考察『逃亡医F』直情型の拓郎(松岡昌宏)から圭介(成田凌)は逃げ切れるか

追跡から逃げながら行く先々で限られた条件の中、手術を行う『逃亡医F』。セリフや演技の端々まで魅力が詰まった2、3話を振り返ります。
考察『逃亡医F』直情型の拓郎(松岡昌宏)から圭介(成田凌)は逃げ切れるか

海から雪山へ、逃亡を続ける主人公

恋人殺しの疑いをかけられた天才医師・藤木圭介(成田凌)が、その死の真相を知るため、指名手配されながら逃げ続け、行く先々で遭遇した人々を手術で救っていく『逃亡医F』。逃亡劇のスリルや手術の緊張感もさることながら、それぞれにクセのあるキャラクター造形や手術シーンでかかる昭和歌謡のギャップに、1話からすっかり魅了されてしまった。

1話の海上から一転、2話の舞台は雪山。長野の雪山で倒れた藤木は、少年(白鬚善)に発見され、麓の喫茶店店主・香川(升毅)に助けられる。1話で藤木に左腕切断の危機を救われ、彼の力になろうと行方を追ってきた美香子(森七菜)と二人で、しばらく喫茶店に住み込むことに。
藤木がこの雪山に来た理由は、恋人・妙子(桜庭ななみ)が最後に残した電話で、自分になにかあったら彼女の共同研究者・都波教授(酒向芳)に会うよう伝えられていたから。しかし藤木は地元のテレビ局ディレクターである少年の父(林泰文)と野心あるアナウンサー島崎(馬場ふみか)に逃亡犯であると気づかれ、美香子と喫茶店を去り雪山に教授を探しに入る。そこで瀕死の少年に遭遇し、山小屋で緊急手術を行う。

3話では身を隠しながら雪山で都波教授を探す藤木と美香子が接触。そこで渡された喫茶店のまかない弁当の味がおかしいと気づいた藤木は、危険を承知で店に戻り、腫瘍により味覚障害と聴覚障害が起きている香川に手術を勧める。離婚した妻(朝加真由美)との間に生まれた娘(夏子)の披露宴が迫っていて、そこで思い出の味のハンバーグを作れたら手術を受けると決意する香川。式場に同行した藤木は料理を続けられなくなってしまった香川の開頭手術を行うことに。

……と、一応あらすじを書いてみても、このドラマの魅力は10分の1も伝わらない。

どこか抜けている拓郎の魅力

1話で妙子の兄・拓郎(松岡昌宏)は事件に関する情報を得るため刑事・筋川(和田聰宏)の弱みを握った。二人はともに藤木や都波の部屋を探り、二人が接触すると踏んで長野まで迫る。追う側がこんなふうにバディ感あふれる二人組になるとは! と驚いていると、3話で筋川が拓郎を陥れ、縛り上げて逃げ帰り、二人は決別。3話ラストでは拓郎が藤木に迫る警察をなぎ倒し、藤木を連れ去ってしまう。

にしても、拓郎の魅力がすごい。たとえば怪しいと睨んだ妹の友人・烏丸(前田敦子)に迫るシーン。「以前会ったことあるって言ったな。いつの話だ」と言う拓郎に(1話冒頭で拓郎が烏丸に『誰?』と聞いてたのは伏線か!)と思いきや、烏丸からすぐに証拠写真とともに反論されてしまう。そのかっこよくなりきれない感じ。さらにそこで過去を思い出したのか、急に「妙子に会いてえ」と泣いてしまう姿。ほかにも縛られた縄を鳥小屋でちぎろうとして、農家の人に遭遇したときの雄叫びにはつい笑ってしまったし、筋川と対峙したときのアクションには眼を見張った。
筋川もダメな刑事であることは確かだが、藤木の部屋を見渡してプロファイルする腕は確かなようだし、拓郎を縛るときに足は自由にさせてしまうあたり、なんだか憎めない。

セリフ、エピソードの絶妙な具体性!

2、3話を通じて印象的だったのは、藤木と、彼が逃亡犯だと気づいた香川の会話。

「どうすれば信じてあげられるかわからない」
「ぼくもどうしたら信じてもらえるかわかりません」
「指名手配の最中に俺の病気にかまう意味もわからない」
「山道で倒れていた見知らぬ男を泊めてくれる意味もわかりません」
「世の中わからないことだらけだな」

理屈ではない、目の前の人を放っておけない者同士の、互いに信じたいと願う気持ちが「わからない」に集約されている。

各話にだけ登場する人々もそれぞれに魅力的だ。
たとえば2話で藤木の前に立ちはだかる地元・おやきTVのアナウンサー島崎。グルメ企画への出演を依頼する場で「テレビには味なんか映らないんで見た目だけで十分ですよ」と言い放ち、藤木が逃亡犯であると知ってからはスクープをとって東京栄転を夢見る。「からの女優、からの下着のプロデュース、からのヨガスタジオ経営、からのハワイで信州そばの店オープン!」という絶妙なその具体性!

3話で登場する喫茶店主・香川の元妻・晴枝もよかった。シェフが旧友とはいえ披露宴の厨房に潜入し娘のために一品だけ作るというある意味無茶な展開がアリになったのは、晴枝のちょっと強引な感じや、「披露宴で新婦だけハンバーグ食べると一生風邪ひかないって言うでしょう」という聞いたことのない格言によるものだと思う。

ほかにも藤木が自宅にマンガ『杉田玄白17歳』34巻だけを持っていること。暦と妙子との回想で妙子が墨の種類まで知っていること。そういう細かな設定ひとつ、セリフひとつがキャラクターを作り上げ、物語を作り上げている。

積み重なる妙子の謎

手術中に昭和歌謡を聞いてテンポを保つ藤木。2話では雪景色に似合う太田裕美の『さらばシベリア鉄道』、3話は島倉千代子の『鳳仙花』。その昭和歌謡は、妙子が彼に押し付けるようにしてすすめた趣味だった。テープのケースに書かれた文字も妙子のものだ。

妙子の部屋に残っていた「F」とだけ書かれたテープ。烏丸がこっそり持ち帰ったそれを再生すると、やはり昭和歌謡らしき曲が流れる。字幕をオンにして視聴していると、手術中に流れる昭和歌謡にはタイトルが表示されるが、この曲にはそれがなかった。私が知らないだけなのか、それともこの曲になにか秘密が隠されているのだろうか。

気になることといえば、妙子が最後の電話で藤木に伝えた言葉。それをもとに藤木は都波を探しているが、音声で聞くと「困ったら都波さんとあわせて」と言っている。「あわせて」が何を意味するのか、気になる。

そしてどうやら、妙子は実は生きているらしい……。謎は積み重なるばかりだ。

考察『逃亡医F』直情型の拓郎(松岡昌宏)から圭介(成田凌)は逃げ切れるか

『逃亡医F』

■日本テレビ系 毎週土曜夜10時〜

出演:成田凌、森七菜、桐山照史、前田敦子、安田顕、松岡昌宏 他
脚本:福原充則
音楽:今堀恒雄
原作:伊月慶悟、佐藤マコト(作画)『逃亡医F』(Jコミックテラス)
主題歌:奥田民生「太陽が見ている」
演出:佐藤東弥、大谷太郎 他
チーフプロデューサー:三上絵里子
統轄プロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:藤村直人、本多繁勝



ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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