考察『DCU』横浜流星にこの世界の全ての哀しみが押し寄せる!前半を振り返る

今夜第6話放送、TBS日曜劇場『DCU~手錠を持ったダイバー~』。憧れの新名(阿部寛)を追って「DCU」(Deep Crime Unit /潜水特殊捜査隊)に入隊した瀬能(横浜流星)は、新名を疑わざるを得ない状況だ。尊敬する女性(中村アン)の殉職などの悲劇に次々と襲われ、その感情の動きが前半の物語を駆動してきたように感じられた。ここからは後半戦、いよいよ1話冒頭で示された5年前の事故の真実がドラマの中心に浮上してきそうだ。
『DCU』3話。隆子(中村アン)の死と、新名(阿部寛)と瀬能(横浜流星)の因縁を繋ぐセリフに注目

横浜流星の喜怒哀楽がすごいことになっている。ある時は笑い、ある時はブチギレ、ある時は泣きじゃくる……。特に「哀」に繋がる事件が多発していて、『DCU』という世界が横浜流星の感情をぶっ壊しにかかっているようにさえ思える。

偶然出会ったのは恩人……嫌な予感

第1話からそうだった。幼い頃に自分の命を助けてくれた新名(阿部寛)に憧れてDCU入りを果たし、ウキウキの瀬能(横浜流星)。しかし、蘇った記憶によると過去はまるで逆だった。新名が父の仇の可能性まで浮上し、激昂する(蘇った記憶の真偽はいまだ不明)。

疑いを持ったまま新名と組まされ、さらには水への恐怖心からPTSD発症。思いを寄せていた隆子(中村アン)は殉職し、心の拠り所を無くしてしまう。もはやこの世界の哀しみが瀬能めがけて集まってきているようだ。

第5話では、国土交通省副大臣の長男・木下裕司(三浦獠太)が行方不明になった。危険ドラッグに手を出していた可能性もあり、DCUに極秘で捜索命令が下される。新名と瀬能が聞き込みに赴いたサーフショップで、瀬能の学生時代の先輩で恩人の・中林(藤井流星)と再会する。中林の登場は好青年に見えるのだが、これまでの流れから嫌な予感しかない。

横浜流星が主役でいいのでは?

中林のサーフショップで仕入れた情報を元に容疑者に近づくが、容疑者は公安の清水(山崎育三郎)と麻薬取締部がマーク中の人物だった。警戒されては捜査の邪魔になるとDCUは撤退の命を下されてしまう。さらに、副大臣は、息子が危険ドラッグを使用していたという事実が明るみに出るのを避けるため、裕司の捜索を諦めるという衝撃の展開。
汚い大人の世界に、瀬能の心はまたしても汚されてしまう。しかし、そこはさすがのDCU、「こんなとき、隆子さんなら諦めない」という強い思いに駆られたメンバーは、秘密裡に捜査を続行、はたからは諦めたように見える新名も懲戒免職覚悟だ。

そんな事件と同時に、1話からつづく本筋(5年前の事故の真実、瀬能の父を死に追い遣ったのは新名なのではないかという疑い)も展開する。
新名家の食事会に呼ばれた瀬能は、5年前の真実を確かめるため、機を見て新名の部屋に忍び込み、物証を漁る。……もはや犯罪スレスレ。精神的に相当追い込まれているようだ。

主人公である新名が、傍若無人で何を考えているのかわからない俺様キャラ。芯に熱いモノを持っているのは間違いないが、本心の描写は少ない。そのぶん二番手の瀬能に喜怒哀楽のほとんどが託されているような構成となっている。

もちろん、DCUのメンバーたちも隆子の死にショックをうけているのだが、いかんせん事件が瀬能を中心に起きすぎている。終始ひとりで喜怒哀楽を爆発させていて感情が忙しい。今をときめく横浜流星をフル活用してくれるのはありがたいが、託されたタスクが重すぎる。少なくとも前半は、瀬能を主人公として捉えた方が見やすかったのかもしれない。

キングカズの長男がドラ息子役を演じる

「新名と瀬能の過去に何が?」という本筋があるものの、今作は基本的に1話完結で展開されている。しかし、その本筋が太すぎて、1話完結に若干支障をきたしているように思える。ちょくちょく過去の事件に流れが変わるし、隆子の死が話を複雑にするし、DCUのメンバーは多いし、描きどころが豊かすぎるためか、毎話の事件を彩るゲストが少ないのだ。

5話のゲストは、目立ったところで中林と副大臣秘書の日村(栁俊太郎)2人だけ。犯人候補がほぼ二択なのだ(行方不明になった裕司の自作自演というパターンもなくはないが)。そんな厳しい設定でも演出、演技、セリフの妙で、日村をうまくミスリードに使っていたが、もう少し誰が犯人なのかわくわくしたい、謎を感じたい。
満を持して中林が黒幕として登場しても「そりゃあ藤井流星をあんなチョイ役で使うわけないもんね」という邪念が驚きに勝ってしまった。

ただ、事件解決後、裕司を演じた三浦獠太の(副大臣の)ドラ息子っぷり。ちゃんとクズでスッキリした。キングカズこと三浦和良の息子である三浦獠太である。そのイメージを狙ってのキャスティングかはわからないが、本人としてはあまり気持ちの良くないリンクの仕方であろう役柄を、しっかり演じ切っていたのは気持ちよかった。

ラストでは、かつて新名とバディを組んでいた(隆子の兄でもある)成合(吉川晃司)が生きていることが、いよいよはっきりと示された。瀬能の父はテロリストと繋がっていたのか? 成合はスパイだったのか? 本筋が本格的に動き出しそうな予感だ。

また、仲違いしていた新名と副隊長の西野(高橋光臣)が和解した。それなら今回は西野を中心に描いてくれればよかったのに、感情移入できたのに……と思わなくもないが、バディを組んだことで物語のバランスが変わるかもしれない。高橋光臣の登場が増えることで横浜流星の負担が軽くなればいいが、今後はどのように展開していくのだろう。

『DCU』3話。隆子(中村アン)の死と、新名(阿部寛)と瀬能(横浜流星)の因縁を繋ぐセリフに注目

日曜劇場『DCU~手錠を持ったダイバー~』

■TBS系 毎週日曜夜9時〜

出演:阿部寛、横浜流星、中村アン、山崎育三郎、趣里 他
脚本:青柳祐美子、小谷暢亮、谷口純一郎
音楽:木村秀彬
主題歌: Lizabet「Another Day Goes By」
演出:田中健太、青山貴洋、宮崎陽平
プロデューサー:貴島誠一郎、伊與田英徳、関川友理、佐久間晃嗣

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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