考察『六本木クラス』は見事に「こける」ドラマ!純豆腐チゲから「から揚げ」への変化はどうなる?

7月7日スタート『六本木クラス』(テレビ朝日系)は、Netflix配信中の大人気韓国ドラマ『梨泰院クラス』を「日韓共同プロジェクト」でリメイクした「ジャパン・オリジナル版」。熱狂的なファンも多い作品だけに、日本を舞台に繰り広げられる「愛と復讐」の世界はどんなドラマになるのか関心も高いようです。『telling,』で『梨泰院クラス』の全話レビューを手がけたゲーム作家の米光一成が考察します。

目を引いたのは「こける」場面

竹内涼真主演『六本木クラス』が始まった。韓国ドラマ『梨泰院クラス』のリメイク版だ。
『梨泰院クラス』は、韓国のケーブルテレビ局JTBCで、2020年に放送されて大ヒット、Netflixで全世界に配信された。
青春、恋、ジェンダー、起業、仲間、宿敵、復讐、成功──エンタテインメントの要素をこれでもかと盛り込んで波乱万丈な展開をする傑作だ。

テレ朝系『六本木クラス』第1話は、『梨泰院クラス』の第2話中盤までをギュッと詰め込み、原作ドラマの展開を忠実にリメイクした。
人気ドラマのリメイクなだけに賛否両論が巻き起こっているが、さまざまな創意が凝らされ、新たなドラマ『六本木クラス』として楽しめる作品になっていたのではないか。

竹内涼真の熱演も素晴らしかった。特に目を引いたのは「こける」場面だ。

父親の事故についての資料を警察が宮部新(竹内涼真)に手渡し、示談を持ちかける。
「父さんの命をカネにかえてオレに渡すっていうことですか」と、話を受け入れがたい新。

『梨泰院クラス』では、この後パク・セロイ(パク・ソジュン)は目眩を起こして倒れるのだが、『六本木クラス』では、怒りが沸き起こってきた新は資料を床に投げ捨て、その勢いで滑ってこけるのだ。
こけて座り込んだ新に、楠木優香(新木優子)が「この人、ずっと寝てないんです」と寄り添う。
怒りが力となる新のキャラクターと、自然な流れが溶け合った名場面だ。

早乙女太一が演じる長屋龍河がこける場面も素晴らしかった、どしゃぶりの中、新から逃げようとするとき、顔と肩から地面に突進するような角度で転倒する。
早乙女太一のアクション能力の高さだからできた豪快で自然な「こけ」だった。

『六本木クラス』は、『梨泰院クラス』の2話中盤まで進んだ。全体の尺が原作ドラマより短くなるためだろう。省略された場面もあったが気にならない。テンポよく構成されていた。
平手友梨奈ファンは、平手さんの出番が少ない(冒頭だけ!)と残念がっているみたいだけど、このテンポで進展していけば次回、第2話からちゃんと活躍するので乞う期待。

もともと土下座ドラマ

物語は、主人公の宮部新を中心に展開していく。
新は、転校初日に、いじめをしている長屋龍河をぶん殴る。龍河は、長屋ホールディングスの御曹司ということで先生からもいじめを見逃されていたのだ。

校長室で、先生たちは忖度して新に「退学処分」を言い渡すが、長屋ホールディングスの社長である長屋茂(香川照之)は「そこは穏便に行きましょう」と退学処分を考え直すように指示し、土下座をして、息子の龍河に謝れば許そうと持ちかける。

退学処分という最悪の状態から「寛大に」救い出し、土下座という象徴的屈服で許そうと持ちかけるのだ。
日本の土下座ドラマの最高峰『半沢直樹』(TBS系)で重要な役を演じてきた香川照之なので、「半沢に寄せてきた!」とSNSで話題になっていたが、原作ドラマ『梨泰院クラス』も、もともと土下座ドラマなのである。
合理的かつ効率的に考えれば(暴力を振るっているのだし)土下座して許してもらう場面で、宮部新が信念に基づいて土下座しないことは、この作品全体を貫くテーマとなる。

