「あなたがしてくれなくても……」に続く言葉の意図は? ドラマ担当プロデューサーに聞く
「夫婦の物語」をちゃんと描きたい
――今回、地上波のドラマで「セックスレス」というテーマを扱う上で、意識されたことはありますか。
三竿玲子プロデューサー(以下、三竿): 本当に悩まれている方、今まさにその問題に直面されている方がいるなかで、あまり軽々しく描いてはいけない。逆に、ものすごく重く描くというのも違う。もちろん深刻ではあるのだけれど、そういう悩みを持っていらっしゃる方も、会社に行ったら普通に笑って、友達とランチを食べているかもしれない。四六時中悩んでいる人として描くのではなく、みんなそれぞれ生活があるなかで内に秘めた悩みの一つとして見えるようにしようと話し合いました。
「セックスレス」というテーマだけが先走らないように、夫婦の物語や、女性の心の中にある綻(ほころ)びをちゃんと描いていきたいと思っていました。
物理的には、セックスレスという言葉が、お子さんが見ていらっしゃる時間帯にはやっぱりちょっとそぐわないということもあり、CMを2パターン作って、昼間は「セックスレス」を「夫婦のタブー」と言い換えるように配慮しました。
セックスレスの悩み、話すきっかけに
――「結婚している人の約半数はセックスレス」という調査結果もあるほど多くの人が関係する悩みである一方、あまり人には言いにくい、公には語られていない現状もあります。telling,のドラマレビュー記事のコメント欄やSNS上には、当事者たちのリアルな声が多く寄せられました。
三竿: やっぱり声を大にして言えないことではあるので、匿名で書き込めるSNSとはすごく親和性が高かったと思います。悩んでいる人が他の人の意見を見て共感できたと思いますし、皆さんに届いているなという肌感覚があったので、ドラマとしても救われました。面と向かってこのことで悩んでいると言えない人が、「ドラマの話なんだけど」と言って、話すきっかけになったらいいなとも思っていました。
――SNS等では「お茶の間を凍り付かせた」「地獄のランチ」といったワードも話題になりました。
三竿: SNSがこれだけ発達して、みんなが携帯を触りながらドラマを見るのが当たり前になってきた時代だからこそ、感じられることもたくさんありました。私もオンエアをリアルタイムで見られる時は、SNSを見ながら、「みんなこういうところに引っかかるんだ」「こういうところで盛り上がるんだ」とか、いろいろなご意見があるのも全部読んでいました。皆さんが「地獄のランチ」と名付けてくれるなど、受け取る側が盛り上がってくれている感じは、すごく嬉(うれ)しかったです。
「こっそり見る」配信に救われた
――賛否両論含めていろいろな意見があったと思いますが。
三竿: 賛否の「否」が多いと、ちょっとへこんだりもします。「そっか、これはダメだったか」「伝わらなかったか」ということもいっぱいありますし。でも制作者としては、「これが最適解」と思ってまっすぐものを作っているつもりです。制作サイドのなかでも答えがみんな違うなかでどこの答えに持っていくか、一生懸命考えて作っています。
見ている方にもいろんな答えがあって、それはその人の最適解なのでいいと思うのですが、「もう少しこういう風に描いたらよかった」「ここをもう少し膨らましていたら、もうちょっと伝わったかな」という反省もありました。逆にそんなに深く描いてないつもりのところを深読みしてくれている時もあって、なるほどと思うこともありました。
――夫婦やセックスレスの話ですから、なおさら正解はそれぞれですね。
三竿: そうですね。私は元々こういうドラマをやる時には、見ている人に「これは私の物語だ」と思ってもらいたいという思いがあります。そう思ってくれる人が増えれば増えるほど、答えがいっぱいあって、「違う」と思う人もいる。元々の思いが届いているからこそ、賛否両論が出てくるのだと思うので、嬉しいことだとも思います。
――「こっそり見るドラマ」として、Tverなど動画配信で多く視聴されたことも特徴的でした。
三竿: 私が以前、ドラマ「昼顔」を手掛けた時は、動画配信はなかったのですが、あれも人には言いにくい話なので、オンエアではなく録画で追っかけて見てくださる方が多く、だんだん視聴者が増えていきました。配信というものがこれだけ普及したことで、今までならそのまま見られないで終わってしまったかもしれない物語にも、「こっそり見る」という手段ができた。地上波でも攻める姿勢はやめたくないなと思ったので、狙って攻めた結果、リアルタイムではあまり見られないという現象を起こした。配信に救ってもらったなと思いました。
楓を通して描きたかった、働く女性の葛藤
――楓(田中みな実)を通して描かれた働く女性の目線に共感する声も上がっていました。
三竿: 私はこの企画をやる前から原作漫画を読んでいて、自分も働きながら子育てをしているので、楓にすごく感情移入したんです。別に家庭が悪いわけでも仕事が悪いわけでもないけど、両立するにあたってどちらかを犠牲にする、という言い方をされたりする。会社や社会の体制もあって、まだまだ日本は女性が子育てをしながら仕事で活躍するために超えなきゃいけないハードルがある。それを楓が体現してくれていました。本来は両方の幸せを手に入れてもいいじゃないと思うのだけれど、うまくいかなくて悩む気持ちを、働いている女性はみんな持っているのではと考え、そこは入れたいと思っていました。
家庭を作ることが幸せという女性と、仕事が自分を輝かせてくれるという女性。みち(奈緒)と楓は対照的だけど、どっちもあっていいと思うので、楓のこともちゃんと描きたいと考えました。
みちと陽一、坂道を上った先の景色は?
