「セックス、そんなに大事?」夫婦の不一致がやるせない『あなたがしてくれなくても』2話
誠と楓の不安定な関係
誠(岩田)にセックスレスの悩みを打ち明けた、みち(奈緒)。たとえ信頼している上司相手であっても、SNS上では「異性にセックスレスの話をした時点で『誘っている』と受け取られるのでは…… 」といった意見も見受けられた。信頼感と誠実さを足して出来上がったような誠が相手なら、一線を越える間違いは生まれなさそうだが、果たして。
第2話は、誠の視点から見た新名夫妻の問題点がフィーチャーされた。豚肉を丁寧にオイルカットし、ミネラルなどの栄養分についても考え尽くした酢豚を用意するほど、誠は楓(田中)を大事に思っていることが伝わってくる。かといって、楓が誠をないがしろにしているわけではない。
どんなに帰りが遅くなろうとも、メッセージや電話で細やかなコミュニケーションを欠かさない。仕事先で誠の好きな差し入れのお菓子を「パクってきた」り、「現場が近いから」という理由で、誠の母・新名幸恵(大塚寧々)が入院する病院にタクシーで訪れ、カーディガンをプレゼントしたりしている。楓は人並み以上の出世欲を持っていそうだが、その代わりに夫婦生活をおろそかにしたいのではない。
その事実を承知しているからこそ、誠は常に楓を尊重している。彼女の仕事への理解を示し、夜遅く帰ってきた妻のためにお茶を用意する姿はかいがいしい。しかし、その献身的な様子に、ときにはいら立ってしまう楓の気持ちもわかる。
せめて結婚記念日くらいは……と、誠はディナーとホテルを予約する。予想できる展開だが、やはり楓は仕事で来られない。用意した花束をやるせなく見つめる誠の姿が、なんとも寂しさに満ちる。
その直後、なんとかホテルに到着した楓に対し、誠は「今日だけでも頑張ることはできない?」と言ってしまった。彼は、決して“そういう”意味で言ったわけではないはずだ。しかし楓にとってこの言葉は、仕事に向き合ってきた自分の生き方そのものに対する、夫からの抗議と取ってもおかしくはない。
呪いのような「大切な家族だと思ってる」
前回に引き続き、吉野夫妻の問題も根深い。努めて冷静に話し合いをしようと働きかけてきたみちだが、陽一(永山)には打っても響かない。押してダメなら引いてみろの戦法か、わざとリビングのソファで寝てみたり、食事を先に済ませたりして陽一と距離を取ろうとするみち。とたんに敏感に反応を示す陽一は、引かれると我慢できないタイプのようだ。
陽一に対し、しきりに「ずるいよ」と繰り返すみち。陽一は、本当にEDになってしまったわけでも、女性への興味をなくしてしまったわけでもないはず。現に、陽一が店長を務めるカフェへアルバイトとして入った三島結衣花(さとうほなみ)とは、笑顔を見せながら楽しげに話す。彼女からキスをされても拒否せず、むしろ自ら求める様子も見せた。誘われても自宅へ行かなかったのは、良心の呵責(かしゃく)か、それとも。
「みちのこと、大切な家族だと思ってる」「俺、みちと離れるなんて考えてないから」と淡々と話す陽一の口からこぼれ出る言葉たちは、まるで呪いのようだ。妻として大事にしてくれている、愛情を向けてくれていると勘違いできれば、どんなに良いだろう。確かなうれしさを感じる心を抱えながら、それでも、決して抱きしめてはくれない陽一への寂しさも抱えながら、みちは一人でいる。
夫婦に「セックス」は必要か?
吉野夫妻と新名夫妻がそれぞれ抱える問題は「セックスレス」。その根底に横たわっているのは、「恋人」と「夫婦」それぞれの関係性そのものに対する価値観ではないだろうか。つまり、恋人にセックスは必要だが、夫婦には必要ない(必須と考える側とそうじゃない側にわかれる、という意味で)と考える場合がある。この議論に対し、夫婦間で不一致が起こると、セックスレスに繋がってしまう構図があるのではないか。
三島は陽一に対し「奥さんのこと、ちゃんと見てます?」「結婚して妻になると、夫以外に誰にも見てもらえなくなるんですよ」と告げる。陽一自身も、その自覚はあるはず。だからこそみちに花を買って帰り、体を求めたのだろう。
しかし、陽一と楓、それぞれの心の奥底には、同じ疑問が渦巻いている。「セックスって、そんなに大事?」と。吉野夫妻も、新名夫妻も、言ってしまえば「セックスの有無や頻度」を問題化しなければ、極めて良好に近い夫婦関係だろう。なのに、妻か夫、どちらかがセックスレスを問題にした時点で、その関係性は音を立ててきしむ。
価値観の問題と言ってしまえば、あまりにも簡単すぎる。今後のキーポイントとして、陽一と楓がなんらかのきっかけで知り合い、互いの“疑問”について擦り合わせる時間があれば、事態が動くかもしれない。それが、良い方向か、悪い方向かはわからないけれど。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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