小栗旬×松山ケンイチ『日本沈没ー希望のひとー』6話。天海は確かにヒーロだけど、副総理の「日本は沈みませんよ」 に共感してはだめですか?

小栗旬主演の TBS 系日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』。原作は1974 年に刊行された小松左京の小説「日本沈没」。2023 年の東京を舞台に、沈没という見えない危機が迫るなかで「見出していく希望」をテーマに描かれます。第二章「日本沈没」の初回となった6話では、一度は「最大の危機は避けられた」と宣言した田所博士(香川照之)が第二波の予兆を感知。「前回よりも恐ろしい第二波がくる」と前言を翻します。国民の避難場所を求めて奔走する天海(小栗旬)たち未来推進会議メンバーだが、そううまく事は運ばない。そんな中、田所博士の行動に嫌疑がかけられ、里城副総理(石橋蓮司)は「田所は詐欺師、日本は沈まない」説を強硬に主張し始めて……。
小栗旬×松山ケンイチ『日本沈没ー希望のひとー』5話。公衆電話を奪い合う光景に心がエグられる……今夜から第二章「日本沈没」へ

第6話から第2章が開幕。次は日本全体に沈没の危機が襲いかかる。関東沈没がまるで序章だったかのような恐ろしい未来だ。
これまで悪役のように描かれてきた里城副総理(石橋蓮司)の見え方が変わった回でもあった。果たして里城は私利私欲にまみれた、ただの汚い政治家なのだろうか?

沈没初心者たちによる挑戦

関東湾岸部の沈没から立ち直り、天海(小栗旬)ら未来推進会議は復興計画を進めていた。そんな中、田所博士(香川照之)は「前回よりも恐ろしい第二波がくる」と研究結果を改めた。しかも今度は日本全体を襲うという。何も知らない国民たちの前向きな姿が辛い。

シンプルな話だが、関東が沈没するのならばその他の土地へ逃げればいい。もちろん簡単なことではないが、国政にも地震にも詳しくない人間でもわかることだ。しかし、国全体が沈んだ場合は、一体どうなるのだろうか?

天海たちは次善の策として海外の受け入れ先を探していたが、ハッキリ言ってピンとこない。仮にオーストラリアが受け入れてくれたとして、1億3000万の日本人はオーストラリア人になるのか、それとも日本人のままなのか? 果たして日本政府はその日本人たちを管理できるのか?

じゃあ受け入れ先が何ヵ国かに分散したら場合は? そもそも国土がなくても国は成立するのものなのか? 他にも言語や仕事、現在日本で保有している資産はどうなるのか? いや、そういえばパスポートはいるの? 持ってない人は? 作る余裕ある? 代わりに何かしらビザ的なものを用意するとして、それは誰が作るの? もう何から何までわからない。

前代未聞なのだ。過去の歴史をどれだけ遡っても答えなんてありはしない。そんな中で1億3000万に守ろうと前を向き続けるなんて難易度が高すぎる。未来推進会議のメンバーが取り乱すシーンがあったが、あれが普通。いや、なんなら逃げずに国民を守ろうとしているだけ偉いと思う。天海、常盤(松山ケンイチ)のメンタルが太すぎるのだ。

悪徳政治家からの変貌

一方で里城は、田所博士がDプランズ社に情報を流した疑いがあると東山総理(仲村トオル)に報告する。田所を「稀代の詐欺師」と決め、「日本は沈みませんよ」と断言。結果、田所博士はDプランズから金品を流したとして任意同行されてしまう。唯一無二の地震学者が退場する絶望的なシーンだ。

里城は、経済を重んじるばかりに国民の命を軽んじるような政策ばかり計画している。関東沈没の際も最後まで信じない老害のように映っていた。現に天海や常盤を権力で操ろうとする場面もあり、すばらしい人間とは言い難い。

しかし、「日本は沈みませんよ」が悪意のみからくるものとは思えない。絶望を受け入れるのではなく、復興という希望を見ているからこその言葉だ。「この国が沈んでたまるもんか!」という訴えなのだ。里城は悪い人として演出されがちだが、感情自体はいたって一般的なモノなのではないだろうか。

僕だってお金があって外国語が堪能でよその国でも余裕でやっていけるような自信があれば、日本を捨てて豊かな国に移住することを考える。しかし、よその国でやっていく自信がない僕はきっと「日本が沈むわけない!学者の言うことなんて当てになるか!」と言い張る。

どこかで「もしかして…」と思っても、沈没を信じてしまったら辛すぎるから信じないのだ。里城もきっと同じだ。里城もきっと日本でしか生きられない人なのだ。だから、沈まなかった時のことを考えて必死で経済を守る。国民を守るためにも、日本の価値を下げないようにと奔走しているのだ。

憎たらしい悪徳政治家から、人間味のあるおじいちゃんに変貌しつつある。このドラマのヒーローは天海だが、最終的に一番感情移入できる人物は実は里城なのかもしれない。

小栗旬×松山ケンイチ『日本沈没ー希望のひとー』5話。公衆電話を奪い合う光景に心がエグられる……今夜から第二章「日本沈没」へ

日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』

TBS系毎週日曜よる9時~
原作:小松左京「日本沈没」
出演:小栗旬、松山ケンイチ、杏、ウエンツ瑛士、与田祐希(乃木坂46)、國村隼、風吹ジュン、比嘉愛美、宮崎美子、吉田鋼太郎(特別出演)、杉本哲太、風間杜夫、石橋蓮司、仲村トオル、香川照之ほか
脚本:橋本裕志
音楽:菅野祐悟
演出:平野俊一、土井裕泰、宮崎陽平
プロデューサー:東仲恵吾
企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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