『六本木クラス』2話。新、優香、葵、それぞれの戦い方を考察、空気を読まない平手友梨奈の演技がハマる

『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を竹内涼真主演で「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」。注目の平手友梨奈大活躍の2話を、telling,で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が考察します。
考察『六本木クラス』は見事に「こける」ドラマ!純豆腐チゲから「から揚げ」への変化はどうなる?

どうせなら大盆踊り大会で!

宮部新(竹内涼真)の父親をひき逃げした事件の真犯人は、長屋龍河(早乙女太一)。だが、大企業・長屋ホールディングスの息子だということで、事実は隠蔽された。
現場の警察官・松下博嗣(緒形直人)は、証拠をつかんでいたが、上層部からの圧力には抗えなかった。
龍河を殴った宮部新は、懲役3年の刑。
3年後、出所した新は、六本木の夏祭りで楠木優香(新木優子)と再会する。

この場面、『梨泰院クラス』ではハロウィンでもっと多様な人が混じり合っていて(人外仮装でよりいっそう多様さが際立つ仕掛けだ)、作品の根本的なテーマを画的にズバリ表現していた。
だからこそパク・セロイは、梨泰院を気に入り「ここに出店しよう」と一発で決めるのだ。
だけど、まあ、さすがに六本木だと、そういった魅力は醸し出せなかったのか、地味な夏祭りで、なぜ気に入ったのか分かりにくかった。
どうせなら老若男女が大盆踊り大会してるぐらいの大胆な日本版アレンジでもよかったんじゃないかなーと思ってしまった。

さらに、『梨泰院クラス』では、この場面に重要な意味があった。その街のキーパーソンとしてタレントのホン・チョクソンが本人役で登場するシーンだ。
タレントのホン・チョクソンは、2000年にゲイであることをカミングアウトし、激しい議論を呼んで、テレビ番組を降板することになる。
その後、梨泰院にレストランを出して、ドラマでスアが「梨泰院の大物よ いろいろ教えてもらってる」と言うとおり、街の発展に助力している。
急速に多様さを獲得しようとしている街として梨泰院が描かれ、それを象徴する人物としてホン・チョクソンが登場するのだ。
もちろん、六本木に移し替えるときに、六本木の文化的キーパーソンとして的確な人は誰かと考えると……なかなか適役がいない。六本木にした時点で、この場面をカットする以外に手はなかったのかもしれない。

優香は、長屋ホールディングスに来年就職することが決まったと話す。
一方、新は、六本木に店を出すことを決意。
オープンの予定はいつごろなのかと聞くと、「7年後」と新は答え、優香はラムネサワーを吹き出す。
それまで何するの?という質問に「マグロ漁船に乗る」で、また吹き出す優香。

新と優香と葵は、三者三様

7年後の2017年。
いじめっこたちの所業を「区長の娘が暴れてまーす笑」とスマホで生配信する天才インフルエンサー麻宮葵(平手友梨奈)の登場。
もちろんこの場面は、1話の新がいじめを止める場面と照応している。
激怒した母親に平手打ちされるが、葵はちゃんと長屋龍二(鈴鹿央士)にその様子を撮影させている!
「やっぱ親の教育って大事ですね」
さらに平手打ちしようとする母親の手を、偶然通りがかった新が止める。
止められた母親を葵は平手打ち。
新が「なんであの人殴った」と葵を問い詰めるが、「あの人のせいでパパは死んだんだ」という葵のウソで新は何も言えなくなってしまう。

旧態依然とした権力と、その権力に忖度してしまう人々。「忖度型環境差別」にどう抗うかという視点で見ると、新と優香と葵は、三者三様、ぜんぜん違うスタンスで抗っている。
新は、まったく折れない。屈服しない。

「いま1回、最後に1回、もう1回。その一瞬は楽になる。だけど繰り返すうちに人は変わる」
『梨泰院クラス』第3話のパク・セロイのセリフは、いっさい屈服しない主人公の信念を表している。

長屋茂(香川照之)に土下座を強いられる場面が2度あり、さらに刑務所の中で土下座しろと言われる場面もあった。だが、新は、いっさい屈せず、殴られても、学校を退学になっても、強い信念で権力の圧を跳ね返す。
一方で、優香は、「その一瞬は楽に」なってしまうことを選択してしまう。長屋から奨学金を受け、長屋に就職する。利用できるところは利用するが、最後の部分は譲るべきではないと考えているキャラクターだ。
そして葵は、第三の道を選ぶ。反骨するでもなく、権力におもねるでもない。SNSや自分のスキルを使って、権力とは違うところで勝負しようとする。
彼女が「ソシオパス」という設定なのも、権力どころか、そもそも社会規範からもすり抜けているというキャラクターだからだろう。
新の拒絶でもなく、優香の妥協でもなく、葵は、第三の方法「空気を読まない」を示している。
空気を読まない、つまり天使にも悪魔にもなるカリスマ性を持つキャラクターを、平手友梨奈が演じきった。これはハマり役だろう。
欅坂46のセンターとして『ガラスを割れ!』『黒い羊』『サイレントマジョリティー』といった曲を歌った平手友梨奈が、この役にばっちりハマった。

まさか優香が?

新は、宣言通り、六本木に居酒屋「二代目みやべ」をオープンする。
だが、まったく客が来ない。
パンダの着ぐるみでチラシを配る新は、バイクから放り出されて飛んできた葵をキャッチ。新は、ぶったおれて気絶して、病院に運ばれる。

長屋の店で、未成年であることがバレてアルコールが出せないと言われ、別の店を探す葵と龍二と先輩。
「二代目みやべ」に入る三人。
酔っ払った先輩が、内山亮太(中尾明慶)を猿呼ばわりして酒を注文する。言い方を改めてくれという新にも先輩は絡み、キレた亮太とトラブルに。キレると我を失う亮太は、止めにはいった新を背負投げ。笑う葵。

綾瀬りく(さとうほなみ)の一喝で、どうにか思いとどまる亮太だが、そのとき警官が入ってくる。
未成年飲酒の通報があったと警察は言う。
外で様子を見ている優香は、意味ありげにスマホを持っている。優香が通報したのだろうか? 妥協はすれど最後の部分は譲らないと思っていた優香は、長屋の社員として新の店を潰しにかかってきたのだろうか?

考察『六本木クラス』は見事に「こける」ドラマ!純豆腐チゲから「から揚げ」への変化はどうなる?

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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