見どころしかない『石子と羽男』有村架純×中村倫也の掛け合いの速さについていけるか

金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)が7月15日にスタート。東大卒のパラリーガル・石田硝子(有村架純)と、高卒の弁護士・羽根岡佳男(中村倫也)が、「カフェでのスマホ充電」などのまさに「そんなコトで訴えます?」な身近なトラブルに取り組みます。『MIU404』『最愛』(ともにTBS系)などを手掛けた新井順子プロデューサー×塚原あゆ子ディレクターのタッグに期待が集まるドラマの1話を振り返ります。

「こんなことで訴えるなんておかしくないですか?」

なんときれいな第1話。前半での「こんなことで訴えるなんておかしくないですか。アメリカじゃあるまいし」という依頼者・大庭蒼生(赤楚衛二)の疑問が、最後にキッチリ回収されていった。

有村架純が演じるパラリーガル・石田硝子(=石子)の高校の後輩だという大庭は、毎日のように通うカフェでスマートフォンを充電していた。それを見つけた店主に警告され、100万円を要求されてしまう。そんなことで? と思うが、コンセントの使用を許可していない飲食店などでの充電は窃盗罪にあたる場合もある。

そのカフェにほぼ毎日、長時間滞在していた理由を、大庭は「居心地が良かったから」と話した。しかし、中村倫也が演じる弁護士の羽根岡佳男(=羽男)は、カフェが大庭の自宅とは離れた場所にあると気づく。

彼がカフェに通っていた目的は他にある。大庭はカフェの向かいにある中古車店を長時間盗撮していた。それは、その中古車店で働く同僚・沢村(小関裕太)のためだった。かつて沢村と同じ職場で働いていた大庭は、中古車店の支店長からパワハラ・職場いじめを受けていた。しかし、大庭も沢村も、パワハラやいじめについて誰にも相談できず、自分で解決しようとしていたのだ。

「日本人の多くはな、弁護士に頼むのは最終手段だって思ってるからね。アメリカのさ、訴えまくるシステムもさ、銃社会っていう前提はあるけど、直接個人が争って深刻な関係にならないための方法だと思うんだよ」

石子の父親で弁護士の潮綿郎(さだまさし)は、アメリカと日本の法律への向き合い方の違いをこう指摘した。その後すぐに、ごく僅かに残ったケチャップを使い切ろうとする石子と「ケチくさ!」と驚く羽男の、生活感覚の“違い”を差し込むのも鮮やか。

石子は大庭たちに、日本国憲法においてはすべての国民は法の下に平等で、等しく扱われなければいけないのだと告げる。そのうえで、「ただ、声をあげていただかなければお手伝いできません」と、つらいときにこそ法律を頼ってほしいことを伝える。

仕事やいじめで弁護士を頼るなんて「情けない」と、大庭は思っていた。「こんなことで」という言葉には、2つの受け取り方があった。「そんな些細なことで」と「そんな情けないことで」。自分たちで問題を抱え込み、自己責任でなんとかしようとしていた大庭と沢村は、石子と羽男の力を借りて状況を変え、関係を修復していく。

有村架純と中村倫也の演技の応酬

有村架純と中村倫也の掛け合いのテンポがとても早く、セリフの弾数も多い。そこに気持ち良さとともに、俳優としての彼らの凄みまで感じる。特に中村倫也には、それアドリブ? と思うような演技の機転が感じられ、一瞬たりとも見逃せないドラマになっている。

例えば、カフェで石子が羽男のパソコンを覗き込もうとしたとき。グイグイと迫る石子がテーブルを揺らしたのを見て、羽男は「危ないな」と言う。そしてテーブルのグラスに目を落とし「こぼれたし」。飲み物がこぼれたのを見て、中村倫也がセリフを付け足したように見えた。

また、大庭が盗撮していた中古車店の映像を家で見ていた羽男は、沢村がボイスレコーダーを確認している場面を発見する。そのとき、ペットボトルの水を口にしようとするのだが、映像に注目するあまり蓋を取らずに口をつけ「あ……」と少し驚き、蓋を開けて飲み直す。ここも、脚本どおりかアドリブかと気になる場面だった。

羽男は「羽のように軽やか」でありたいために「羽男」を自称している。突然イタリア語を織り交ぜることでデキる弁護士を演出しようとしたり、すべて頭のなかに入っているようで発言をメモしていたりと、本来の自分を隠そうとしている面があるようだ。だからこそ、中村倫也の盛り盛りの演技が「演技がかった羽男」にちょうどいい。