――最終回、みちと陽一(永山瑛太)が再び一緒に……という結末も話題になりました。
三竿: 原作者さんともこまめにお話をしながら進めてきて、原作の漫画はいまも物語が続いているなか、ドラマが漫画の結末を先に言ってしまうのでは面白くない。漫画は漫画、ドラマはドラマで両方楽しめる、違う味が味わえる、ということになるといいと話して、ドラマオリジナルを入れさせていただくことになりました。
ドラマとしては、タイトルの「あなたがしてくれなくても」の後に続く一言をどうするか、ずっと話し合っていました。最終的に、私たちがはっきりと結末を示すより、皆さんがそれについて考えてくれる最終回になった方がいいのではないかと考えました。1話からずっと細かいところに色々な要素を入れてきているので、それを紡(つむ)いでいってもらうと、自分の中で答えを見つけられる、という終わり方にしたかったんです。
みちの心の中に陽一という人がいることはずっと描いていました。みちと陽一の問題は解決したのかもしれないし、またうまくいかなかったかもしれないけれども、「きっとこの坂道を登った先には幸せが待っているのかな」と感じてもらえるといいなと思いました。
ただ最終話が駆け足だったのもあって、ちょっとわかりづらかったというご意見もたくさんいただきました。違う結末を望んでいる声もあったのですが、それは、嬉しいことに役者さんたちがみんな魅力的だったからなんですよね。例えば岩田(剛典)さんが誠としてすごく魅力的な王子様を貫いてくれて、逆に瑛太さんのお芝居がすごくて陽一が嫌な奴に見えた。役者さんがみんな全力で役に向かって演じてくれたからこそ、「私は○○派」と、皆さんの思う結末がたくさん出来上がっていったのだと思います。
そこまでちゃんと見てくださって嬉しい気持ちと、思う結末じゃなかった方には申し訳ないとも思いながら、この物語が届けたかった何かをくんでくれると嬉しいなと思っています。
――「あなたがしてくれなくても」に続く答えは、何だったのでしょうか?
私たちの中に答えはありますが、秘密です。実はそれを最後の場面で文字にして出す案もあったんですけど、やめたんです。あの結末を見て、答えはそれぞれの人できっと違う。だから言及はしないことに決めました。セックスレスの問題でスタートしている夫婦の話なので、夫婦がどう向き合っていくかということをちゃんと考えさせる終わり方にしたかった、というのが一番大きいです。
全ての出会いには意味がある
――それに続く特別編で描きたかったことは。
三竿: みちに「夫と結婚してよかった。無駄な時間なんかじゃない」という台詞(せりふ)をちゃんと言わせようという思いがあって、あの特別編が出来上がりました。結婚していた5年間が無駄だったと思ってほしくない。ひいては全ての出会いに意味があったんだということを描きたかったんです。
10話の最後で、みちが「新名さんがいなかったら私は壊れていた」と言っているのですが、誠と出会って、体の関係はなくても心が繋がっているあの関係性が、みちにとっては次のステップに行くために大事だった。陽一と結婚して別れるところまでも含めて、次へ進むために必要な要素だったんだということが伝わってほしいなと思いました。みんなが前に進むために、どの出会いも無駄じゃなかったと。
――それは誠と楓にとっても?
三竿: あの2人は、最初からすごくすれ違っていたんですよね。みちと陽一はまだぶつかり合っている最中だったけど、誠と楓は冒頭からぶつかり合いもしなかった。ただ、当初は別れるという選択肢を持っていなかっただけでした。だから必ずしもみちとのことだけがあの家庭を壊したというわけではない。楓も自分がしてきたことへの気付きがあった。たぶん楓は離婚して輝く人だから、楓にとっても1歩進めて良かったと思うんです。
大人が見られるドラマを作りたい
――三竿さんが、今後描きたい作品やテーマはありますか。
三竿: 「昼顔」も今回も不倫の話なので、最近は「そういうジャンルの人」みたいに言われるんですけど、私はやっぱりラブストーリーが好きで、今回のように大人の女性が見られるドラマを作っていきたいなと思っています。自分もそのターゲットにいる人間なので、自分の年齢とか女性であるということが個性だと思っていて、「これは私のことだ」と思ってもらう物語を作るという共感力は持てるのではないかと思っています。だから自分が見たい人間ドラマや恋愛ドラマを作っていきたいです。
――放送期間中に、芸能人の不倫スキャンダルが大きく報道されたこともあり、相まって話題になりました。
三竿: このドラマでは、そこ(不倫)を称賛するつもりは全くないんです。ただ、そういう題材を通して、みんなが心の奥底に持っている気持ちを引っ張り出してきたい、というのが意図です。だから、ドラマを見た次の日に、みんなでランチを食べながらでも、ドラマのことを語り合ってもらえれば、もう私は1番嬉しいです。
『あなたがしてくれなくても』
出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々、永山瑛太ほか
原作:ハルノ晴
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
音楽:菅野祐悟
主題歌:稲葉浩志『Stray Hearts』
挿入歌:稲葉浩志『ダンスはうまく踊れない』
プロデュース:三竿玲子
演出:西谷弘、髙野舞、三橋利行(FILM)
FODで全話配信中
©フジテレビ
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