綾瀬はるか『元彼の遺言状』とんでもない密度の1話を相関図でていねいに振り返る

4月期の月9は『元彼の遺言状』(フジテレビ系)。個性の強烈な主人公、弁護士・剣持麗子を演じるのは綾瀬はるか、いっしょに巻き込まれる友人・篠田敬太郎は大泉洋。原作は第19回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作でベストセラーとなった同名小説。作者の新川帆立が現役の弁護士であることも話題になりました(現在は作家に専念)。テンポの速い展開と複雑で大人数の人間関係にSNSには戸惑いも見られた第1話を、相関図で整理しながら振り返ります(ネタバレを含みます)。

もっと嫌~な感じの剣持麗子でもよかった

正直、原作と比べてずいぶんソフトな剣持麗子になっちゃったなぁと思った。
原作の麗子は最初の数ページで「うわっ、怖いっ!」と嫌悪感を抱く。高慢ちきで口調もキツイ。しかし読み進めていくうちに自然と「痛快!」に変わっていくのだ。
綾瀬はるかはどんな役柄もキュートに変える力がある俳優(『義母と娘のブルース』(TBS)の亜希子も綾瀬はるかじゃなかったらかなり痛々しいことになっていたのでは)、原作ぐらい嫌~な麗子でも視聴者が離れたりはしないだろう。これでもかってぐらい嫌~な感じの麗子でもよかった。
しかし残念だったのはそれぐらい。
めちゃくちゃ濃くて目が離せない、ドッキドキの第1回だった。情報量多すぎ! それもそのはず、原作本の半分ぐらい一気に話が進んだ(この後どうするんだ)。

「僕の全財産は、僕を殺した犯人に相続させる」

弁護士・剣持麗子(綾瀬はるか)の大学時代の元カレ・森川栄治(生田斗真)が亡くなった。
麗子は栄治のサークルの先輩・篠田敬太郎(大泉洋)から「栄治のことで相談したい」と話を持ちかけられる。

亡くなった元カレ・森川栄治は大手製薬会社の跡取りだった。
仕事のストレスで持病の喘息を悪化させて軽井沢の別荘で療養していたが、風邪をこじらせて死んでしまったという。
厄介な遺言書を残して。

「僕を支えてくれた人たちへ次のとおり財産を残す」
中学高校で所属していたサッカー部のみんな、担任の先生、愛犬バッカスの主治医の堂上先生、僕の元カノたち……。

血縁関係のない人たちへ腕時計や絵画、不動産を譲るという。ここまではなんと気前の良い話。
厄介なのはここから。

「今挙げたもの以外の全財産は僕を殺した犯人に相続させる」

栄治のは病死なんでしょ? と首を傾げる麗子に篠田が言う。
亡くなる数日前に釣りに連れて行った。それで栄治は風邪をひいて死んだ。
「それって僕が殺したってことにならない? 代理人になって僕を犯人に仕立てあげて欲しいんだ」
篠田、朴訥キャラかと思いきやそうでも無さそう。……いや、誰だってお金貰えるなら貰いたいかそりゃ。
なんといっても栄治の財産は二人で分けたら150億。ひゃ、ひゃくごじゅうおく!

森川家相関図

真犯人を推理してみよう

篠田との関係を隠して、軽井沢の別荘へ乗り込む麗子。
まずは犯人の代理人として「犯人選考会」へ。
犯人と認定されるには森川製薬の社長・森川金治(佐戸井けん太)と専務・森川真梨子(萬田久子)の承認が必要だ。
優秀なビジネスロイヤーである麗子は栄治の持ち株に目をつけ、社長・専務両者が得をする提案をする。反応は上々だった。

ところが翌日、遺言書の原本が盗まれてしまう。さらにその直後、顧問弁護士・村山権太(笹野高史)が毒殺されるというショッキングな出来事が麗子と篠田の目の前で起きてしまった……。
こうなってくると栄治も病死ではなく毒殺された可能性が出てきた。
麗子と篠田は真犯人探しに乗り出す。

栄治が死んで得をするのは、専務の森川真梨子と、森川拓未(要潤)と雪乃(笛木優子)夫妻。
遺言書が無くなって得をするのは、社長の森川金治。
いとこの森川紗英(関水渚)は栄治に交際を迫っていた。雪乃によると「ストーカーのように」。
看護師の原口朝陽(森カンナ)はお金に困っていて栄治に無心していたことを紗英に見られている。

愛犬バッカスの獣医・堂上(野間口徹)に今のところ怪しい点は見当たらない。「僕を支えてくれた人たち」ということで軽井沢の別荘までもらっているから関係は良好なのでは。子どもに左利きを矯正させようとしていたシーンが意味深だったが果たして。

森川家以外の栄治をめぐる相関図

ポトラッチってなんだ?

栄治にそっくりな兄・富治(生田斗真・二役)は相続を放棄しているぐらいだから無関係かと思いきや、いちばん怪しい。

富治は「ポトラッチ」という考え方を口にする。日本語で言うと「競争的贈与」。
北アメリカの先住民族に伝わる風習で、部族間で贈り物をしあう。貰ったもの以上のものをお返しするのがルール。そうすると最終的にはどちらかが返せなくなり潰れてしまう。富をもって相手を支配するのだという。
(原作では例として「バレンタインデー」が挙げられていた。貰ったら多少なりとも良いお菓子をホワイトデーに返さないといけない気になる。返し忘れたらなんとなく負い目を感じるといった内容、宝島社文庫P117)

さらに、堂上が麗子と篠田に「救世主ベビー」の話をしてくれた。
兄・富治は生まれつき血液の病気だった。両親が富治の病気を治療するため、兄弟もいたほうがいいと判断し、弟の栄治は生まれたそうだ。

ここから篠田が推理する。
栄治から命というポトラッチを受けた兄の富治。成長した富治は相続を放棄することで贈り物を返そうとした。しかし命を超える贈り物は無い。
富治は栄治から受けたポトラッチに耐えかねて、栄治を殺そうとした。栄治はそれに気づいてあんな遺言を残したのではないか。

富治「栄治は返し切れない贈り物を贈ることで相手を苦しめたかった。与えることは奪うこと。あの遺言は復讐なんだよ」

栄治は富治を憎んでいたのだろうか。相続を受けたことで仕事のストレスを抱えたから?
学生時代の栄治は好青年に見えた。兄を苦しめたいだなんて思っていたのだろうか。

栄治は学生時代に「麗子のやさしいところが好き」と言っていた。
麗子自身もどこが? と言っていたが、このポトラッチの考えに絡ませると合点がいく。

「ノート借したぐらいで奢ってもらう筋合いないから。私は借りを作るのが一番嫌い」

何かをしてあげてもお返しを求めない。逆に何かをしてもらってもお返しをしない。
そこが栄治には魅力的に感じられたのではないか。

フジテレビ系『元彼の遺言状』

毎週月曜よる9時〜
出演:綾瀬はるか、大泉洋、生田斗真、関水渚、森カンナ、笛木優子、要潤、野間口徹、佐戸井けん太、笹野高史、萬田久子、浅野和之 他
脚本:杉原憲明、小谷暢亮
音楽:川井憲次
演出:鈴木雅之、澤田鎌作、西岡和宏
プロデューサー:金城綾香、宮﨑 暖

フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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