松本潤『となりのチカラ』3話。外国人技能実習生に1人で子育てをさせる決断は正しいのか
遊川和彦脚本・演出、松本潤主演の『となりのチカラ』。都内のあるマンションに引っ越して来た中越チカラ(松本潤)が、さまざまな問題を抱えたご近所の人たちとの関係を描くこのドラマ。
これまでDVや認知症、ヤングケアラーなど、一般家庭にも起こり得る身近な問題に首を突っ込んできたチカラ。第3話では外国人技能実習生という、ややデカい社会的な問題に首を突っ込む。
旬の話題を取り入れてはいるが……
303号室の住人・マリア(ソニン)は、2年前にベトナムからの外国人技能実習生として来日。半年前から介護関係の会社に勤めていたが、会社の男性と関係を持ったことで妊娠。「実習生にベイビーできて仕事休まれたら大損害」と、会社をクビになったのだという。
相手の男性とは連絡が取れなくなり、借金があるため母国にも帰れない。仕方なくマンションの一室でベトナム式マッサージ店を営んでいたが、性的なマッサージと勘違いした男から体を触られ……。
LGBTや特別養子縁組、シングルファザーなど、その時々に話題となっている社会問題をドラマに取り入れてくることも多い脚本家・遊川和彦。外国人技能実習生や出入国在留管理庁(入管)の問題も、最近ニュースなどで耳にすることが多い話題だ。
ただ今回のエピソードは、外国人技能実習生の待遇の問題なのか、日本政府の移民政策や入管の問題なのか、外国人女性に対する日本人男性の態度の問題なのか? いろいろ盛り込んだせいで何をテーマにしようとしているのかがボンヤリしてしまっている。
「日本人の男みんな最初は優しいフリして、困ったらみんなウソつくんですか? いい人のフリして体触ったら急にエロ親父になるんですか?」
マリアの日本人男性評を聞くに、外国人技能実習生というワードを入れつつも、結局は「外国人女性を都合のいい性の対象として見ている日本人男性」という、ちょっと古い切り口がテーマとなっているようだ。
父親の代理でサインするチカラ
これまでも、優柔不断なチカラが隣人の問題に巻き込まれ、引っかき回すだけ引っかき回した揚げ句、スッキリとは解決しないまま終わるというパターンが続いてきたが、今回はさらにモヤッとする結末。相手の男性に拒絶されたことで、堕胎手術を受けることを決めたマリア。しかし手術には父親の署名が必要ということで、チカラが代理でサインすることになってしまう。
もはや優柔不断ではなくて思考停止だ。
結果的にマリアは手術をやめて子どもを産む決断をする。チカラの妻・灯(上戸彩)のフォローもあり、解雇手当などを受給できるようにはなったものの、仕事も身よりもない日本で、女性が1人で子育てをしていくのは相当ハード。妥当な結末ではあるが、これでめでたしめでたしとしてしまっていいのだろうか。
そこで重要になってくるのが「となりのチカラ」ということになるのだろう。チカラが引っ越してくるまで、住人同士の交流はほぼなかったと思われるマンションだが、チカラが引っかき回したおかげもあり、お互いにあいさつする程度の交流が生まれてきている。
お隣さんたちの協力があれば、外国人(技能実習生)女性1人でも子育てできる! ……的な結末を目指しているのかもしれないけど、さすがにそれはファンタジーすぎないだろうか。
現実路線か、ファンタジー路線か
第3話ということで、このドラマのフォーマットも見えてきた。
チカラがマンション住人のトラブルに巻き込まれ、なんだかんだ引っかき回すものの、解決の糸口は見えない。そこで、チカラがその住人と過去に出会ったことがあることを思い出し、問題が少しだけ改善される……。
チカラは他人の話を何時間でも聞くことができることくらいしか特技がないとのことだが、関わるマンションの住人に何年も前に会ったことがあり、しかもそれを思い出すことができるというのは十分に特殊能力だ。
都会のマンションでは隣人すら何をやっている人なのか分からないし、興味を持たない。自分とは関係のない人間だと思い込みがちだが、その隣人とは過去に関わったことがあるのかもしれない……。確かにその可能性はあるんだけど、関わる住人、関わる住人、みんなに会ったことがあるというのは、これまたファンタジーすぎる。
遊川和彦は、現実の厳しさを必要以上に露骨に描きたがる反面、「魔法の国を作る」みたいなファンタジックな展開も好む脚本家だ。本作ではどっちに着陸するのだろうか。
■テレビ朝日系 毎週木曜夜9時〜
出演:松本潤、上戸彩、小澤征悦、映美くらら、風吹ジュン、松嶋菜々子 他
脚本:遊川和彦
音楽:平井真美子
主題歌:上原ひろみ『上を向いて歩こう』
演出:遊川和彦、本橋圭太、竹園元、松川嵩史 他
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
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