松本潤『となりのチカラ』「お隣さんはみんな家族」チカラの力で住人みんなが家族に?

『女王の教室』『家政婦のミタ』(ともに日本テレビ)などのヒットドラマを多数手がけた脚本家・遊川和彦がマンション住民たちのコミュニティを描く話題作『となりのチカラ』。作家志望(今はもっぱらゴーストライター業)の中越チカラ(松本潤)は、「お隣さん」たちとの関係を築こうと必死。5話までの奮闘を振り返ります。
松本潤『となりのチカラ』3話。外国人技能実習生に1人で子育てをさせる決断は正しいのか

家族の問題を抱えるお隣さんたち

都内のあるマンションに引っ越して来た中越チカラ(松本潤)が、さまざまな問題を抱えたご近所の人たちとの関係を描くこのドラマ。それぞれ訳ありな雰囲気を出しつつも、どんな問題を抱えているかは謎だった住人たちだが、第5話までで各住人の問題が一通り出そろった。
そこで見えてきたテーマが「家族」。

本作の脚本・演出の遊川和彦は、手がけるドラマの中で繰り返し、「破綻したコミュニティの再生」を描いてきた。問題を抱えた学校や会社や夫婦や家族……。『となりのチカラ』では「ご近所付き合い」を再生していくのだろうと考えていたが、そのお隣さんたちが抱えている問題はすべて「家族」絡みのものだった。

チカラ自身は、高校生のときに母親を脳卒中で亡くし、後を追うように父親も自殺してしている。
503号室で認知症の祖母(風吹ジュン)と同居している高校生・柏木託也(長尾謙杜)は、両親を東日本大震災の津波で亡くしている。
404号室に住む道尾頼子(松嶋菜々子)は、息子が中学校でのいじめが原因で自殺し、夫とも離婚。娘の美園(成海璃子)とも縁を切って怪しい占いにハマっていた。
303号室のマリア(ソニン)は、地元・ベトナムに家族を置いて外国人技能実習生として来日。介護の会社で働いていたものの、妊娠を理由に解雇され、相手の男性からも捨てられた。
10年前の幼児連続殺人事件の犯人「少年A」とうわさされていた601号室の上条知樹(清水尋也)は、幼児期に母親からの虐待を受け続けていたことで自分の感情を表現することができなくなってしまった。
402号室の木次家は、父親の木次学(小澤征悦)が娘の好美(古川凛)を虐待している。
さらに管理人(住み込みなのか?)の星譲(浅野和之)は、本物の「少年A」に息子を殺されていたことが判明している。

このマンションの住人は、過去、チカラに遭遇している率がとんでもないし、家族を亡くしている率も高すぎる。第1話で星は「ここの人はみんな、いい人ばっかりですから」と語っていたが、その「いい人」たちが、それぞれ重い過去を背負っていたのだ。

何かを失った、何かが足りない家族

これまでチカラは、「普通の人が見逃してしまう小さなSOSを聞き、困っている人を少しだけ日の当たる方へ連れていくことができる」力を発揮して、各住人の問題に首を突っ込んできた。そんなチカラの行動について、妻・灯(上戸彩)は自殺した父親の気持ちを聞いてやれなかった後悔から、つらい思いをしている人を見ると放っておけなくなっているのだろうと分析している。
その体験がスタートになっているのは間違いないだろうが、第4話ではチカラの行動原理を解き明かすこんな発言もあった。

「隣にいる人を家族のように思える時代が来たら、どんなにいいだろう……とは思います」

お隣さんみんな家族発言!
これは、頼子が「このマンションに住んでいる方は、みんな私の家族です」と言って、怪しい商品を売りつけていたことに対しての発言ではあるが、チカラの本心でもあるのだろう。
確かに、チカラが首を突っ込んだ住人たちは、「お隣さんのことを気にしない現代人」を一気に飛び越えて、ほぼ親戚くらいのレベルで仲がよくなっている。

灯がたびたび指摘しているように、各住人が抱えているのは、チョロッとチカラが関わったくらいでスッキリと根本から解決できるような問題ではない。何かを失った、何かが足りない家族が、解決できない問題を抱えたまま、お互いを補い合って新しい家族を作る。
このドラマの着地点は、そんなところなのかもしれない。

好美から送られた手旗信号は?

そんな「お隣さんはみんな家族」状態からドロップアウトしているのが、娘を虐待している木次学(小澤)。他の住人たちが、すっかりチカラに心を開いているのに対し、学だけは「虐待現場を見られた」という引け目もあるのか、敵対的な態度を取っている。

第5話のラストで、娘の好美がベランダから発信してた手旗信号は「タ」。学が来たことによって途中で打ち切られていたが、「タ・ス・ケ・テ」だろうなぁ〜……。
住人の問題も一巡し、次回から二巡目。スッキリしないまま取りこぼしてきた問題に、チカラはさらに深く首を突っ込んでいくのだろう。

松本潤『となりのチカラ』3話。外国人技能実習生に1人で子育てをさせる決断は正しいのか

『となりのチカラ』

■テレビ朝日系 毎週木曜夜9時〜
出演:松本潤、上戸彩、小澤征悦、映美くらら、風吹ジュン、松嶋菜々子 他
脚本:遊川和彦
音楽:平井真美子
主題歌:上原ひろみ『上を向いて歩こう』
演出:遊川和彦、本橋圭太、竹園元、松川嵩史 他
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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