として通っていたみちから、彼に声をかけたことがわかる。結婚後も、出無精な陽一に合わせてくれていたみち。彼にとって、その“関係性”がひとつの安心材料になっていたのだろう。
「俺たちのバランスはこれからも、崩れることはない……よな?」と陽一は考えている。セックスレスについてみちから問われても、彼女の態度が明らかに変わっても、どこか余裕をみせていた陽一。それは、“惚(ほ)れられた側の傲慢(ごうまん)”があったからかもしれない。
「結婚してるからって、あんまりあぐらかいてたら痛い目に遭うよ」。これは、陽一の姉(紺野まひる)の言葉だ。離婚をすることを決めた姉は、みちと結婚したあとの陽一の様子を「よく笑うようになった」と評する。それに反して、陽一に思いを寄せている三島結衣花(さとうほなみ)は「店長は、人の気持ちがわからない人ですね」と言っていた。
陽一は確かに傲慢で、自分勝手で、その場の欲望で動く人間なのかもしれない。しかし、そんな彼を変えたのはみちの存在だ。陽一のなかから“惚れられた側の傲慢”は消えないかもしれないが、それと同時に、みちが隣にいない人生を想像することもできなくなっているだろう。
陽一は、みちのことを嫌いになったわけではない。愛せなくなったわけでもない。むしろ妻として、家族として、ほかの誰よりもかけがえなく思っている。
みちと誠、二人の決定的な“違い”
みちは、確かに誠に惹かれている。しかし、その心の動きはどこか夢見がちな少女のように映った。愛されたい、でも、本当に愛してほしい人からは望む愛をもらえない。そんなタイミングで目の前に現れたのが、同じ悩みを持つ誠だったから、彼女の心は揺れた。それはきっと、一時的な迷いだろう。研修旅行の夜、誠と一線を越えそうになったみちが流した涙には、たくさんの意味が詰まっている。
対して、誠の意思は頑(かたく)なだ。楓に対し、言ってしまえば三行半を突きつけたように思えてならない。楓がどれだけ誠に歩み寄ろうと努力しても、誠が放った言葉「俺と楓って、なんで一緒にいるのかな?」がすべてを象徴している。誠の気持ちは、大方みちに動いてしまっている。
会社のガラス壁越しに電話で話す誠とみち。「やっと話せた」と漏らす誠の声は、妻ではなく“不倫相手”に救いを求めていたのではないか。みちは戸惑いながらも、誠からのアプローチに否定の意を示す。
「セックスレス」という同じ悩みを共有する“戦友”だったはずが、いつの間にか、知らない景色が見える位置にまできてしまったみちと誠。夢から覚めたみちは、きっと動く。誠と進むいばらの道ではなく、陽一との関係性を修復する道へ。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
●イラストレーター・emma(絵馬)さんのグループ展「Nice to meet you #4」開催!
グループ展「Nice to meet you #4」
会期:2023年5月17日(水)~28日(日) ※月、火曜休廊
場所:MOUNT tokyoギャラリー(東京都世田谷区駒沢2-40-6)
時間:11時~18時(最終日は17時まで)
入場無料
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