石子は頭が固いことから羽男に「石子」と呼ばれるようになるが、実は高校生の頃にもそのニックネームで呼ばれていた。大庭はその理由を「コツコツがんばるから」と言う。

ただ頭が固いだけではなく、チャーミングにも見える。調べ物をして事務所で寝てしまった石子が輪ゴムで髪の毛をとめている。その姿のまま「光が見えました!」と言って羽男に駆け寄る(その場面で、背後の換気扇から光が射し込む)。その姿を羽男はバカにしないし、石子もトラブルが解決できそうで嬉しそうに笑っている。

弁護士を目指していた高校時代を知る大庭に「弁護士にはならないんですか」と聞かれた石子は、「うーん、どうだろう」とにごしていた。今後、羽男や大庭がその理由を明らかにしていきそうだ。

羽男とのコンビを解消したいと綿郎に泣きつくが、噓泣きだとバレていても気にしていなさそうなところ。急いで走るときには「よいしょ! よいしょ!」と掛け声を出しているところ。頭の固さは彼女の嫌な面ではなく、不器用さや素直さから来ているものだと感じる細かい演技が積み重なっていく。

有村架純と中村倫也の演技の応酬に、さだまさしのふわふわとした優しい存在感と赤楚衛二の真っすぐな体当たり感も加わり、画面が見どころで満ちている。

石子は進め、羽男は止まれ、大庭は?

美術面も面白い。まず、回想シーンで石子と羽男がいる事務所のセットが回転していく。天井や壁に、回想に登場する人物たちが出てくる。CGで人物を重ねただけと思いきや、「回想」で散らばった書類が「現在」の事務所に残っていたりと芸が細かい。

また、第1話は色にも注目したい。赤い自転車に乗った羽男は、赤信号で止まる。押しボタン式の信号だと気がつかず、子どもがボタンを押すまでそこで待ってしまう。石子のほうは、事務所の屋上にいるときに緑色の服を着ている。何か作業するときや問題が解決してビールを飲むときに屋上にいるのだが、彼女の周囲には緑色の小物が置かれている。

見たものを瞬時に覚える「フォトグラフィックメモリー」という能力を持ちながら、予想外の事態に弱くて立ち止まってしまう羽男。羽男が立ち止まってしまうときにも、自分の意思でどんどん前に進んでいく石子。そんなふたりのキャラクターが、赤と緑の信号カラーで表現されていた。

さらにドラマのラストシーンでは、誰のものかわからないカラフルに染まったタイダイ柄のTシャツが事務所に干されている。綿郎が食べているのは、依頼者からお礼にもらった色とりどりのマカロン。そして、積まれた透明なプラスチックコンテナの中にはさまざまな色のタオルかモップのようなものが詰まっていて、その横に現れたのは大庭だった。

スタッフロールには、作品全体の色をコンサルティングするカラリスト・稲川実希や、美術プロデューサー・雨宮里美らの名前も並ぶ。稲川実希は、今年話題のホラー映画『きさらぎ駅』に参加。雨宮里美はドラマ『着飾る恋には理由があって』や『婚姻届に判を捺しただけですが』(ともに2021年TBS系)など、部屋のセットが凝っていて見ごたえのある作品を手掛けてきた。

緑と赤で表された石子と羽男に、何色に染まるかわからない大庭。依頼者やそれぞれとの関わりの中で、彼らの変化がどう描かれていくのか。

第2話では「未成年者取消権」を扱い、子どもがスマホゲームに課金してしまった場合の高額請求への対応に挑む。ゲスト俳優は木村佳乃と、人気声優の宮野真守。見どころの多いドラマに、振り落とされずついていきたい。

TBS系『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』

毎週金曜よる10時~
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし 他
脚本:西田征史
音楽:得田真裕
主題歌:RADWIMPS「人間ごっこ」
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子

ライター・編集者。エキレビ!などでドラマ・写真集レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。性とおじさんと手ごねパンに興味があります。宮城県生まれ。
東京生まれ。イラストレーター&デザイナー。 ユーモアと少しのスパイスを大事に、楽しいイラストを目指しています。こころと体の疲れはもっぱらサウナで癒します。
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