考察『逃亡医F』8〜9話「そんなにちいさな世界くらい清く正しく保ちたいな」藤木の悔恨

恋人殺しの容疑をかけられた天才外科医・藤木(成田凌)が、警察や追っ手から逃げながら、行く先々で人々を助ける『逃亡医F』。恋人の残したことばの意味を理解し、藤木はとうとう真相に近づいていく……。本日最終回を迎える『逃亡医F』8、9話を振り返ります。

めまぐるしく展開する復讐編

恋人・妙子(桜庭ななみ)殺しの嫌疑をかけられ、追っ手から逃れながらゆく先々で医師として人々を救う『逃亡医F』。8話からは「反撃編」と題され、藤木(成田凌)たちは妙子の死の真相へと近づいていく。

都波(酒向芳)が遺した言葉から、藤木たちは妙子のデータを補完する都波の研究データを手に入れる。これによって「DDSη(イータ)」が完全なものに。そして藤木は、妙子が残した言葉「私になにかあった時は都波さんとあわせて」が「会わせて」ではなく「合わせて」だったと気づく。

次に藤木たちは妙子の死の真相を握っているらしい佐々木(安田顕)に近づくため、後輩・長谷川(桐山照史)に接触する。長谷川は病気を抱える妻・浩子(大後寿々花)に高価な薬を佐々木から提供してもらっているという弱みから従わざるを得ず、妙子を佐々木に紹介したり、偽の死亡診断書を書いたりしていた。さらに長谷川は藤木から「DDSη」のデータを奪おうとする。しかし浩子が急変。藤木たちはこっそり帝都医大に忍び込み、緊急手術をして浩子とお腹の中の子どもを救う。

「そうやってその子を抱きかかえている間、その子にとってお前の腕の中が世界のすべてだ」「そんなにちいさな世界くらい清く正しく保ちたいな」。都波の命が消えかかっている瞬間、自分が真相につながる言葉を聞き出すことを優先してしまった藤木は、そのことを悔いている。だからこそ、都波の家に火をつけた長谷川にも、厳しい言葉をかけたのだろう。長谷川はこの言葉で自首を決意したのかもしれない。

拓郎の信頼を獲得した藤木

佐々木は自らが開発した薬の実用化のため、妙子のデータを必要としていたのだった。烏丸(前田敦子)は藤木たちに妙子が生きていることを告白し、彼らに協力することに。藤木は佐々木と直接対決し、ハッタリをかまして佐々木の開発した薬を得て、意識不明の妙子の目を覚まさせるために治療を行う──。

拓郎(松岡昌宏)は7話までの団地などでの時間を経て、ようやく完全に藤木のことを信じてくれたようだ。自衛隊出身で妹思い、妹の復讐のためならすぐに極端な行動に出る彼が、味方になるとこんなにも心強いものかと思う。8話の「敵を落とすには一番弱いところから攻めるのが常套手段だ」という経験から出たらしき言葉。妙子の事件が解決するまで自分は「鬼になって生きる」が藤木には「お前まで鬼になったら妙子が悲しむからな」というセリフ。極め付きは9話で筋川(和田聰宏)の「逃亡犯が俺の部屋にいるよ」という言葉に対して答える「安心しろ、俺の親友だ」。

美香子(森七菜)は迷う藤木にまっすぐな言葉で訴えかける。拓郎は藤木をしつこく追い続けたその行動力で藤木を支える。敵の内情を知る烏丸が味方についたのも強力な援護だ。孤独に逃げ続けていたはずの藤木が、いまはこんなにもたくさんの人々に助けられているのだ。

カタルシスあふれるびしょ濡れシーン

脚本の福原充則がつくる作品には、よく水が出てくる。『あなたの番です 劇場版』では登場人物が海の上でびしょ濡れになるシーンがあるし、彼が演出を手掛けた唐十郎作の舞台『秘密の花園』では、舞台上の人間を押し流さんばかりの量の水が、降り注いだ。そしてこの9話で、妙子たちがいる部屋のセキュリティをスプリンクラーを作動させることで突破した拓郎、美香子、拓郎の後輩・今野(山根和馬)は土砂降りの水を浴びながら登場した。3人の立っている姿は文句なしにかっこよかった。このシーンこそが、このドラマのクライマックスだ! と思わずにはいられない。

どんどん妙子の真相に近づいていくシリアスな展開ながら、佐々木と部下・幹(堺小春)というクセのあるキャラクター、都波が遺したデータを古本屋から奪おうとするシーン(藤木の部屋にもあった『解体新書リターンズ〜転校生は杉田玄白17歳〜』が再び!)、突然出てくるガンバ大阪の片野坂監督の名前と、ところどころで笑ってしまうシーンが挟まれるのがにくい。

いよいよ最終回を迎える。妙子を連れ出した藤木たち。あとは大団円に向かっていくばかりかと思いきやそうでもないらしい。藤木は、そして妙子はどうなるのか、最後まで見守りたい。

『逃亡医F』

■日本テレビ系 毎週土曜夜10時〜

出演:成田凌、森七菜、桐山照史、前田敦子、安田顕、松岡昌宏 他
脚本:福原充則
音楽:今堀恒雄
原作:伊月慶悟、佐藤マコト(作画)『逃亡医F』(Jコミックテラス)
主題歌:奥田民生「太陽が見ている」
演出:佐藤東弥、大谷太郎 他
チーフプロデューサー:三上絵里子
統轄プロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:藤村直人、本多繁勝



ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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