●本という贅沢#163 『今日もわたしをひとり占め』

さとゆみ#163 事件が事件を呼ぶ痛快こじらせエッセイ。「今日もわたしをひとり占め」  

隔週水曜にお送りするコラム「本という贅沢」。今回は、telling,でもお馴染みの真船佳奈さんの新刊です。「日本で一番早くこの本を読んだ読者だと思う」という書籍ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが紹介します。
さとゆみ#162 すっと背筋が伸びる。これも多分、彼女の魔法。「オードリー・ヘップバーンという生き方」  

本という贅沢#163 『今日もわたしをひとり占め』(真船佳奈/サンマーク出版)

telling,読者のみなさま(とくに古参のみなさま)におかれましては、発売したばかりの真船佳奈さんの初エッセイ本『今日はわたしをひとり占め』、もうご覧になりましたでしょうか? 

真船さんといえば、このtelling,スタート直後からのコラム執筆陣。
「最高に楽しいぼっち(じゃない)旅をしよう!」や「最高にマイペースな結婚をしよう!」など、いつ読んでもお腹がよじれる痛快こじらせコミックエッセイで、書けばいつもぶっちぎりのランキング1位をとっていた漫画家(兼テレビマン)さんだ。

連載がスタートした時期が同じだったのと、過去3年だけテレビマンだった私(しかもテレビ東京さんの番組担当だった)は、勝手に親近感を持って真船さんの連載を読んでいた。

生まれて初めてのコラム連載に右往左往していた私は「いや真船さん、すごいよな。毎度毎度ヤバイ面白いし、PVめちゃくちゃとってて羨ましいな。どうすればあんな文章書けるんだろー」って思ってた。

の、だが!

ある瞬間を境に、コレ羨ましいとかそういう問題じゃないなって思うようになった。

それは「夫が好きすぎて、浮気防止のために夫のトランクスに自分の顔を印刷してプレゼントした」話を読んだからである。

いや、それまでも変態感ある(最高に褒め言葉です)エッセイがぶっ飛んでいて面白かったのだけれど、アレには参った。ああ、もうこれ文章が上手いとか、プロットがすごいとか、ギャグが面白いとかそういう次元の話じゃないや。

作家性の問題とかじゃなくてもう、人間性の問題というか、人生の方向性の問題というか。なんというか、とにかく、唯一無二すぎるアクロバティックな才能が真船さんには、ある。あの人、何かちょっと変なもの、おそらく多くの人間には与えられなかった何かを、神から与えられている。真似できるとか、そういう話では、ない。

連載開始当時、telling,の編集者さんに「さとゆみさん、真船さんとご飯行きましょうよ~」と言われ、「わ、行きたいです。真船さん、会ってみたいです」って返事したんですが、

その数日後に彼女のツイッターで

「昔彼氏と大阪旅行にいって帰りにバス爆発して燃えて救助されたんだけど当時の写真の落差がすごくてクソワロタ」

というツイートを見て、「ん?」となり(写真を見ると本当にバスが爆発してた)、よくよくそのツイートの続きを読むと

「その他にも初デートで上野にパンダ見に行ったらその日にパンダ死んで、遺影を前にまさにお通夜状態になったり、恋のから騒ぎに『不幸を呼ぶ女』として出させていただきこのエピソードを話すも私が出た瞬間に番組が17年の歴史に幕を閉じるなど、感慨深い思い出はたくさんある。日テレさんごめん」

だったので、
編集者さんに連絡して、「すみません、真船さんと飲みにいくと事件に巻き込まれそうなので、やっぱりやめときます」と伝えたのを思い出した。
当時、運の良さだけで生きていた私は、真船さんと会って、それを吸い取られるのが真剣に怖かったのだ。

そうだ、思い出した。この人、そういうのを”持ってる”人なんだった。
なんというか、事件を呼び起こすというか、事件が寄ってくるというか、事件に好かれているというか。
こういうのを才能と言わずして、何と言おう。

というわけで、前書き長くなったけれど、真船さんの新刊『今日もわたしをひとり占め』だよ。
もうタイトルからして、いろいろこじれてる。

私これ、発売日の0時00分にKindleに配信されたのを目視して一気読みした。多分、日本で一番早くこの本を読んだ読者だと思う。
そして思ったよ。真船さん天才。真船さん変態。真船さん最高。
夜中に私があまりに笑うものだから、隣の部屋で寝ていた息子が何ごとかと起きてきたくらいだった。

読んでいてわかったのは、真船さんという人間自体がもうこれ、作品だなということ。これまで私は、真船さんが事件を呼んできていると思っていたけれど、真船さんの存在自体が事件なんだなってこと。

でも、それもこれも、真船さんが暗黒時代を乗り越えた末に手に入れた才能なんだなって思ったんですよね。
ちょっと人とは違う感性を持っている自分を、受け入れられなくて演技して、演技に疲れて素になって、夫さんに出会って。漫画を描いて自分を認められるようになって……。そういう葛藤の時代があったからこそ、いまここまで「自分らしさ」の巨大な羽が生えているんだなーって(羽ばたきすぎ)。

私は単なるイチ読者だけれど、真船さんがいろいろな事件(?)の末、自分を好きになって、こうやってエッセイを届けてくれてよかったなーって思う。
そして、こじらせていた自分のことを、こんなふうに開示してくれてありがとうとも思う。多分、いろんな人を勇気づけてくれる本だと思う。
読後感が何かに似ているなと思ったんだけど、そういえば、オードリーの若林さんのエッセイ3冊を一気読みした時の感覚だった。

というわけで、相変わらずの痛快爆笑エッセイなのですが、真船さんの人間性回復(?)の物語が横軸に流れていて、笑いながらほんのり泣けたりもします。

いつかご本人にお会いしてみたいなーと思いながらも、やっぱり怖いので、これからも真船さんの壮大な“人生実験”をイチ読者として楽しませていただく所存です。

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ところで、この連載でテレビ東京の方の本を紹介するのは3回目。
『1秒でつかむ』の高橋弘樹さん、『ずるい仕事術』 の佐久間宣行さん、そして真船さん。テレビ東京さんって、タレントを輩出する会社ですよね。

 

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さとゆみ#162 すっと背筋が伸びる。これも多分、彼女の魔法。「オードリー・ヘップバーンという生き方」  
ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。