セックスレスで別れた夫と、もう一度歩む道 『あなたがしてくれなくても』最終回、みち(奈緒)が見せた覚悟とは
みちは「一人で生きていく」のを諦めたのか
みち(奈緒)と陽一(永山)の吉野夫婦、そして楓(田中)と誠(岩田)の新名夫婦の「セックスレス問題」に焦点を当てた本作。全編をとおして、セックスレスが夫婦関係に落とす影と、不倫問題の是非について意見が飛び交う内容だったように思う。
吉野夫婦の関係が破綻(はたん)したのは、もともと、子どもが欲しいと強く願っていたみちと、とくに子どもは望まない(=性交渉のない夫婦関係に満足している)陽一の価値観が根本から食い違っているのが原因だった。
子どもが欲しい。それ以上に、どんどんセックスレスになっていく夫婦関係を維持していく意味が見いだせない。陽一から愛されている実感が持てない……。このドラマは、みちがそういった悩みを抱え、その悩みに共鳴した誠が“戦友”として関わっていくところから始まっている。
しかし、みちは陽一と離婚することを選んでから約1年の時を経ても、誠と一緒になることはなかった。物語は最終的に、みちと陽一が坂道で仲むつまじく話すシーンで幕を閉じたが、SNS上では「結局みちと陽一は元に戻ったってこと?」「あんまり良い終わり方じゃない」などの反応も見受けられる。
みちは、一人で生きていくことを諦めたのだろうか。子どもの有無は関係なく、陽一と生きていくことを選んだのだろうか。このドラマは「あなたがしてくれなくても、あなたとともに生きていく」人生を選んだ、一人の女性の葛藤と諦め、そして受容を描いていたのかもしれない。
楓はどこまでも「カッコいい」
楓はみちのことを「さんざん振り回して、周りの人生変えて。なんか一言いってやりたい」と称している。もしかしたらこれに共感する視聴者も多かったかもしれない。みち一人だけが責められる話ではないが、楓の立場からすると、1年経っても“戦友”という言葉に居場所を見出している元夫と浮気相手の関係性は、それこそ「寒気がする」だろう。
楓は、夢だったファッション雑誌ではなく、育児雑誌の編集長になるようだ。楓にとっての夢は、雑誌のジャンルを問わず「編集長になること」だったのだろうか。それとも、育児雑誌であることに別の意味を見いだしたのだろうか。“空白の数カ月”に何があったのかは、次週放送される特別編で明かされるのかもしれない。
夫と離婚し、当初とは違う形ではあるが編集長になる夢を叶え、確実に前を向いている楓。彼女の性格からすると、「離婚による欠損を仕事で埋めている」と解釈されるのは本意ではないだろう。しかし、明らかに楓は離婚したことによって前進できている。それがまた、みちとの対比を生んでいる。
元夫の浮気相手と立ち飲み屋で杯を交わし、間接的ではあるが、吉野夫婦に関係を見直させるきっかけを与え、そして元夫とは“戦友”になることを決めた。みちが繰り返し言ったように、楓はどこまでも「カッコいい」女性である。
吉野夫婦が見据える未来とは?
終盤、坂道でキスをするみちと陽一が“再婚した”と仮定する。注目したいのは、「子どもの有無」について二人の意見がどう変化したのか、だ。
陽一が「子どもは要らない」と考えているのは、根本的には変わっていないように見える。彼がおいっ子・めいっ子の音楽発表会に訪れるシーンがあるが、身内の晴れ姿を見たい気持ちよりは、「行けばみちに会えるかもしれない」といった思いが先に出たのだろう。
陽一は以前、みちから「みちとの子どもが欲しいって、そう言ってほしかった」と言われたときも、「俺には言えない」と返していた。仮に彼が意見を翻して子どもを欲しがったとしても、それは“みちと一緒にいるため”の手段のひとつでしかないだろう。
そして、みちに関しては、ほぼ陽一との間に子どもを持つことは諦めているように見える。彼女が陽一ではなく“子どもを持つこと”を重視するなら、離婚後1年経っても誠と一緒になっていない事実に説明がつかない。みちはきっと、子どもを持てないとしても、陽一とともに生きていく覚悟を決めたのだと思う。
賛否両論が集まりそうな結末だったが、次回、離婚後の“空白の数カ月”を描いた特別編が放送される。視聴者の心にわだかまった“納得できなさ”は、この特別編で解消されるのだろうか。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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