Netflix『炎のガラス・マイスター:クリスマス編』日本人挑戦者・ナオの作品「ガラスのおせち」の漆のような赤にゾクゾク
●熱烈鑑賞Netflix 95
心躍る、クリスマスの敗者復活戦
「火を眺めていたい」という人の欲求は、根源的なもののような気がする。21世紀の今もなお焚き火だけを映すチャンネルが人気を集めているし、空前のキャンプブームも「焚き火がしたい」という思いがかなり大きいのではないか。
そんなことを思いながら私がNetflixで観ているのは『炎のガラス・マイスター:クリスマス編』だ。軽い気持ちで観はじめたシリーズだが、つい目が離せなくなった。
そもそもリアリティ番組、しかもバトルものが好きで、Netflixではドラマ以上に料理対決番組を好んで観ている。『炎のガラス・マイスター』はガラス職人たちが集い、テーマに沿った作品を作ってその腕を競い合う番組で、2019年にスタート。これまでに2シリーズが配信されている。
『炎のガラス・マイスター:クリスマス編』はその特別版。過去2シーズンで惜しくも散っていった挑戦者の中から5人が再び招集され、クリスマスをテーマとした4つの課題に挑戦。課題ごとに一人ずつ脱落者が決まり、最後に優勝した職人に賞金2万ドルとチャンピオンの称号が与えられる。
敗者復活戦はいつでも心躍るもの。敗退していったけれど自分が思い入れを持っていた挑戦者が再び戦いの場に戻ってくるのは単純に嬉しい。シーズンを超えての招集にはアベンジャーズ感もある。シーズン2でいつも美しい作品を作っていた、ふだんは量産ガラスの製造に携わっているキャットと、同じくシーズン2の日本人挑戦者・ナオの登場に興奮せざるを得ない。とはいえ、過去のシリーズのストーリーを引きずってはいない独立した戦いだから、「クリスマス編」だけで充分楽しめる。
ガラスのおせち、お重の赤
誰もが一度はテレビなどで観たことがあるだろう、ガラスの製作工程。原料を竿の先につけ、溶解炉に突っ込んで1000℃を超える炎でどろどろに溶かし、成形して冷やし固めると、あの透明なガラスができあがる。溶鉱炉で燃えさかる炎、とろけるようなガラスの質感、冷えて完成すると全く違った色と質感が現れる不思議さ、そして割れると一瞬で凶器に変わる怖さ。ガラスづくりには、身体の奥をぞわぞわさせる要素がたくさん詰まっている。
手づくりの吹きガラスを作るのは、身体に相当な負担をかけるらしい。重いガラスを成形するには全身の筋肉を使う必要がある。製作中には火の粉がガンガン飛んでくる。炎を見続けることで目にも負荷がかかる。元々目が弱く、さらにガラス作りに携わっていることでどんどん視力が悪化している挑戦者もいた。それでも「やめるなんて考えられない」とガラスを作り続ける。
今回は思い出のプレゼント、お祝いのごちそう、ツリーのオーナメントなど、クリスマスにぴったりの課題が出される。プレゼントやごちそうには写実的なガラス作品を作る技術が求められるが、ツリーなどの後半では空間の構成力やストーリー性、全体のバランス、量産する能力なども要求されていく。
どれもよかったけれど、「お祝いのごちそう」回でナオが作ったガラスのおせちをぜひ観てほしい。審査員が「器の内側がもっと鮮やかだったら」と評したけれど、いかにもおせちのお重らしい、漆のような赤がガラスで再現されていることが私たちにはわかるのだ!
1万ドルの寄付をかけて戦う挑戦者たち
感銘を受けたのが、その商品。1万ドルを優勝者の希望する慈善団体に寄付。優勝した本人にも1万ドルが与えられるが、それは事前に知らされず、1回戦の全員が集まったところで付け足しのように発表される。再び集まった挑戦者たちは、最初は賞金目当てではなく自分たちの腕を試すために、そして大きな寄付ができるという名誉のためにやってきているわけだ。やっぱり日本とはクリスマスに対する視線がぜんぜん違うんだなと思わされる。
それぞれが選ぶ慈善団体も、彼らの生い立ちや生き方に深く関わっている。自分が依存症に苦しんだからと依存症の支援団体を選ぶ者。「私は人間よりも犬が好きだから」と動物愛護団体を選ぶ者。ナオは「10年前に日本で地震があって」と、危機に直面した人たちに安全な場所を提供する国際団体を選んでいた。
本編とは関係のない見どころとして、各挑戦者がインタビューシーンで着ているクリスマスにちなんだセーターがかわいい。ここ数年、日本でもクリスマスのダサセーターが「ダサかわいい」と注目を集めはじめている。けれど雪に彩られたレンガ造りのガラス工房の中、思いっきりクリスマスらしい世界観の中で見るサンタやトナカイの柄のセーターは純粋にとてもかわいくて、クリスマス気分が最高に高まる。クリスマスムービーのひとつの選択肢としての『炎のガラス・マイスター:クリスマス編』、おすすめです。
出演:ボビー・バーク
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