磯村勇斗に釘付け!『持続可能な恋ですか?』キーワードは「住まう」と「奪う」
5月3日に第3話が放送された火曜ドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(TBS系)。キーワードは「住まう」と「奪う」だった。韻を「うあう」で揃えているところに、言葉に関してのこだわりを感じる。
主人公・沢田杏花(さわだ・きょうか/上野樹里)の父親・林太郎(りんたろう/松重豊)は、辞書の編纂を仕事としていて、日々新しい言葉に敏感だ。そして、3話で杏花と林太郎の家に居候することになった幼馴染みの不破颯(ふわ・はやて/磯村勇斗)は、英語学童保育施設の指導員で、こちらも言葉を扱う仕事。結婚や恋の在り方を、言葉の意味の問い直しを通して考えるこのドラマと主人公の杏花にとって、必要不可欠なふたりである。
磯村勇斗の揺らぎ、上野樹里の真っすぐ
何と言っても磯村勇斗大勝利の3話だった。演じる颯は、林太郎の厚意で沢田家に居候することになる。「居候」ではなく「同居」、さらに進んで「同棲」と、颯は杏花との仲をステップアップさせたいと思っている。一緒に住むのは大きなチャンスだ。
海外生活が長い颯はひととの距離が近い。特に杏花に対しては、再会したときには人目もはばからずハグをし、その場に居合わせた東村晴太(ひがしむら・せいた/田中圭)を驚かせた。日用品の買い出しのときにも、自然と杏花の肩に手を回す。そして、いつもニコニコと笑っている。
イケメン男性との突然の同居。『グッドモーニング・コール』や『ママレード・ボーイ』、『ベイビィ★LOVE』(いずれも集英社)や『L・DK』(講談社/「・」はハートマーク)などに見られる、少女漫画的な展開だ。
しかし、杏花は浮かれない。それどころか、林太郎にすすめられて朝食で梅干しを食べる颯を見て、笑顔の奥で無理をしていることに気づく。
「いつも笑ってなくても大丈夫。好き嫌いがあっても、ちょっとくらい不機嫌でも、だらしなくても、ケンカしても、颯のこと嫌いになったりしないから。颯がいい子で、いまも割といい奴なのは知ってる」
杏花にこう言われているときも、颯は笑っている。笑っているのだが、なんだか泣きそうにも見える。杏花の言葉が胸に響いて、心が震えているのが伝わってくるような、繊細な表情の変化をつけている。真っすぐな杏花の瞳と言葉に、いまにも何かが崩れてしまいそうな颯の表情。それが何度も交互に映され、ふたりの間に流れる優しい空気をじっくりと味わえた。
2017年に朝の連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)で主人公を演じた有村架純の相手役を務めた磯村。そのときの瑞々しさをそのままに、その後に出演した話題のドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)や大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)、映画『ヤクザと家族 The Family』などを経て、着実に演技の実力を積み上げてきている。その力が発揮された、上野との対峙だった。
「住む」を持続させるために「無理」を捨てる
家事を頑張ったり、苦手なものも無理をして食べたりと、自分の欠点を見せないように明るく振る舞っていた颯。そんな彼を杏花は「神様みたい」と言った。「でも、神様とは一緒に住めない」とも。
林太郎は、婚活パーティーで出会った整形外科医の日向明里(ひなた・あかり/井川遥)に呼ばれて彼女のお見合い会場へ向かう。明里はお見合い相手は申し分ない人だったが、猫アレルギーを持っており、結婚するならばいま飼っている2匹の猫を手放さなければいけないと考えていた。苦しそうな明里に、林太郎は言う。
「大事なのは、心に誰が住んでいるかということじゃないでしょうか」
「心に……」
「できれば、家族も一緒に住まわせてくれる方と結婚するのをおすすめします」
「……そうですよね。すみません。わたし、情けない」
晴太に習った相手の会話を肯定する「さしすせそ」の定型文ではない、林太郎の心のこもった言葉だ。明里もまた、颯のように「神様」になろうとしていた。誰かと一緒に住むために、自分を偽って相手に嫌われないように振る舞ってしまう。颯は杏花に嫌われたくなくて、明里は「結婚」をするために、無理をしていたのだ。
「住まう」とは「住む」の継続した状態を表す言葉だと林太郎が言っていた。住み続けるということである。ともに暮らし続けられる、つまり持続可能な状態であるには、無理は禁物なのだ。
“風のように”掻き乱すキャラクター
「住まう」が継続とすれば、「奪う」は変化である。シングルファザーの晴太は、息子の虹朗(にじろう/鈴木楽)と過ごす日々について「時々心がふわっとする瞬間があって。奪われてるようで、何か、もらってる、みたいな」と表現した。日々の子育てや生活に時間も体力も奪われていくが、何かをもらっている感覚もあるのだという。
「虹朗、奪われても嬉しいものってなんだ?」
「なぞなぞ? 奪われても嬉しいもの……わかんない」
「こころー!」
「何それ。あ、あれかな、Love Robber(恋泥棒)」
颯の引っ越しを手伝い、杏花の家からの帰り道、晴太と虹朗はこんな会話をしていた。「Love Robber(恋泥棒)」を自称し、その言葉を虹朗に教えたのは颯である。颯は、晴太と杏花が惹かれ合っていることに勘づいているようだ。それを知りながら自分は「Robber」、奪う者であると言っている。
泥棒を意味する英語には「Thief」もあるが、「Robber」は強盗に近い暴力性が含まれた強い言葉である。ラストで鳴った颯のスマホは意味深。どちらも、まだまだ颯が物語を風のように掻き乱していくことを感じる表現である。
毎週火曜よる9時~
出演:上野樹里、田中圭、磯村勇斗、ゆりやんレトリィバァ、水崎綾女、清水くるみ、武田玲奈、鈴木康介、榊原有那、鈴木楽、伊勢志摩、柚希礼音、千葉雅子、八木亜希子、井川遥、松重豊 他
脚本:吉澤智子
音楽:髙見優、信澤宣明
主題歌:幾田りら『レンズ』
演出:土井裕泰、山室大輔、小牧桜、加藤亜季子
プロデューサー:中島啓介、吉藤芽衣
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