松本潤『となりのチカラ』2話。両親を震災で亡くし認知症の祖母を介護する高校生に厳しすぎる「自助」

『女王の教室』『家政婦のミタ』(ともに日本テレビ系)などヒットドラマを多数手がける脚本家・遊川和彦がマンションの住民たちのコミュニティを描く話題作、松本潤主演『となりのチカラ』。一週のお休みを経て、今夜第3話放送。認知症の祖母と暮らす高校生(長尾謙杜)をチカラ(松本潤)は救えるのか?
遊川和彦新ドラマ『となりのチカラ』1話。優柔不断な松本潤が「ご近所付き合い」を再生する

都内のあるマンションに引っ越して来た中越チカラ(松本潤)が、さまざまな問題を抱えたご近所の人たちとの関係を描く『となりのチカラ』。第2話では認知症の祖母と暮らす男子高校生のヤングケアラー問題に首を突っ込むが、例のごとくスッキリとは解決しない。

認知症の祖母を介護する高校生

ご近所の問題に、頼まれてもいないのに首を突っ込んでいくチカラ。
しかし「正義感全開」というわけでもない。脚本・演出の遊川和彦自身が“中腰のヒーロー”と称しているように、「やめておいた方がいいかも……」と逡巡しつつも「でも気になるし……!」と巻き込まれていくタイプの、消極的なお節介ヒーローだ。
チカラには、従来のドラマで松本潤が演じてきたようなキラキラ感も、キレキレの頭脳もなく、特技は「人の話を聞くことだけ」。そんな感じなので、問題に首を突っ込んだところで解決する能力はないのだ。

第2話の中心となった402号室には、男子高校生・柏木託也(長尾謙杜)と、祖母・清江(風吹ジュン)が住んでいる。
託也は小学生時代に両親を震災(おそらく東日本大震災)で亡くしており、以降、清江と暮らしている。しかし、その清江も2年前に認知症を発症し、孫の顔が分からなくなってしまうときがあるほど悪化している。
大学受験を控えている託也だが、受験を諦めて清江の介護に専念すべきか悩んでいて……。重い!近所のお節介がちょっと首を突っ込んだくらいで解決できる問題ではないだろう。

このエピソード、菅・前総理の「自助・共助・公助」発言を思い出さずにはいられない。高校生が一人で認知症の祖母を介護しなければならない状況は「自助」。明らかに無理がある。

「なんで俺ばっかり、こんなつらい思いしなきゃいけないんだよ! 震災で両親がいなくなったのに、なんでばあちゃんまで認知症にならないといけないんだよ。ふざけんなよ! 不公平だよこんなの!」

基本、おばあちゃん思いの託也が「早く死んでくれないか」と考えてしまうほど追い詰められているのだ。そして、チカラ(ご近所さん)に協力を仰ぐのが「共助」ということになるのだろう。

チカラが首を突っ込んで引っかき回した結果、「困ったらチカラさんに連絡する」という家庭内ルールを作った柏木家。状況はちょっとマシになったのかもしれないが、第1話のDV問題と同様、根本的な解決にはなっていない、モヤッとした結末だ。
そこで必要になってくるのが「公助」! ……と言いたいところだが、ドラマ的な展開ではない。
チカラ以外、隣人にまったく興味を持っていなかったご近所さんたちが、みんなで力を合わせて問題を乗り越えていくという方向に進んでいくのだろうか。

深刻な問題が1話でスッキリ解決するわけないだろ!

現状、奮闘しているのはチカラ一人なため、問題はほとんど解決されていない。しかし、この「スッキリと解決しない」のが本作の特徴といえそうだ。

近年のテレビドラマは1話単位での満足度が重視されている。1話である程度スッキリと問題を解決する1話完結ものが増え、放送時間が30分程度のドラマも多くなっている。
ネット動画では最初の5秒で視聴者をつかまなくてはいけないと言われているんだとか。
コンテンツがあふれ、視聴者側にもじっくりと鑑賞する習慣がなくなってしまっている昨今、1話30分、全5話くらいの、トータルの放送時間がメチャクチャ短いドラマも出てきている。テレビの連続ドラマも「いかに短時間でサクッと視聴者を満足させるか」が求められているようだ。
そんな時代の要請に応えて、1話ワンシチュエーションで30分(CMを抜かせば20分程度)でストーリーを構築し、それなりに見応えのある作品も出てきている。

ただ、1話1時間、1クール10話程度でじっくり見せるドラマも捨てがたい(まあ、昔は半年続くドラマも少なくなかったが)。
遊川和彦は昨今のテレビドラマ業界の風潮に反旗を翻し、「深刻な問題が1話でスッキリ解決するわけないだろ!」と主張しているのかもしれない。

お節介なわりに優柔不断で、問題に首を突っ込んで引っかき回すくせに、解決はできない、中途半端なヒーロー・チカラ。
見ていて若干イライラする面もあるのだが、ゆっくりと成長し、ご近所さんも巻き込んで、本当のヒーローになっていくのだろう。

ただ、遊川ドラマは最終回になってもスッキリしないまま、モヤッと終わる可能性もあるのが恐ろしいところだが。

チカラのヘビーな過去

チカラが本当のヒーローになるためのキーになりそうな、ヘビーな過去も明かされた。

チカラは高校生のとき、母親を脳卒中で亡くしており、必死に看病していた父親は母親の死後、抜け殻のようになってしまったという。
父親の気持ちが痛いほど分かるチカラは、しばらくそっとしておいたのだが、その父親も自殺してしまった。

「もっと話しかければよかった」
「もっとお父さんの気持ちを聞いてあげればよかった」

そのときの思いから、つらい思いをしている人を見ると放っておけなくなっているのだろうと妻・灯(上戸彩)は分析する。

「あれは優しさっていうより、習性みたいなもんね。マグロは泳いでないと死んじゃう、みたいな」

自身もトラウマ級の過去を持っていたチカラ。この過去をスッキリと克服することが、ヒーローへの第一歩か。

遊川和彦新ドラマ『となりのチカラ』1話。優柔不断な松本潤が「ご近所付き合い」を再生する

『となりのチカラ』

■テレビ朝日系 毎週木曜夜9時〜
出演:松本潤、上戸彩、小澤征悦、映美くらら、風吹ジュン、松嶋菜々子 他
脚本:遊川和彦
音楽:平井真美子
主題歌:上原ひろみ『上を向いて歩こう』
演出:遊川和彦、本橋圭太、竹園元、松川嵩史 他
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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