まだまだ語らせて欲しい『愛しい嘘』林遣都の演技力を信じ切ったシナリオに拍手を
中野幸(林遣都)が雨宮になりすましていたことが発覚し、「雨宮(林遣都)VS中野(林遣都)」という構図が示された最終回。
話の流れから2人が対面する、つまり、合成によって林遣都同士が対峙するシーンは避けられない。楽しみな反面、下手したら最後の最後で茶番を見せられるのでは……?と不安があったが、そこはさすがの林遣都だった。
雨宮と中野の風貌がまるで違っていた
中野に監禁されていた雨宮は、隙をついて小堀(木村了)を殺害。中野が雨宮名義の資産を全て寄付などに使い切ってしまったことを知り激昂する。
「(中野にとって大切な)今井望緒(波瑠)を殺す」と宣言し、入院する望緒の荷物を取りに来た玲子(本仮屋ユイカ)をナイフで刺して、不在だった望緒を追う。
ひとつ安心したのが、雨宮と中野の風貌がまるで違っていたことだ。監禁されていた雨宮は髪もヒゲもボーボーで肌に艶がない、対する中野は清潔感の塊。これなら2人が対面してもコメディになる心配はなさそうだ。
しかし、そんな僕の安堵の裏をかく展開が待っていた。雨宮に先回りして望緒と雨宮の母・サユリ(高橋ひとみ)を助けに来たと見えた中野の正体は、身なりを整えて清潔感の塊になった雨宮だったのだ。雨宮が中野に寄せている! 心配していたそっくりの人間同士が言い合う茶番が繰り広げられる可能性が再浮上してしまったのだ。
サユリを雑に扱う様子から望緒に正体を見抜かれた雨宮は、「昔、俺のこと好きだったんだろ?」「俺の頼み聞いてくれたら付き合ってやってもいいぞ?」と下劣な発言を繰り返す。同じ林遣都が演じているのに、雨宮は今まで僕たちが見てきた好青年の中野とは似ても似つかない性格をしているようだ。
正体を現した雨宮が望緒をナイフで脅す。そこに中野が駆けつけ「雨宮になりすます中野VS雨宮になりすました中野になりすます雨宮」という構図が完成する。顔も一緒、髪型も一緒、ファッションの方向性も一緒。しかし、何かが違う。僕のしょうもない不安を林遣都が吹き飛ばしてくれる。
不遜な歩き方、舌っ足らず気味な口調、人を見下したように斜めに構える雨宮。一方の中野は、不安や恐怖に駆られながらも、望緒とサユリを守るために言葉も挙動も全てが真摯だ。演技ひとつでこれほど別人に見えるものなのか。もはや、「整形で似せたはずなのに、そんなに似てないじゃん……」と錯覚するほど。
整形による、なりすまし展開はやや荒唐無稽と感じていたが、これだけやってくれるのならば、もう仕方ない。林遣都の演技を信じ切ったシナリオだったのだ。
母親口調に見るケジメ
このシーンの見せ場はそれだけではない。暴走する雨宮は、ナイフを構えて望緒に突進する。すんでのところで中野が身体を入れたかと思ったが、止めたのはサユリだった。実の息子の凶行を見かねたサユリが、雨宮を後ろから刺したのだ。振り返って驚く雨宮をさらにひと押し。誤魔化し続けた息子との関係を終わらせる覚悟を見せた。
「お前は人の心がわからない怪物よ。地獄に落ちなさい。お前なんか息子じゃない」
最後にかけた強い言葉は、母親らしい語り口調だった。「息子じゃない」と言いながら、母としてケジメをつけたのだ。そんな姿を見た中野は、すぐに凶器からサユリの指紋をぬぐい、自分が罪を被ろうとする。その決断の速さからも、親の愛に飢えていた中野が、いかにサユリを大切に思っていたのかが窺えた。
松村沙友理の落としどころ