宮部新と楠木優香の対照性

長屋龍河は、新の父を事故で死なせてしまう。茂は、龍河の身代わりをたて、長男・龍河の罪を隠蔽する。
さらに事故の車が龍河のものだと証言したのが楠木優香だと知った茂は、優香に奨学金の支援を持ちかける。
優香は「条件はなんですか?」と聞く。茂が奨学金を支援する条件として、裁判で新にとって不利な証言を要求するだろうと考えたのだ。

だが、茂は「わたしは若者を助けたい。君は裁判では見たままを証言すればいい」と答える。
条件はない。だが、支援を受けろ、と。

優香は答えない。だが、断らないのだ。優香は、「頑固に」信念を貫かず、合理的な考えで支援を受けることを「受け入れた」。
宮部新が「頑固に」信念を貫いたのと対照的な道を選んでしまう。
茂は、巧妙に、本人が屈服したと気づかないように、周囲の人物たちを「屈服」させていく。忖度する人間として周囲や環境を整えていくのだ。
長屋の支援を受けることになった優香は、今後、この目に見えない檻に苦しむことになる。

屈服しなかった新は、龍河に直接報復しようとして逮捕、拘留される。
面会に来た茂は、新に言う。
「経営者としてひとつ教えてやろう。信念とか気合などという言葉は利益を生まない。そんなものはしょせん負け犬の遠吠えなんだよ」
こうして、屈服しない新と、すべてのもの服従させる長屋ホールディングスの茂との対決がはじまるのだ。

純豆腐チゲが「しょうが味噌から揚げ」に

日本版のアレンジのなかで、今後に一番大きな影響を与えそうなのが「しょうが味噌から揚げ」だろう。
『梨泰院クラス』では、外食産業大手の長家(チャンガ)の看板メニューは純豆腐(スンドゥブ)チゲだった。純豆腐チゲの味で、大企業にのしあがったという物語のキーとなる看板メニューだ。それが「しょうが味噌から揚げ」に変わった。

後に、長家会長チャン・デヒ(ユ・ジェミョン)が看板メニューを食べる名場面があるのだが、これが「から揚げ」に変わってしまうのだろうか。純豆腐チゲのスープを飲む場面が、「から揚げ」にかぶりつく場面に変わるとどうなるのか。
香川照之が凄い演技をしてくれるに違いない。楽しみである。

純豆腐チゲが「から揚げ」に変わったことで、鶏小屋での名場面「会長の御曹司教育」が、さらに意味を持った。
『梨泰院クラス』では、第2話の中盤に登場するこの名場面。『六本木クラス』では、第1話のラストに配置された。
香川照之と早乙女太一の熱演が、すごかった。

『梨泰院クラス』では、親父と息子は電球の下、向き合って、離れて会話している。
だが、香川照之演じる長屋茂は、龍河(早乙女太一)に後ろから覆いかぶさるように迫った。

「この鶏は宮部新だ。わたしの息子なら、長屋の後継者ならやるんだ」とグイグイきて、金網をわしづかみガシャ!
「くだらない良心は捨てろ。(ガシャ!)鶏を食うときに罪悪感など持つな。(ガシャ!)やれ! やれ! やれぃぃぃ!」

香川照之×早乙女太一、迫る親父、泣く息子。
そして鶏を絞めるときの(もちろん映像にはせず音だけ)、ふたりの邪悪な表情の迫力。
グッとテンションをあげて第2話に続く。
『六本木クラス』の第2話<拡大スペシャル>。おそらく平手友梨奈演じる麻宮葵の壮大な「こける」場面があるはず。どのように描かれるだろうか。楽しみだ。

テレビ朝日系 木曜ドラマ『六本木クラス』

毎週木曜よる9時〜
出演:竹内涼真、新木優子、平手友梨奈、早乙女太一、香川照之、稲森いずみ 他
脚本:徳尾浩司
音楽:髙見優
主題歌:[Alexandros]『Baby's Alright』
監督:田村直己、樹下直美 他
ゼネラルプロデューサー:横地郁英
プロデューサー:大江達樹、西山隆一、菊池誠(アズバーズ)
原作:チョ・グァンジン『六本木クラス~信念を貫いた一発逆転物語~』(『ピッコマ』掲載中)、テレビシリーズ『梨泰院クラス』(JTBC)

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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