私たちが「レス夫婦」に望んだ結末は? 『あなたがしてくれなくても』特別編が伝えたかったことを考える
みちが再認識した陽一への思い
誠(岩田)からの告白を断り、最終的には陽一(永山)のもとへもどったみち(奈緒)。最終回の展開は多くの視聴者にとって予想外だったようで、「結局、みちは何がしたかったのか?」といった感想もSNSで多く見られた。特別編には、みちによる“あの選択の理由”が知りたい、と切実な希望が寄せられていたように思う。
空白の数カ月、みちはいったん一人で生きていく覚悟を決め、その準備をしていた。「決めたから。自分の足で立つって」「一人で生きていく。今の私に必要なのは、自立することなの」と彼女自身も宣言している。
昇進試験に合格するため、仕事の合間を縫って勉強し、自宅では段ボール箱をテーブル代わりにしてパックのうどんをすする。これが「夫と離婚後、自立を目指す女性の姿」を描いたものだとしたら、なんともステレオタイプに見えてしまうが、みちの必死さは伝わってくる。
だからこそ、彼女の最終的な決断に疑問を抱いてしまうのだ。
結婚前、もしくは結婚当初から「子どもが欲しい」と言っていたみちの希望は、陽一も知っていた。それにも関わらず、彼は自分の妻に対して「性欲強くない?」と言い放っている。
レス状態に陥っている夫婦の現状に目を背け続けていた陽一は、少しずつ「努力する」と言うようになった。しかし、みちとの子どもが欲しいとは言えない、とはっきり口にしている。それは、みちにとってたもとを分かつには十分すぎる言葉だった。だからこそ、離婚に踏み切ったのではなかったか。
このドラマが、この特別編が、私たちに伝えたかったメッセージは、どんなものだったのだろう。
描かれなかった誠と楓の“空白の数カ月間”
特別編は、ひたすらみちの視点から描かれていた。彼女が陽一と別れたあと、いかに彼のことが好きだったか、彼のどんなところを魅力に感じていたかを再認識する過程を再構成していた、とも言えるだろう。
誠と楓(田中)がどんな“空白の数カ月間”を過ごしていたのかは、ついに知れなかった。物語の序盤で妖艶(ようえん)なキーパーソンとなっていた三島結衣花(さとうほなみ)でさえ、一瞬だけの出演だった。
ほかの登場人物の視点をそぎ落とし、みちの一人称に絞ったのは、単純にドラマの尺の問題もあるだろう。あえてほかの理由づけをするなら、この見せ方こそが「みちの利己的な人柄」を暗に示しているとも言える。
不倫ドラマの主人公が好かれるケース自体、そもそも少ないのかもしれない。しかし、これほどまでに反感の声が上がるのも珍しい。あくまで個人的な見解をあけすけに書いてしまえば、みちの言動には一貫性がなく、楓が憤慨していたように「自分勝手」だった。周りの人生をめちゃくちゃにしておいて、自分は元旦那とヨリを戻している。
しかし、ふと現実を見渡せば、言動に一貫性のない人物や自分のことしか考えていない人物なんて、珍しくもない。視聴者の間では、比較的、誠や楓には応援や称賛のコメントが見られるようだが、彼らでさえ振り返ってみれば、思わず頭に「?」を浮かべてしまう言動がゼロではなかった。
このドラマは、どうしようもない、どこまでもリアルな人間たちの、ままならなさを描いた作品だと言えるかもしれない。
私たちはどんなラストを求めていたのか
ドラマ『あなたがしてくれなくても』に、私たちはどんなラストを求めていたのか。視聴者それぞれの思いがあるだろうが、ひとつは「みち自立エンド」がある。
彼女自身も言っていたように、自分の足で立ち、一人で生きていくのだ。コツコツと昇進試験をクリアして仕事を極めるもよし、別のやりたい仕事を見つけるもよし、趣味に生きるもよし。恋愛ドラマではご法度かもしれないが、時代は令和なのだし、そろそろ「恋愛に救ってもらわずとも幸せに楽しく生きる主人公」の数が増えてもいい、と思ってしまう。
もうひとつは、「みちと誠が一緒になるエンド」だろうか。“戦友”としてやりとりを重ね、いつしかお互いに恋心を自覚した者同士として、それぞれの離婚が成立したなら不自然ではない着地点だろう。そういった意味では、誠の言動には筋が通っていたように感じる。子どもを望むみちにとっても、違和感はないルートではないだろうか。そしてきっと、多くの視聴者が予想していたのも、この結末だったのでは。
同名の原作漫画は未完で、物語は続いている。原作者のハルノ晴氏は、「漫画はドラマとは違うストーリーになる」とツイッターで明言している。もともと原作ファンからは「キャラクターの雰囲気も設定も違う」「原作とドラマは別物」といった声も挙がっていた。ファンが望むラストは、漫画というステージで見られるかもしれない。
フジ系木曜22時~
出演:奈緒、永山瑛太、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
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