「39歳問題」のリアル。「妊活は1年のみ」「時間と体力の配分がキモ」……29歳時とは異なる境地

40歳を前にして、仕事、結婚、出産など、人生の選択における岐路に立つ「39歳問題」。30代後半ともなると、仕事のやりがいや収入面、パートナーの考え、妊娠のリミットなど、選択のための要素は複雑に絡み合います。30代に入るときの不安や焦りとは異なるその心境を、2人の女性に聞いてみました。
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妊活をするなら一年間限定で

Whole Kitchen comodtに所属し、現在は歯科医院でも働く前絵理さん(39)。食品業界で約13年間働いていたが、6年前、33歳のときに転職。現在は歯科管理栄養士として専門性を活かしながら働いている。昨年から個人事業主としての活動もしており、院内セミナーの開催や、SNSでの発信といった仕事にも力を入れてきた。

仕事だけではなく家庭も大切だと考えている。結婚して7年。子どもはいない。これまで仕事に全力を注いできたが、40歳を目前にして妊活についても考え始めた。「妊活をするなら期間限定でやろうと、夫婦で話し合っているところです」。

同世代で妊活中の知人・友人も多い。それなりのキャリアを重ね、責任のあるポジションについている彼女ら。仕事を不定期に休み、治療のために医療機関に通わなければいけない妊活は、肉体的にも精神的にも負担だ。とはいえ前さんは、親の期待も感じる。「年齢的にもそろそろ踏ん切りをつけなければいけないタイミング。ひとまず1年間、妊活をやってみようかなと。授からないようであれば、夫婦二人の生活を楽しめばいいよねと、夫とは話しています」。

自分が使える時間や体力を、どう配分するか

20代の頃なら「仕事で成功したい」「子どもを産みたい」などの思いの中から一つに絞った、人生の切り開き方ができたかもしれないと語る前さん。しかし「今はもう、家庭か仕事かと天秤にかけて、どちらかだけを選ぶことはできません」。

30代後半からは体力の低下も実感。もし子どもができたら、妊娠や出産、育児とさらに負担は大きくなり、仕事にかけられる時間も変わる。一方、仕事で、やりたいことはまだまだある。分岐した道のどちらに行くかではなく、自分が一日に使える体力の総量がじりじりと減っていくのを体感している中で、どのようにベストな“配分”をしたらいいのかを悩んでいる。

「タロットカードのように、目の前にライフイベントや選択肢が記されたカードがたくさん並んでいるようなイメージ。出産、キャリアなど、自分の人生を変えるさまざまなカードの一枚を選んだら、どのように取り巻く環境が変化するかを、現実的に想像できてしまうようにもなった。今までは『まだ、めくりたくない』と保留にしていたけれど、そろそろ、私は、カードのどれかをめくるのか、諦めて捨てるのか、選択をしなければいけない時期なんだろうと自覚しています」。

35歳で転職。一人でも生きていける力を

Webセキュリティサービスを提供するサイバーセキュリティクラウドで広報を担当している川﨑愛さん(35)は、今年の1月、新卒から勤めていたベビー用品メーカーから現在勤める会社に転職した。「営業や新規事業などさまざまな仕事を前の会社では経験しましたが、中でも広報は5年担当。その広報が自分の天職なのではと思い、人事異動を機に転職を決意しました」。

収入面で将来への不安もあった。「20代の頃は、いかに先輩たちについていくか、成果を残せるか、それだけを考えてがむしゃらに頑張れた。でも30代半ばになり、老後のことも少し頭をよぎるようになりました」。金融庁の報告書にあった、年金だけでは老後の生活資金が2000万円不足するという「老後2000万問題」が、たびたび報じられるのを見て考えた。昇給などが遅い会社で定年まで勤めるのか、それよりも広報のスペシャリストとなってスキルアップしていったほうがいいのか――。様々な要因も考慮し、転職して広報をすることに踏み出した。

現在、独身。結婚については「いい相手がいれば結婚したい。でも焦りは、35歳を超えたらなくなった」と語る。焦りのピークは20代後半から30歳前半まで。周りの友人の結婚・出産のピークを過ぎた今、「結婚しないの?」と聞かれる機会も減っている。出会いがあれば結婚するのもアリ、とは思う。ただ結婚しない人生も考慮して、一人でちゃんと生きていけるように、貯金や投資も始めた。

人に急かされて焦ることはない。自分が“その気”になるかどうか

30代に入る頃の漠然とした不安や、人の目を気にする気持ちはさほどない。「最近は具体的に自分はどうするか、ってことばかり考えています。たとえば、出産の可能性があるなら、卵子凍結なども選択肢の一つとして考慮しないといけないかな、とか。情報を検索したり、経験した人に話を聞いたりしています」。

結婚についても、現実的に考える。「この年齢になると結婚をメリットばかりとは思えなくなってくるので」と川﨑さん。「結婚したい相手がいれば、自然とするだろう」と思うが、それも30代のうちのことで、40代に入れば考えが変わるかもしれないとの予感がある。「一人に慣れると、許容できない範囲がどんどん増えていく。たとえばご飯を食べたあとに食器を片付けるとき、少しゆっくりしてから片付けようと私が思っているのに、相手から『すぐに洗ったほうがよくない?』と言われたら、多分イラっとしちゃう(笑)」。20代なら「しょうがないな」「こういうものなのかな」とパートナーの考えに合わせることができたかもしれないが、年を重ねるごとに「私はこうしたい」「こうしてきた」と譲れない小さなルールができてきた。共同生活そのものにストレスを感じてしまうのではないかという不安がある。

今の心境はケセラセラ――。それも「物ごとは勝手にいいように進む」という意味ではなく、「なるようにしかならない」と、川﨑さんは冷静に考えている。

(写真:Getty Images)

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ライター・編集者。1988年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後ベネッセコーポレーションに入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスに。雑誌やWEB、書籍で取材・執筆を手がける他に、子ども向けの教育コンテンツ企画・編集も行う。文京区在住。お酒と料理が好き。
“39歳問題”