セックスレスの夫と妻、断られ続けた側が拒むとき 『あなたがしてくれなくても』8話
緊張感あふれる、妻と妻の対面シーン
ついに、この時が来た。 楓(田中)はみち(奈緒)の元へ直接出向き、誠(岩田)との関係を問いただす。カフェの店内で向き合う楓とみちがやりとりするシーンは、3分以上1カットの長回しでとらえられており、なんとも緊張感を醸し出す演出だ。
自分の夫と目の前の女性が、どんなきっかけで知り合い、仲を深めていったのか。楓としては、もっとも気になるポイントだろう。しかし、みちが「主人とのことで悩みがあって」「私と主人がセックスレスだったんです。それで、新名さんに話を聞いてもらっていて」と打ち明けたのに対し、楓は「たかがレスごときで」と感情的に返した。これを機に、形勢は逆転したように見えた。
「たかが、じゃないです」「体の関係がないことだけが、つらいんじゃないんです」と訴えるみちの表情は、悲痛に満ちていた。たしかに第三者から見れば、夫とレス状態だから不倫に走った(楓が使った言葉を借りれば“まるで動物のように”誠との関係に至った)と思うかもしれない。しかし、みちと誠がそれぞれ抱える苦悩は、どれほどのものだろうか。
楓は確実に、みちの悩みのなかに誠を見出していた。「取り戻したかったあの頃には、もう戻れないと気づいているのかもしれない……」。そう口にするみちを見ながら、楓は誠のことを思い出していた。楓と誠の関係を修復するにはもう、手遅れの地点にいるのかもしれない。
最後に淹れる別れのコーヒー
楓とみちが対面したタイミングで、三島結衣花(さとうほなみ)も苦境に立たされていた。かつて三島と不倫関係にあった男・岩井の妻、鞠子(佐藤めぐみ)がやってきたのだ。
鞠子は言う。「私の心は、3年前に死にました」。三島のほうは、すでに岩井との関係を切り、陽一(永山)を含めた新しい人間関係に心を向けている。鞠子が三島に内容証明を送った意図や、この件を浮き彫りにさせた真意は定かではない。しかし、ひとりの人間の“心が死んだ”のは確かなのだろう。
三島は、勤めるカフェに姿を見せなくなり、最終的には陽一にだけ辞める旨を告げ去っていった。「また私のせいで、誰かの心が死ぬのは嫌なんで」と口にした彼女が、なんとも痛々しい。
これで三島は、不倫のループから抜け出せるだろうか。陽一が「ごめんなさい」と頭を下げて丁寧に淹(い)れたコーヒーが、彼女にとって負の思い出を引き出すトリガーにならないことを祈る。
パズルのピースは、欠けたものを埋められるのか
陽一がどれだけ“細かいことを気にしない”性格かは、これまでの回でも描かれてきた。脱いだ靴下をカゴに入れなかったり、スマホの画面がバキバキなのを放っておいたり。そんな彼が、雇われ店長として働いているカフェにて、ピースがひとつ欠けたパズルを気にせず店内に飾っていたのは、当然といえば当然かもしれない。
それを見たオーナーは「欠けたものを置いてると、大事なものをなくすんだってよ」と陽一に教えた。すかさず、欠けたパズルのピースを自宅で手作りする陽一。脱いだ靴下をカゴに入れたり、お詫びの花を買ってきたり、流星群を見る計画を立てたりするのと同じように、これも彼なりの誠意の見せ方なのだろう。
それでも、みちは陽一をセックスの途中で拒否してしまった。彼女にとって、拒まれるのがもっともつらく、苦しいことのはずだったのに。思考や意識とは関係のないところで、思わず体が反応してしまったのであれば、それは絶望的な事実を示している。
みちの心はもう、誠に動いている。そして、誠にも同じことが言える。お互いに「仕事仲間」かつ「戦友」であることを強調しながら、それぞれの夫婦関係を見直そうと努力する様は美しくもあるだろう。しかし、必要以上の努力が必要な関係は、すでに破綻(はたん)しているのではないだろうか。
次回予告では、みちの手を取り、走り出す誠の姿が見える。彼らが選ぶ道はハッピーエンドに向かっているのだろうか。それを判断するのはきっと、視聴者ではなく、彼ら自身なのだろう。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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