これで雨宮は死亡。罪を被ったまま中野は逃走し、サユリは心労で倒れてしまう。(雨宮の死以外の)真相を警察に話した望緒には日常が戻り、あらためて漫画の新連載の話が進む。ここで登場したりえ(松村沙友理)の落とし所がちょうどよかった。
これまで望緒に嫌がらせをしてきてばかりだった、りえ。望緒へのファンレターを隠していたことが発覚し、先生である漫画家・ヒロコ(西尾まり)から謝罪を促される。しかしりえは「望緒先輩には負けません。負けませんから!」と勝ち気な態度を崩さなかった。
中途半端に改心するよりも、全ては自分の連載のためという強いエゴを見せる。これだけツッパられたらヒロコも「どうするこの子?」と笑うしかない。もちろん望緒も同じ気持ちだろう。話を引っ掻き回した脇役に似つかわしい最後を用意する。このドラマのバランスの良さを示すシーンだ。
思い出の絵に雨宮がいるのは
りえから返されたファンレターは、昔からの唯一のファン、クロからのものだった。クロの正体に当たりをつけた望緒は、雑誌のホームページを使いクロにメッセージを送る。「初めて会話をしたあの場所で会えませんか?」。あの場所……中学の美術室に現れたのは中野だった。
中学の美術の課題で、望緒は放課後まで残って中野を写生していた。中野にとってこれが望緒との唯一の大切な思い出だ。両親からDVを受け、クラスにも馴染めなかった中野にとって、望緒の存在は救いだった(望緒にとっても、このときの中野の賛辞が漫画家を志すきっかけになったのだが)。
メッセージに応えて美術室を訪ねたら、命を絶とうとしていた中野。だが望緒のお腹に自分のこどもがいることを知って、生きる覚悟をする。
全編を通して本心の見えなかった中野が、普通の感情を持つ人間だったことが明らかになっていく。雨宮になりすますための偽装工作の綻びは、望緒への思い、偽の母であるサユリへの愛からくるものだった。嘘が暴かれ、闇が晴れていくに連れて、偽の雨宮から中野幸になっていったのだ。
しかし、中野が犯した罪は小さくない。そのまま望緒と幸せに……とは行かず、自首を決める。だが、ラストで校舎を包囲した警察に紛れていた正(徳重聡)に刺されてしまう。中野のその後は描かれなかったが、その後の望緒が娘に「ミユキ」と名付けているということは、死亡したということだろう。
中野を呼び出した美術室で望緒が描きあげた中学時代の思い出の絵には、中野の姿が付け加えられ、苦い思い出となった雨宮の姿もあった。望緒にとって憧れた理想の雨宮がいて、そこによく笑う中野がいる。どちらも現実ではなく嘘だ。だがその嘘こそが愛しい思い出なのだ。
- レビュー3回目:考察『愛しい嘘』5話「逃げなさい、あなたも殺されるわよ」ますます怪しい雨宮(林遣都)と、もうひとり
- レビュー2回目:考察『愛しい嘘~優しい闇~』3話。優美(黒川智花)が殺したかったのは本当にDV夫だったのか
- 初回はこちら:『愛しい嘘~優しい闇~』1話を考察。望緒(波瑠)は、なぜ「中野幸」を「くん付け」したのか?
■テレビ朝日系 毎週金曜夜11時15分〜
出演:波瑠、林遣都、溝端淳平、本仮屋ユイカ、新川優愛、黒川智花 他
脚本:丑尾健太郎、神田優
音楽:横山克
原作:愛本みずほ『愛しい嘘 優しい闇』(講談社「Palcy」連載)
主題歌:神はサイコロを振らない「イリーガル・ゲーム」(劇中歌「あなただけ」)
演出:樹下直美、日暮謙、木内健人
プロデューサー:大江達樹(テレビ朝日)、中込卓也(テレビ朝日)、山本喜彦(MMJ)、小路美智子(MMJ)
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