考察『逃亡医F』6〜7話「私のせいです、私が殺しました」 藤木(成田凌)の叫びが悲しすぎる

恋人殺しの容疑をかけられた天才外科医・藤木(成田凌)が、警察や追っ手から逃げながら、行く先々で人々を助ける『逃亡医F』。キーパーソンの都波(酒向芳)にやっとのことで会うことができ、いよいよ恋人の死の真相に近づけるはずが……。緊迫の6、7話を振り返ります。
考察『逃亡医F』犬を救い、外国人集団に匿われる天才医師の運命は? 追っ手の正体がわからない

妙子を愛した二人の男の共通点

6話で藤木(成田凌)は美香子(森七菜)の手ほどきによって、とうとうキーパーソンの都波(酒向芳)に会うことができた。しかし、都波は直接的に恋人・妙子(桜庭ななみ)の死の真相がわかるようなヒントは持っていなかった。同時に藤木は都波と行動をともにしていた、妙子の兄でもある拓郎(松岡昌宏)とも再会する。

いまだ藤木を疑い、殺そうとさえする拓郎の心を動かしたのは、彼自身の言葉だった。拓郎は藤木から奪ったスマホで藤木になりきって美香子と連絡をとっていた。そのときに藤木から受け取った言葉を美香子が読み上げる。それは、妙子をなくしたつらさを綴ったものだった。

「目が覚めた瞬間からまたつらいのです。つらくて悲しくて苦しい以外の時間はからっぽです。からっぽは怖いです。広い空洞にひとりぼっちでいるんです」

大切な人をなくしたという共通項を持った二人が、ようやく同じ気持ちを共有した。さらに藤木が拓郎の鎖骨のケガを手術するに至り、ともに妙子との思い出の時計を付け続けていることを確認してようやく拓郎は藤木を信頼したようだ。

団地では藤木を匿ってくれている外国人労働者たちに日本人のホームレスたちが因縁をつけ、揉めはじめた。そこに駆けつけた拓郎は自分が元自衛官だと明かし、「それなら日本人を守れ」と言われて「悪いが俺は暴力や災害で人権を侵害されているすべての人を守る」ときっぱりと言う。それは藤木が妙子から教えられ、守り続けてきた「医手一律」と同じ考え。誰であろうと目の前の困っている人を救う姿勢。ともに妙子を愛した二人の男の共通点だ。

外国人と日本人の分断と連帯

団地では、分断と連帯があった。廃墟の団地をねぐらにする仲間でありながら、外国人というだけで見下し、追放しようとする日本人。さらに7話では彼らの乱闘に駆けつけた警察の包囲から逃げ出そうとする中で、ホームレスのノムさん(六平直政)が藤木を突き飛ばして逃げたために、藤木は鉄筋の刺さる大怪我を負ってしまう。これも、分断の結果だ。

藤木が自分で手術する姿を見守るホームレスたちが「我々はみなさんの敵なわけで」と所在なさげにしていると、ミャンマー人のモー(中村蒼)に「君たちは俺たちを鳥の群れでも見るようにガイジンとひとまとめに見ているからそう思うんだ」「俺達はお前たちを一人ひとり人格をもった別の人間だと思っている」「あの男のしたことで君たちを責めることはない」と諭される。結果、団地から脱出する途中でホームレスたちは自らおとりとなり、外国人や藤木たちを逃がす。

そして残った外国人たちも、藤木の「お天道様が見ている」「追われれば追われるほど、疑われれば疑われるほど、正直に生きてやろうって」という言葉に動かされるように、藤木たちを逃がすために警察の前に出ていく。彼らがこんな境遇に陥ってしまったのは日本人のせいなのに、それでも藤木たちを助ける。やっぱり彼らは一人ひとりを見ている。

「ミャンマーにも中国にもお天道様はあるんだぞ」と手をつないで投降していくモーたちの姿に、主題歌「太陽は見ている」が重なるのが泣ける。あんなに愛し合っていた、二人でいることを何より大切にしていたモーとチュンヤン(森迫永依)の手も離ればなれになってしまう。

逃亡の中で生まれる名付け得ぬ関係性

バイオベンチャー企業・バイオネオの佐々木(安田顕)らが探していた研究データは、烏丸(前田敦子)が藤木に渡した、あの昭和歌謡の入っていたテープに隠されていた。モーの尽力でノイズから取り出されたそのデータを確認していた都波は、佐々木に心酔している部下、幹(堺小春)に殴られ、データを持ち去られてしまう。そこから逃げ出した都波だが、実は佐々木とつながっていた藤木の後輩・長谷川(桐山照史)にも襲われてしまう。さらにそこに再び現れた幹に再び襲われる。殴られて思うように動けなくなり、ついには部屋に火をつけられた都波がたばこを吸うシーンでは都波がとてもかっこよく見えた。酒向芳の飄々とした都波は、このドラマになくてはならない存在だった。

藤木たちは都波を助け出し、車の中で緊急手術をすることになる。しかしそれを制し、藤木に不完全なデータの残りを自分が持っていることと、さらに重要なことを言い残して都波は死んでしまう。妙子を「殺していない」という主張を続け、その証明のため、妙子の死の真相を探るために逃げ続けてきた藤木は、初めて「私のせいです。私が殺しました」と叫ぶ。「妙子くんのことだ」に続く言葉を聞きたいがために手を止めてしまった。「医手一律」を守り続けてきた藤木が、自分のために都波を死なせてしまったのだ。7話は胸の痛いシーンが続いた。

変人で友達のいない都波が、最後に「君たちは人間初の友達候補だったな」と言い遺した。思えば、藤木と美香子、拓郎、都波、筋川(和田聰宏)も不思議な連帯だ。それぞれの思惑をもった個人がひととき一緒にいること、その中で生まれる信頼と友情。このドラマの中には、名付け得ぬ関係性がたくさんある。

それにしても、日本人ホームレスに六平直政、宮崎吐夢、警官に山崎一とは贅沢なキャスティングだった。警察がいつ踏み込んで来るかわからない中、藤木が自分を手術する緊迫したシーンで気持ちを和らげるためにと口笛を吹き始めるネクタイ(宮崎吐夢)には笑わされた。ほかにも警察の突入を少しでも引き伸ばすために犯人として彼らの前に出ていく美香子など、シリアスな中でのふとした笑いは、やはりこの作品の大きな魅力だ。

考察『逃亡医F』犬を救い、外国人集団に匿われる天才医師の運命は? 追っ手の正体がわからない

『逃亡医F』

■日本テレビ系 毎週土曜夜10時〜

出演:成田凌、森七菜、桐山照史、前田敦子、安田顕、松岡昌宏 他
脚本:福原充則
音楽:今堀恒雄
原作:伊月慶悟、佐藤マコト(作画)『逃亡医F』(Jコミックテラス)
主題歌:奥田民生「太陽が見ている」
演出:佐藤東弥、大谷太郎 他
チーフプロデューサー:三上絵里子
統轄プロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:藤村直人、本多繁勝



ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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